第十五話:この道の彼方
久しぶりに奴から電話がかかってきた。
「紅葉が見たくてさぁ、どっか行かない?」
「え?バイクで?」と俺。
「もう我慢できなくて」と奴が言う。
「ははは、じゃぁ、近場なw」などという会話で行先を決める。
花貫渓谷という紅葉スポットがある。
この時期は、一部の道を歩行者天国にして車を侵入禁止にするほど、すばらしい紅葉の道路もある。
いつもの常陸太田の道の駅で待ち合わせる。
奴は首のコルセットも取れたようで、いつもと変わらない出立だ。
道の駅でお互いのバイクを停めて、少しだべって近況報告をする。
「首の具合はどうなの?」と聞くと
「もう全然平気だよ」と奴は答える。
「久々の09はどうだい?」と言うと
「実は少しは乗っていたんだよ」との答え。
少し安心した。
R349を真っすぐ北上して、R461を右折すれば、すぐに花貫渓谷につながる。
どちらもいい道でデコボコもないので、リハビリにはちょうどいいかもしれない。
R461は新しい道で路面もよくコーナーも多く走りがいのある俺の好みの道だ。
R461に曲がると、そこからすぐに紅葉が、そこかしこに見えてスポットに行く前からとても美しい。
今日は国道をつないでいるだけなので、迷うポイントもない。俺が先行だ。
紅葉の森を走っていると、葉っぱが紅いのではなく、空気が紅いんじゃないかと感じる。
森も光も空気もどれもが一体となって紅葉の景色を彩っているかのようだ。
森の中の峠をいいペースで抜けていく。
奴は「俺はへたっぴだから」とか言いながら、いつも早いペースの俺に普通についてくる。
バイク歴は俺の方が長いのに。
奴の前を走っているので、S字の切り返しは見せどころだ。
S字の頂点と頂点を結ぶ様に直線を描く。
その瞬間、周りの音も周りの風景も何の匂いも感じない。道路上にある見えないラインだけが見える。
最初の右コーナーの速度に合わせて減速。フロントフォークを沈める。
沈めたフロントフォークが伸びるタイミングに合わせてスロットルを開けると車体が安定した。その伸びと加速に合わせて右にバンクしていた車体を左のバンクに切り返す。こう言うS字が俺のコーナーの一番の醍醐味だ。
そこから何コーナーか曲がるが、バックミラー越しに奴の09が付いて来ていなかった。
「また、余裕をブッこいて遊んでやがるな」と思った。
頂上の駐車場の端の方に07を停める。
少し遅れて奴の09が横に並ぶ。
奴が興奮気味に言う。「あそこのS字でいなくなっちゃったからよう、道を曲がったんだと思って、横道を探しちゃったよ。あそこで見えなくなったぞ。」
「俺はよう、昔からS字が好きなんだよ。」と答える。
どうやら、俺の07の本来の力を奴の09に見せることができたようだ。
ここまでのチューニングで狙っていた、ヤマハ本来のグッドハンドリングを見せられたようでヘルメットの中でにんまりした。
昔見たあの左甚五郎のリスの彫刻のような美しいラインを俺は描けていたのだろうか。昔の写真の自分より美しいラインだったのだろうか。
俺の相棒の07を見ると「お前がやるなら、俺はまだまだ行けるぜ」と言っているようだ。そんな俺の相棒を俺は誇らしく思う。
「09なら立ち上がりで十分だからなw」と奴が言う。
「今度はAモードで来いよw」と返す。
「そっちの方が開けられねーよw」
どうでもいい、たわいのないじじー同士の会話が、俺の性には合っている。
バイクが俺の青春とするならば、奴は俺の宝物だ。




