第23話 はじめての共闘
ホームに戻るため、森に戻ろうとした時、獣道の入り口から少し離れたところに、雰囲気の違う場所があるのに気付いた。
「あれは!」
思わず声が出る。
「……? あの森が、何か?」
「竹林だよ竹林! 竹さえあれば、これまで作れなかったものが色々作れるぞ」
「……ええと、フィラメント、とか?」
「いや世界観!」
ゲームのマニュアルはちらっと見ただけだが、電球のあるような科学文明の発達した世界ではなかったはず。
「皿とか鍋の代わりにもなるし、米さえあればご飯も炊ける」
「……じゃあ、がんばってお米も探さないと」
「その前に、あいつを何とかしないといけないみたいだな」
俺たちが竹林に近づくと、それを迎え撃つようにのっそりと歩み出したものがいた。
その外見は、普通のヒキガエルに見えた。ただし、その大きさは、現実世界のトラックに匹敵する。それこそ、人間ひとりくらい丸呑みにできそうな。
そんな巨大なカエルが、まっすぐ俺たちの方へと向かってくる。
動きは遅く、走れば逃げられそうではあるが。
【ギガトード】 魔獣 Lv.8
「そういやあ、魔獣って何だろう」
「……ある種の魔力の影響を受けて変化した生き物、という設定」
「もしかして、魔法使ってきたりする?」
「……中ボス以上ならともかく、レベル一桁ではそれはなさそう。ただ、小エリアのボスになっていることも多い」
「ということは、竹の素材が欲しければ、あいつを倒せと?」
「……多分」
改めてその姿を見て、俺はカズハに言うでなく、ぽつりとつぶやいた。
「なんか、いやな予感がするなあ」
「……そう?」
俺と反対に、カズハの声にはなにやら嬉しそうな響きがあった。
ちらりと横目で見ると、これまで見たことのない笑顔を浮かべる彼女の姿があった。
「な、なんかいいことでもあった?」
「……ん。誰かとこういうゲームする機会はこれまでなかったから、なんていうか、興奮、してる」
「え……?」
戸惑う俺を、カズハは呆れたように、いわゆるジト目で見つめてくる。
「……あのね、興奮って、別にえっちな話だけじゃないんだよ」
「い、いや、そういう話じゃなくて」
「……あ」
カズハの驚いた顔とともに、俺とカズハの上に影が差す。
「しまっ……!」
ノロノロ歩いていると思っていたギガトードが、いつの間にか俺たちのすぐそばに来ていた。
さすがにモンスターの前で今の会話は、油断しすぎだ。
大きく開いたカエルの口から舌が伸び……。
◇
余談であるが、英語でカエルを意味する単語には少なくとも2つあり、ジャンプ力の低いヒキガエルがトード、一般的なよく跳ねるカエルはフロッグと呼ばれる。
なんてウンチク披露してる場合じゃない。
丸呑みされた。
「……今、点灯する」
暗闇の中、いつになく近くからカズハの声が聞こえた。
急に視界が明るくなる。カズハのガイドフォンが光源となり、狭い洞窟のようなカエルの体内を照らしていた。
そこでようやく、現状が判明する。
人がふたり入ればかなり窮屈な場所で、四つん這いになった俺の上から、カズハがうつ伏せで覆いかぶさっている状態だ。別の見方をすれば、カズハをおんぶした状態で前に倒れたような形。
どうしてこうなった。
いやこの体勢は多分、とっさにカズハをかばおうとしたせいだとは思うが。
「……ねえ、これ、よくマンガで見るやつだよね」
「丸呑みが!?」
「……ううん。二人で閉じ込められるやつ」
「それ普通、ロッカーとかでやるやつじゃないか」
「……確かに、ロッカーに閉じ込められるのはよく見る」
「カエルに丸呑みも何かのラノベで見たことあるぞ」
「……以前わたしが貸したやつ」
「ふたりまとめて丸呑みは見た事ないが」
「……もしかして、高校生には見られないところにあったりする?」
「高校生だから知らんけど」
「……で、どうする? ふたりで暴れるには狭すぎるし、ひとりが暴れたらフレンドリーファイアなくてももうひとりはもみくちゃになりそう」
「う……またなんか変なトラウマ発生しそう」
俺の視界に赤い3という数字が浮かび、下にスライドして消えた。
「やっぱり、ダメージ発生してるな」
「……消化、されてる?」
「このままヒットポイントが0になるか、その前にドクターストップがかかるか」
「……ねえ、こっち、向いて?」
「いや無理!」
こんなおんぶ状態でもやりにくいのに、向き合うとか心臓の負担が大きそうだ。
「……ゲンの女性恐怖症も、ちょっとは改善するかも」
「荒療治すぎる!!」
いや、むしろこのままドクターストップがかかる方が一番いいのか。一瞬そう思ったが、それだとカズハが置き去りである。
カズハひとりなら何とかなるかもと思ったが、その前にできることはやっておきたい。
とはいえ武器も振りかぶれないこの状況で、大ダメージを与えられる方法なんて……。
そんなことを考えていると、体が持ち上げられるような感覚があった。
「……きゃあっ!?」
ゆっくりと浮いたと思ったら、急に元のところに落とされる。
3度、4度と、同じようなことが繰り返された。
まだひとりならともかく、カズハとまとめて振り回されるのは非常にやりにくい。
「……なにこれ? 地震?」
「いや、カエルが動き出したみたいだが、さっきまでと動きが違う」
最初に見た時は、もっとゆっくり歩いて近付いてきていた。
こんな軽めの絶叫マシーンみたいな揺れが発生するとは思えない。
「様子がおかしい。このカエル、何かから逃げて……いや、襲われてる!?」
直後、衝撃が体を突き抜ける。カエルの体内で拘束されたまま、体が一回転する。たぶん、カエルごとひっくり返された。
「ぐはあっ!」
「んにゃあっ!」
「ごめん。悪いけどあまり体重をかけないでくれるか」
「……ごめん、無理」
そういやこの体重ってリアルの……いや今そんな場合じゃない。
「……絶叫マシーンみたいなのははじめてだけど、ひとりじゃなくてよかった、かも」
「こんなバカップル御用達みたいな絶叫マシーンがあるか」
さらに、衝撃がカエルを襲う。
「ひゃあっ!?」
「待てしがみ付くな! いやしがみ付くのは仕方ないが、もう少し力を抜いてくれ!」
カズハが戦士職についているせいだろうか、ハグを通り越してベアハッグと化している。ちょっと痛い。
カズハに声を掛けようとして、上体をひねる。
フレンド以上、ほぼ恋人みたいな距離で、目と目が合った。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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