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彼方の島の夏休み ―不思議系少女と過ごすネットゲームの夏―  作者: 広瀬凉太
第二章 ふたりの冒険

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第22話 彼女のおさがり

「さて、じゃあ今日は拠点に戻って本格的に作業するか」

「……ちょっと待って。初心者の服じゃ心もとないから、私のお古、あげる」

 心配そうな声でそう言うと、カズハは鉄製のフルプレートアーマーを自分のガイドフォンから引っ張り出した。

 しかし、その体型はどう見ても女性用。身長も、たぶんカズハに合わせたものなのだろう。俺より10センチと少し低い。


「いや待てそれはまずいだろ」

「……大丈夫」

 俺はこの前死にかけたし、心配してくれているのは理解できるけどさぁ。同い年の異性のお古って……。


「こういう鎧って普通オーダーメイドするもんじゃないの?」

「……問題ない」

「いや説明しろ!」

「……例えば、男勇者のパーティーが新しい鎧を手に入れたとする」

「ああ、うん」

 現実でも、時々変な脱線するからなあ、この人。たまにそれが脱線じゃなくてとんでもなく強引なショートカットだったりするから大変なんだ。

 

「……それを勇者が装備して、それまで勇者が()けてた鎧を、次は女戦士が装備する」

「待て」

 いや言いたいことは理解した。理解したけど。


「それ昔のゲームの話じゃないか」

「……今のゲームも同じ」

「いや、体格違うし。それに、画面上のキャラにデータだけ移すのと、VRで自分が着るのとは全然違うだろ」

「……別に匂いは付かないし、戦っても汚れることはないから大丈夫だよ。敵の攻撃で傷付くことはあるけど」

「何か論点ずれてない?」

「……あと、プレイヤーの性別と体格によって、装備も変形する」

 いやまずそれを先に言え。


「つまり、女性用を俺が装備したら、男性用になると?」

「……うん。これもテストプレイの一部だから」

 テストプレイとか言われると、さすがに断りづらい。


「わ、わかった。ちょっとだけだぞ」

 何がちょっとなのか自分でもよくわからん言い訳をしつつ、カズハから(よろい)を受け取って装備を変更する。

 鎧は手に持っていたので、初心者の服が入れ替わりに手の中に出現する。


右手:[エノキの棒]

左手:装備なし

頭:[鉄の(かぶと)

腕:[鉄の小手]

胴:[鉄の鎧]

腰:[鉄の腰当(こしあて)

足:[鉄の具足(ぐそく)


 鎧が上下に分かれているのは、ゲームではよくあることか。

 棒が異質なのもとりあえず置いておくとして。


「……じゃあ、こっちも」

 カズハに感想を聞こうとしたが、彼女はそれより先に俺が持っている初心者の服に触れる。直後、カズハが装備中の軽装の金属鎧と入れ替わった。

 そして彼女は、自分が装備した、俺がさっきまで着ていた服の胸元を引っ張り、匂いを嗅ぐ。


「匂いなし。チェック終了、でいいよね」

 えーと、いや、ほんとにそれでいいかと聞かれると……。

「ん……まあ、いいんじゃないか」

「……ゲンがそう言う言い方をするのは、何かある時」

「うぅ……」

 バレている。部活でも話をすることは少ないが、全く交流がなかったわけでもないから。

「……ちゃんと言って。ゲームの運営に差し支えると困るから」

 業界人の顔で、カズハが問い掛ける。

「いやこれ、下手に言うとセクハラって言われかねないから」

「……別にゲンにちょっとくらい変なことされても、セクハラとか思わない、よ」

 真面目な顔でそんなことを言い返される。

 変なことって何だよ。ちょっとぐらいってどれくらいだよ。

 いや別に、セクハラをするつもりはないが。

「……あ、対照実験」

 うわ、気付かれた。


 要するに、カズハの着ていた服を俺が着て、それで何の匂いもしなかったからといって、ゲーム上で匂い移りが再現されていないとは言えない。

 なぜなら、現実世界の彼女が無臭の可能性があるからだ。

 だから、本物に匂いがあってもゲーム内でそれが再現されないことを確認するには、現実世界で彼女の服の匂いを嗅ぐ必要がある。

 できるかそんなもん。


「確かにあのゲームギアで体格とか筋力とかスキャンされるけどさあ、体臭まで取得して再現できるものなのか? というよりその必要ある?」

「……その辺は専門外だからよく知らない」

「二人で服交換してお互い匂いを感じなかったから、大丈夫じゃないか? 二人揃って無臭というのも考えづらい」

「……それは、科学を信じるものの言葉じゃない」

 なんかまじめなこと言っているけど、たぶん本音は下心……。


「そりゃそのとおりだけど。去年みたいに俺が倒れるかもしれんぞ」

「……うう」

 何やら不満そうに、カズハは小さくうめき声を上げた。


「そろそろ出発か。拠点をちゃんと整備したい」

 そう言い歩き始めたが、足元の石につまづいてバランスを崩した。


「大丈夫?」

 装備をもとの軽装鎧に戻したカズハが駆け寄ってくる。


「あたりまえだけど、フルプレートアーマーなんてつけるの初めてだからな。周りがよく見えん。まあ、すぐ慣れるだろう」

「……貸して」

 いきなりカズハが、俺の装備していた鉄の兜を脱取り上げる。

「え……ちょっ!?」

 同じパーティーとはいえ、他人の装備ってそう簡単に()げるものなの?


 カズハは俺に背を向けると、地面にしゃがみ込み、どこからか取り出した金槌で兜をガンガンと叩き始める。

「ちょっと待って。鍛冶かなんかのスキル持ってる?」

「……これは鉄工、かな」

「いや、かなってそんな」

「……待って、もう少し……ん、出来た」

 およそ1分ほどで、「それ」は完成したらしい。

 差し出されたのは、フルフェイスヘルメット型だった兜とは似ても似つかぬ、曲線を描いた一枚板。いつの間にか、頭に固定するためのベルトも取り付けられている。


 そして俺はしぶしぶ、[鉄の兜]から改造された[鉄の面]を受け取って装備した。

 面と言っても顔はほぼ丸見えで、額と耳、頬が隠れる程度。頭頂から後頭部もまったく保護されていない。その代わり、視界の悪さだけは大幅に改善されてはいるが。


「……ん、こっちがいい」

 そんな無防備になった俺の顔をじっと見つめ、カズハは大きくうなずく。


「いや、防御力だいぶ下がったんだが」

「……大丈夫。わたしがカバーする」

「カズハだって1レベルからやり直しになったじゃないか。それに俺だって守られてばかりってわけにも……」

「……大丈夫。わたしのレベルが下がったから、出てくるモンスターのレベルも下がってる」

 なんかまた論点ズレてる気もするが、小型モンスター相手ならなんとかなるか。


 そう考え、俺はカズハと並んで川原を後にするのだった。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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