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コチラからアチラへ





《やあ、気分はどうだい?》


あぁ、ごめんなさい。今、優しく声をかけないで。私、誰とも話したくないの。


《そうだろうね。でも、時間がないんだ、お願いがあるんだよ》

《雑に穴がふさがってしまう前に》


穴? お願い? 無理よ。私、多分もう動けないわ。


《コチラの世界に未練のない魂を探していたところに、急に君が現れたんだ》

《コチラとしても助かるし、君にとっても悪い話じゃないよ》

《どうしても異世界へ行って欲しいんだ》


異世界? 何をさせるつもり?


《いや、君は別に何もしなくていいんだ》

《アチラには電気を司る精霊がいなくてね》

《今、アチラでは、放電をコントロールしなければならない状況に陥っているらしいんだ》

《それでどうやら救いの主を》

《コチラから召喚することにしたアチラの誰かに呼ばれてしまったのだけど》

《そいつらの術では聖霊だけでの移動はできなくてね》

《仕方ないから、君に一緒につれていって欲しいんだ》


それは良いけど、送り届けたあと、コチラに帰ることは?


《君も気づいてると思うけど、コチラにはもう君の体と魂は無いんだ》


死んだって事?


《そうだね。だから引き上げた》


・・・そうなのですね。


《だからコチラとしてもできるだけ、アチラで君が困らないようにしてあげたい》

《なにか要望はあるかい?》


コチラのものはアチラでも手に入りますか?


《コチラにはもう一切干渉できないよ》

《穴を完全にふさいでしまうからね》

《でも、死の間際に触れていた物なら持ち込める》

《君は今、服を着てるだろ?》


あぁ、なるほど。エース号、車が目の前にあるのもそのせいですか?


《そうだね》

《でもそれはアチラでは目立つから、君だけが自由に干渉できる空間に入れておいてあげよう》

《好きな時に好きなように出し入れできるよ》


ありがとうございます。

でも、異世界がどんな処かわからないし、どんな能力が必要なのかわからないのです。

こうゆうケースはよく有る事なのですか?


《よく有る事では無いね》

《異世界召喚は禁術だから》

《今回、術を発動させた者達には罰があるよ》


私はそんな人達の元へ送られるのですか?


《いいや? そこへはすでに別の者が行っているよ》

《その者もそこへ行きたいと願っていたんだ》

波長が丁度合った( そ の )せいで、ありえない穴が開いてしまったようでね》

《正しく穴を塞ぐためにも、アチラへ行く聖霊の協力が必要なんだよ》

《私達は地上に直接干渉することができないからね》


戻ってこられないのに、その聖霊様はそれで良いのですか?


《・・・君は優しいんだね》


え、いえ、普通ですよこんなの。

能力は、困らないようにとおっしゃってくださるのを信じてお任せします。

ひどく苦労しない程度に生きていければ、それで良いですから。


《・・・そうかい? では、これでどうだろう》



アオイ・クワバラ(28) 称号[(非表示)魔女]

種 族:人間

スキル:【(非表示)翻訳】 全言語対応

    【魔術】 魔法が使える身体

    【(非表示)錬金錬成】 鑑定解析 複製復元 重力操作 空間操作 その他

魔 法:〈(非表示)全属性生活(コモン)魔法〉

    〈(非表示)雷属性〉聖霊魔法

加 護:(非表示)異世界人 加護と称号により、異世界人特有のスキルと属性魔法を隠蔽する。

職 業:無職

状 態:健康



あの、職業が無職というのは?


《アチラについてから好きなように選べば良いんじゃ無いかな?》

《地上にはいろいろな職業があるらしいよ》

《そこはコチラと同じだよ》


わかりました。

それではこれでチャレンジしてみます。

色々と、ありがとうございました。


《ふふ、コチラこそ本当にどうもありがとう》

《それではアチラの世界を楽しんで》

《それと、どうか、子供達を助けてあげて》


子供達?






ドザァァァーーーーーーーーーーーーッ



気づくと、また土砂降りの中立っている。

いや、アチラにいた時より酷い。

空が割れんばかりに雷が轟いている。

凄い。

海に近いのか?

頭上では、雲がスーパーセルなみに踊り狂っている。


横殴りの雨に手をかざすと、目の前に人間の集団が見える。

こんな天候の中、外で何をやっているんだろう。

目を凝らすと、何か、なんだ? 嘘でしょ!?


石材が積み上がった、南米のピラミッド? 祭壇? のような建造物の上、倒れ重なった人々の山のさらに上には、棒が立っていて、その先に金属の兜? まさか生首? が掲げられている。


祭壇の上のその人山の脇では、剣を振り上げ、金属製の鎧兜をつけたオッサン達が何か叫んでいる。


「神の裁きだ!」

「「「神の裁きだ!」」」


「「「わぁぁぁーーーん」」」

「「おかあさーーーーん」」

「「おとうさーーーーん」」


泣き叫ぶ子供達。

棒の下に子供がいるじゃないか!? それを無視して、儀式? は続けられている。

何やってんの!?


「剣を掲げよっ」

「「「剣を掲げよっ!!」」」


「なに!? なんなの!? なんで誰も助けないの!?」


人混みに分け入り、子供達の近くに行こうとするが、大衆達がそれを阻み、アオイの身体を押さえつける。


「よせ!」

「やめておけ、お嬢さん!」

「これで雷神様が収まってくださるのです。仕方のない事なのです」

「これしか方法がないのです」


「嘘でしょ? 子供の命を犠牲にして落雷を防げるなんて、誰っ!? そんな嘘言ったの!」


「昔からそう決まっているのです」

「仕方のない事なのです!」


「昔から? 毎年あることなのね?」


「そうです。ここは毎年この時期になると、空が割れ、このように雷をまとった龍が降りてくるのです」

「子供を捧げて怒りを収めていただけば、これ以上の死人はでない」

「仕方のない事なのです!」


アオイは、押さえつける人々を振り切ってズンズン前に進む。

途中、目に止まった 斧? を引っ掴み祭壇の階段を上がる。

子供達が棒に縛られているのがわかり、頭が沸騰するほど怒りが湧いた。

倒れ重なる人の上を怒りに任せて歩み乗る。


さっきから黙って聞いてりゃ馬鹿の一つ覚えみたいに、大の大人の男が同じ言葉を何度も繰り返しやがって。


誰も悪くない?

こうするしかない?

仕方のないことだと!?


「んなわけあるかぁっっ!!」


持っていた斧のようなもので棒を叩き折ると、反動で生首が吹っ飛んだ。

ちょうど叫ぶ兵士たちの頭上に。


ガガンッ!!


高く上がった生首に落ちた落雷は、兵士達の掲げる剣に落雷し、兵士達はその鎧の隙間から煙を立ち昇らせ ガチャガチャ と音をたてて倒れかさなり、突っ伏したまま動かなくなった。



なるほど、向こう側に海が見える。

空からは、天使の梯子が降りだしていた。


「大丈夫、この嵐は何もしなくてももう直ぐ去る。もう誰も死ぬ必要はない! 子供達を早く助けなさい!! 高い所からさっさと子供達を降ろせっ!!」


振り返ってアオイが叫ぶと、呆然とみていた大人達がいっせいに子等に駆け寄った。


「ハァ、ハァ、間に合った・・・」


子供達の無事を確認すると、アオイはそのままその場に倒れ込んでしまった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



胸の上に何か乗っている。

重い。

でも、懐かしい重みだ。


「んもうっロクってば布団の中に入ってっていつも言ってるでしょぉ」


そう言って、猫吸いするために口元に引き寄せようと手を伸ばすと、それは『ロク』ではなく、黒い猫耳をつけた子供だった。

身体を起こすと、他にも5人の子供に囲まれていた。


かわいい。撫でさする。

うなされる子供達。かわいい。

撫でる。

なんだろうこの子。猫耳がついてる。かわいい。


アオイは『ロク』を思い出して、泣きながら撫でた。


ロク、ロク。どうして私をおいて行ってしまったの。一緒に連れて行ってくれれば良かったのに。


アオイは、ロクと別れてしまってから、初めて声をあげて泣いた。


あの傘の持ち手には、黒猫のヘッドがついていた。

「ロクに似ているから」と初ボーナスを奮発して買った傘だった。

その事も、ロクが死んでしまったことも、あの男は知っていたはずなのに。


「もぉぉいやぁだぁぁっなんでいっつも私ばっかりこんな目にあわなきゃいけないのぉぉ」


子供のようにわんわんと声をあげて泣いた。号泣だ。

決して泣くまいと思っていたはずなのに、後から後から涙が溢れてきて止まらなかった。

苦しい。もう生きていたくない。きっと私には幸せになれる人生なんて来る事がないんだ。

こんな馬鹿げた考えに支配される心根のなんてみっともないことか。最悪だ。なんで私、こんな目にあってまで生きてるんだろう。


「どうしたの!? どこか痛いの?」

「お腹空いたの?」

「なんで泣いてるの?」

「泣かないで」


目を覚ました子供達が抱きついてきた。


「えぇ〜なにこれぇ〜かわいい〜」


アオイは、泣きながら子供達を撫でさする。


「ごめんねぇなんでもないの〜でも今ちょっと、止まらなくて〜ごめんねぇ」

「泣かないで」

「泣かないで、聖女様」


もらい泣きしながら、ぎゅうぎゅうと力を入れて抱きついてくる子供達に、だんだんと気持ちが落ち着いてきた。


「大丈夫、大丈夫よ」


逆に励まし、子供達の背をなでさすった。




しばらくすると、子供達が部屋から出て行った。それぞれ「村にいるお母さんを呼んでくる」と言っていた。

1人残った黒猫の子が、クリクリと黄金色の瞳を輝かせてコチラを見ている。


「アナタは、お母さんのところに帰らなくていいの?」

「お母さんはいないんだ」


おっと、ごめん。そっか。えっと。どうしようか。


「お名前は?」

「名前はロクってさっき聖女様がつけてくれたろ?」

「あ、あの、ロクは、前の家族で、間違って名前を呼んじゃったの。ごめんなさい」

「なんだぁそっかぁ」


黒猫耳の子は、ぴょいとベットから飛び降りた。

待って。挽回させて。


「村の人には何て呼ばれてるの?」

「俺を呼ぶ奴はいないよ。親がいないから名前がないんだ」

「え、じゃあ、お家で1人なの?」

「? ウチはないんだ。親がいないからな。名前がない代わりに、どこにいてもいいんだ」


えぇ〜どうゆうことぉ〜孤児の扱いどうなってんの? ・・・え、まって、どうゆうこと?


「・・・親がいないから、あそこにいたの?」

「あそこ?」

「あなたに親がいないから、村の人は昨日、雷の神様にあなたを捧げようとしたの?」

「? 違うよ? 順番なんだ。あの日が俺達の番だった」

「あ、そうそっか。そうですか」

「あー残念。やっと名前をもらえたと思ったのに。聖女様と一緒に暮らせると思っちゃった!」

「あーあれよ、あなたの名前はナナ。ロクの次はナナなの。だからあなたの名前はナナ」


「いいの!?」


「え」

「俺、これからずっと聖女様と一緒のウチで暮らしていいの!?」

「あ、うん。家とかはこれから用意しなきゃいけないけど、あなたの事は、これから私が幸せにする。約束します」


「ほわぁぁぁぁ!!」


「あ、それと私、聖女じゃないです。魔女です。名前はアオイです。それでも良いならこれからよろしくお願いします」

「魔女?」

「あ、うん。魔女だって」


確かそう言われた気がする。(非表示)だけど。


「そっかーんじゃ『良き魔女』だな。な?」

「あ、そうですね。なるべく、良い魔女になれるように頑張ります」


アオイがそう言うと、ナナはもそもそと布団の中に入ってきた。


「えへへっ」


可愛らしく笑うナナに、自然にアオイの顔もほころぶ。

なんか、勢いで言ってしまったけど、多分、今の私は正常じゃないし、色々考えてしまう前にそう決めて良かった。と思えるようにこれから行動しよう。

とりあえず、今はナナと二度寝をキメるべくもそもそと布団に潜る。

なんだろう。なんかこそばいな。結婚する前に子持ちになってしまった。


「ナナは、いくつかな? 何歳かな?」

「何歳かな? 歳はわかんないな。新しい村長に聞いてこようか?」

「後でいいか。今は、眠くて」

「アオイはよく寝るな? もう3日も寝ていたよ」


寝坊助だな。とナナが笑った。


「3日!?」

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