儂とイカロス
お久しぶりですお爺ちゃん
「波導勇滅刃!!」
蛮勇と呼ぶことすら烏滸がましい。知性無きモンスターを屠る、連撃ッ……!!
儂目掛けて襲い来るゴブリンたちを拳で、蹴りで薙ぎ倒していく。
手足に伝わる破壊の感触が心地いい。
「冒険者クロスゥーッ!! さっきまでの防戦一方とは打って変わり、一転して苛烈なラァーッシュ!!」
実況がうるさいのぅ。
まあアレが仕事だから仕方ないかの。次に叫んだら攻撃して黙らせるしか無いのぅ。
可哀相に。
「クロス選手。モンクとしての徒手空拳を活かし、武器無しで挑む事になるコロシアムでの戦闘に適合していますね」
右腕に込める正の波導。
左腕に込める闇の邪気。
その二つを、合致……!
「混沌砲!」
放つ混沌の魔術。両腕に込めたエネルギーを混ぜ合わせ圧縮。
エネルギー弾は白と黒。混ざり合い空間を歪めながら、実況者と解説者、二人がいる席と突き進む。
だがそれは、彼らに届く前に弾け霧散する。
くっ……! 結界かの!? おのれ、流れ弾対策も万全というわけか!
「おっとクロス選手! ゴブリンへの攻撃を外して明後日の方向に魔術を放ってしまったぁーー!!」
「モンクと伺ってたのですが……。彼は魔術にも深い造詣がある様ですね。そして今のは私たちを狙ってましたね?」
ふん、良いじゃろう。
ならば……!
群がるゴブリンを粉砕、同時に生命の波導にて自らの腕へと肉の残骸を吸い寄せる。
一匹、五匹、十匹、三十匹……!!
やがて儂の拳が肥大化したかの如く、肉の塊が出来上がる。
儂がこれから放つのは邪の一撃。
儂以外の触れた者をジワジワと呪い殺す。呪われた者はゆっくりと身体が腐敗し、その痛みと恐怖に数年悶え苦しむ。
まさしく非道の奥義。
「血飛沫呪殺塊!!」
騒がしい実況に向けて放つ。
だがその攻撃は再び結界に阻まれる。
「あ、忘れとったのう……」
阻まれた肉塊は飛び散り観客席へと降り注ぐ。
うはぁ〜。汚ったないのぅ……。引くのじゃぁ〜……。
「何という豪腕! ゴブリンたちを一纏めにして放り投げたぁー! だがやはり重かったのか!? 再び攻撃はゴブリンを狙えなかったー!!」
「いや、私たち狙ってましたよね」
観客たちも血肉をかぶって阿鼻叫喚じゃ。
おのれ、開催運営め……! 観客席には結界を貼る配慮を怠るとは……!!
許せん!!
じゃが無双し続ける儂を見て恐らくコロシアム側も焦っておる。
何故ならゴブリンが入場する為のゲート。
それがスシ詰め状態のギッチギチ……!
儂を殺さんが為に投入出来るモンスター全部突っ込んだ感じじゃ。
興奮剤か何かを投与されたモンスターが血走った目で儂を見つめる。
「そろそろ飽きたし、終わりにするかの」
ポツリと呟く。同時に魔力を高め、気力を練り上げる。
「はあああぁぁぁぁぁ…………!!」
はあああぁぁぁぁぁ…………!!
込めた力を全て右脚に集中。
高く掲げ、地面へと振り下ろす!!
「踵落飛死!!」
儂の一撃が大地を揺らし、粉砕する。
衝撃波がコロシアム中のゴブリン全てを巻き上げる。
そして地面を蹴った反動で儂の体は宙を舞う。
まず一段目。
二段目、空を蹴り上げて高度を上げる。
同時に宙を舞うゴブリンたちを蹴り上げ、より高く打ち上げる。
三段目、宙を舞うゴブリンを足場にしてより高く飛翔する。
「もっと先へ、もっと高く、飛翔したくないか? 儂よ」
やがて儂の体は天高く舞い上がり、雲を突き抜け、太陽を拝む。
合掌……!
太陽のエネルギーを感じる。
今の儂はイカロスじゃ……。かつて空を目指し、太陽に近付きすぎて自身を燃やし尽くした愚か者。
ふっ、滑稽じゃわい。
儂は太陽の熱気を、炎を全身で受け止め更なる力とする。
熱い……! 体が燃えている様じゃ。
「ふふ、違うの……。イカロスの気力が滾っているんじゃな」
思わず独り言を呟く。歳を取るといかんのう。
闇の気を放ち、太陽を覆い尽くす事で日食を作り出す。
突如覆われた漆黒の帳に観客達の騒めきが聞こえる。
いや、空耳かの?
太陽の眩き波導、日食により増幅する闇の魔力。
落下しながらイカロスの背でエネルギーを受け止める。
それを全身から迸らせ、放つ。
「ククッ……、カカカッ……!! この攻撃をマトモに受けたらこの国はおしまいじゃあーっ!! ゴブリンどもよ、この星の盾になるが良いぃーーっ……!!」
星の引力を創造し、宙を舞うゴブリンたちを集束させる。
密集し、球形となった魔物たちが恐怖の視線で儂を見つめる。
儂が恐ろしいか? モンスターたちよ。
儂も同じじゃ、儂もイカロスの強さが恐ろしいわい。
「受けよイカロスの一撃!! 陰陽星砕!!!!」
イカロスから放たれる力の一撃。
ゴブリン達を引き千切り、粉砕、爆砕、玉砕、そして無に帰す。
それらの工程が一瞬で行われ、あたかも消滅したかの如く。
じゃが儂には、イカロスには見える。
一瞬の間に映る幻想的な光景が。
「退避! 退避ぃーーッ!!」
叫ぶ実況、観客、闘技場運営者。
ふふ、もう間に合わんよ……。お主らは、ココで死ぬんじゃ。
いや、間に合うかも知れん。
攻撃が余りにも速すぎて逆にゆっくりになっておる……!
これはヘリコプターのプロペラがバルバル回っていっぱいに見えるアレ……!
ならば……、イカロスは素早く空中に着地、いや着空して走り抜ける。
この会場の何処かにある金庫……! そこから金を抜き出す……! イカロスと化した儂ならやれる……!!
「クロス……! 助けて、お願い……!!」
何処からか声がする。この声は、エイラ……!?
何故じゃ、何故エイラが観客席に!?
金髪サイドテールの美少女。その彼女が祈りのポーズを取って天を見上げている。
じゃが、イカロスは金の亡者……! 金を求めて彷徨う悪鬼羅刹……!!
「くっ!」
イカロスは歯噛みする。そして駆ける脚を速めた。
儂の腕の中で、エイラが目覚める。
「クロス……? ここは?」
どうやら記憶が混濁しているらしい。全く、若いのにボケるとは……。
「お主がいたコロシアムの国の隣の隣の国じゃ」
「そうだ! コロシアム! クロス、戦いはどうなったの!? いきなり空が暗くなって、そしたらいきなり光が……」
「ゴブリンはコロシアムごと消し飛ばした。お主の親の仇はとったわい。心配するでないわ」
やれやれじゃ……。
「そっか! 良かった! あれ? 私どこも怪我してない……。あんな事があったのに……」
じゃろうな。儂が助けたんじゃし。感謝、して欲しいのう。
「エイラ、お前を助けたのは私だぞ」
長すぎるロングストレートの黒髪、黒衣のドレスを纏った妖艶な美女が姿を現わす。
「何じゃメフィスト、まだいたのかの? 空気を読んで滅んでも良いんじゃぞ?」
「えっと、メフィストさんが、私を?」
「そうじゃ、一度死んだお主を此奴に蘇らせて貰ったわい」
「え…………」
「まあ儂自ら助けても良かったんじゃが……、儂は金が欲しかったしの。メフィストも一人で逃げてしまうし」
全く、使えん悪魔じゃ。所詮は低級じゃな。
「金を回収した後。廃墟となったコロシアムに行き、メフィストに蘇生して貰ったんじゃ」
「安心しろエイラ、服はサービスしておいた。クロスに何もされていないぞ」
いらんところで気を使いおって……。やはり一度滅ぼすべきかの。
おや?
「何じゃエイラ。また眠ってしまったのか?」
起きたばかりじゃと言うのに。全く、最近の若者は怠けてていかんのう。
「クロス、それは気絶したんだ。自分が死んで生き返ったショックでな」
そんな事で気絶とは……、やれやれじゃわい。
儂は数える金貨の手を止める。
光輝く金貨を太陽にかざし、ニッコリと微笑んだ。
これで二ヶ月はのんびり出来るのぅ!




