エピローグ~凜の復讐~
これでやっと完結です!
凜は暇を持て余していた。このお店は願い事を本当に叶えてほしい人だけが来るので、そうそう毎日連続ではお客さんは来ない。
「今日はもう閉めた方がいいかもね」
凜は一人でにつぶやき、店じまいを始めた――と、その途端店に入ってくる足音が聞こえた。
「あら……。今日のお客様は幸運ね。閉めかけたところに来るなんて……」
いつも通り椅子に座り、客を待つ凜。これが加奈子だったら、どうしよう。いつも思っている。だけどどうせ知らない客だろう。
顔を上げると、そこには、忘れもしない加奈子の顔があった。少し老けていて、印象が変わったが、間違いなく加奈子だ。それだけは分かった。
(加奈子……?)
分かったけど、口には出さなかった。加奈子は凜に気づいた風もなく、ペラペラしゃべり始めた。今、気になる彼がいて、うまくいってるんだけど、もっと仲良くなりたいこと。
凜は相談を重要な部分しか聞かず、心臓を落ち着かせるために必死だった(まぁ、凜には心臓が無いのだが)。
「そう……。それなら、これを差し上げるわ……」
その瞬間、凜は復讐することに決めた。加奈子にあげた薬も、いつもなら本当に効果がある薬を差し上げるのだが、加奈子には段々と顔が崩れていく薬をあげた。
「これは綺麗になる薬。効果は抜群だから、薬を飲み過ぎないこと。それが守れる?」
いつものように、注意事項を説明する。加奈子の顔を見ると、本当に信用した様子だった。これなら説明した時、いつもより少し声が震えていたのは気付かれていないだろう。
「さぁ、行きなさい……」
そう言うと、加奈子は出て行った。まだ、ドキドキしている。遂に来たのね、加奈子……。加奈子は凜のことなんか、忘れていた。自分のことだけに夢中で……、楽しそうだった。
加奈子なんか、失敗すればいいんだわ……。
凜はつぶやくと、水晶玉を操り始めた。すぐに加奈子の姿が映る。あの薬は徐々に効いていくから、今はまだ、普通の顔だ。水晶玉には加奈子の好きな人が映っている。加奈子より少し年上の人。その人としゃべる時の加奈子の顔は、すごく嬉しそうだった。
凜が今まで見たことない表情だった。もうあの事件から何年も経ち、加奈子は釈放された。他人もきっと加奈子の過去なんか知らない。その過去を隠し持っているのに、幸せそうにしている加奈子は腹立たしかった。今に見ていなさい、加奈子。私が現実を見せてあげる……。
水晶玉を眺めていて、日に日に加奈子の顔は崩れていく。見えていないところで、崩れていく。些細なずれで変わっていく。例えば、加奈子が好きな人に食事を誘えば、同じ年ぐらいの加奈子より綺麗な人を選ぶ。そんなことが段々積み重なってきたら、加奈子はどうなるだろう?
店に文句を言いに来るのかしら……?
数日後、
「ちょっと!約束が違うじゃない!」
加奈子は憤っていた。顔は前に訪れた時より、かなり変形している。綺麗な肌もボロボロ、目には生気もない。
「あら……、ごめんなさいね。調合が合わなかったのかしら?」
だけどこれも計算のうち。凜の復讐は着々と進んでいた。
「替えの物、もらえるかしら?」
「ええ、もちろん」
結構な至近距離で話しているというのに、まだ気づいていないらしい。まぁ、それでもいいんだけど。どうせ、最後は気付くから。
「これを差し上げるわ」
それは香水だった。一見綺麗な。
「試してみてくださる?」
「貸して!」
加奈子は凜の手から香水を奪い取り、シュッ、シュッ、と香水を吹付けた。
「いい香りじゃない」
香りを存分に楽しんでいる様子だ。だけどそれって、本当にいい香りかしら……?
「それはどうかしら?」
「きゃあああ!!」
加奈子は悲鳴を上げた。当たり前だ。燃え始めたのだから。
「アンタ誰!?私に恨みでもあるの!?」
加奈子は燃えながらも声を張り上げて訴える。
「馬鹿ね……。私のことを忘れたの?」
紫色のベールを外し、顔がよく見えるように加奈子に近づく。
「え……。凜……?」
「そうよ!加奈子に復讐するために、戻ってきたのよ!」
凜はそう言うと、笑い出した。狂ったように。
「加奈子にはもっと、罰を与えなきゃ……」
凜はそうつぶやくと、自分が持っていた蝋燭を自分の体に火をつけた。
「加奈子、大好きよ」
そういいながら、加奈子に抱きつく。もちろん火は激しさを増していく。やがて、加奈子の悲鳴も消え、凜の目の前には誰かも分からない死体が転がっているだけだった。
「ああ、満足した。もう思い残すことは無いわ」
そう言い、クスクス笑った瞬間、凜の姿が半透明になっていく。
「もう時間ね……。バイバイ加奈子」
凜が完全に消えた瞬間、それに伴い「ブラック・シャドウ」も消えていく。元々そういうことだったのだ。「ブラック・シャドウ」は凜の復讐さえ、済めば、閉店する契約だったのだ。
そのあと、いつの間にか「ブラック・シャドウ」の噂も消えた。人間とは怖いもので、もう話に出てこないとなると、忘れてしまうものだ。
結局、「ブラック・シャドウ」は一瞬の淡い夢物語でしかなかったのだ……。
終わりました~!暗い話だったので、書いていて疲れました。
次は明るいお話で行こうと思っています。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。




