第六話~透明な幸せ~
「はぁ……」
鏡を覗くと、ため息が出る。私の最大のコンプレックス、肌が白くないと言うことだ。私は黄色人種だから、真っ白ってことは無いけど、それにしては、白くない。今なんか、男でも白い人とかいるし、私はなんて不幸なんだろう。
今までこの顔のせいで、どれだけ馬鹿にされたことか。
私も真っ白な肌になりたいなぁ……。
「佐奈!」
「梨乃……」
私が唯一気を許せる相手、梨乃。梨乃はすごく可愛くて、肌も真っ白で、まさに私の理想の女の子。そして、私のことを悪く言う男子からも庇ってくれる。
私が好きなのは梨乃だけだよ……。
「うわ~。見ろよ」
教室に入った途端、大きい声が響いて体がビクッとなる。また男子たちが私の悪口を言うのだ。
「ひどいよな」
「川田ってさ、梨乃ちゃんの横にいるから余計目立つよなぁ」
「そうそう。自覚しろっての」
聞こえてくる悪口に耳を塞ぐ。うるさいうるさい。黙れ黙れ。
「ちょっと!佐奈の悪口言うなんて許さないから!」
教室の端にいる男子のグループに、梨乃は反抗的な態度で向かっていく。
「佐奈に謝ってよ!」
大きな声で言う梨乃に男子はすまなさそうに顔を伏せる。やっぱり男子も梨乃には敵わないのだ。
「ごめん、川田」
「俺も」
「い、いいよ……。気にしてないから」
梨乃は満足そうに笑いかける。
「いつもごめんね」
「何が?」
「迷惑かけて……」
いつもいつも、そう。自分の力じゃ無理だから、梨乃に頼ってしまう。梨乃はきっと、迷惑だろう。
「全然迷惑じゃない!それに、佐奈を助けてあげられるのは嬉しいもん」
当然、と言った笑顔で梨乃が言う。
「ありがとう……」
私の世界は梨乃だけだ。
放課後、国語のノートを忘れたことに気づき、急いで学校に取りに戻った。課題が残っていたのだ。教室に入りかけた瞬間、梨乃と梨乃のよくしゃべる友達の声が聞こえたので、一瞬入るのを躊躇した。
「梨乃もさぁ、よく思いついたね。川田さんと仲良くして好感度アップとか」
ドキ。川田さん?私のこと?
「でしょ?おかげで、梨乃ちゃん優しー、とか言われるし」
梨乃の笑い声が私の頭の中に響く。利用、してたとか……。まさか!梨乃はそんな悪い子じゃない。それは私が一番よく知っている。
「でもさぁ、梨乃と川田さん一緒にいたら、チョー差あるよね?美白と色黒」
「やだー、亜里沙。佐奈に悪いじゃん!……って言っても、差はあるけどね」
キャハハと笑い声が響く。そう言って笑った梨乃は、いつもより意地悪な顔に見えた。可愛さなんて欠片もなかった。私はノートのことなんか忘れて、ふらふら歩きだした。
ウソ……。あの梨乃が?
梨乃の笑い声が頭の中でリピートする。私、騙されてた?本当は私なんてどうでもいいんだ……。ショックだった。私のことを利用してたなんて……。全てはこの肌の色のせいだ。私は自分の肌を憎らしく思った。
帰り道、ショックを隠せず、とぼとぼ歩いていると、いつの間にか来たことのない道に来ていた。
「どこ、ここ……?」
つぶやいてみるが、そのつぶやきに返事をくれる人はいなかった。だけど、目の前には、見たことのない建物がある。
占い専門店「ブラック・シャドウ」と看板が出ていた。ブラック・シャドウ?確か、ネットの都市伝説であった。この町には何でも願いを叶えてくれる店があるって……。でも滅多に行けないらしい。
……。私は怖い気持ちを抑えつつ、店の中に入っていった。
奥へ奥へ進むと、綺麗な女の人が座っていた。怪しい雰囲気をどこからか漂わせてる女の人。
「いらっしゃい。何か悩み事があるのね?」
その女の人は微笑しながら聞いた。
「はい……」
私は事情を説明した。肌の色がコンプレックスで、友達に騙された、と。女の人は静かに何度もうなずいてくれた。
「そう……。つまり、貴方は色白になりたいのね?」
私はコクコクうなずいた。
「貴方にはこれを差し上げるわ」
女の人が差し出したのは、ファンデーションみたいなものだった。
「これはね、一日一回適量、そうね、少ない目の方がいいわ。顔に塗るの。そうしたら、色白になるわ。普通のファンデーションみたいに、洗ってもとれないわ。ただし、適量ね?塗りすぎると、白くなって大変だから……」
白くなって大変?白くなったら、それだけいいんじゃないだろうか。
「はい」
私はファンデーションをもらった。手に持って感触を確かめる。
「さぁ、行きなさい……」
気が付くと、いつもと変わりない夕暮れが辺りに広がっていた。
……今のは?夢?いや、違う。手の中にはしっかり、ファンデーションが握られていた。夢じゃない!私は家に全速力で走った。
家に帰ると、早速塗ってみた。顔全体に行き渡らせる。さて、もういいかな?顔を上げて、肌を確認する。いつもの私が映っていたら嫌だなと思いながら。
……ウソ!そこには白い肌の私がいた。恐る恐る顔に触れると、指にはファンデーションが全然ついていない。ということは……、肌に馴染んだってこと?
遂に手に入れたのだ。夢に見た美白。
これで……これで私はもう……馬鹿にされない……。
「おはよう」
その日の朝、いつも梨乃と二人で行っているが、わざと遅く学校に行って、堂々と教室に入った。
その途端、教室が騒がしくなる。
「えっ、アレ川田?」
「意外と色白じゃん」
「ってか、色白だったら結構可愛い」
梨乃は驚いた顔で見つめている。そりゃそうよね。
「佐奈?どうしたの?」
「ああ、これ?ちょっとメイク」
「ホント?すごく似合ってるよ」
私は知っている。梨乃のその笑顔は実は引きつっているということ。ホントは似合ってるなんて一ミリも思ってないんでしょ。私は利用でしょ?
「ありがとう」
梨乃を降参させるには、もっと白くならなきゃ……。
適量って分かりにくい。私はそれを理由にして、最近多く塗るようになった。悪影響は全然ないし、どんどん白くなって、今まで梨乃の引き立て役だった私が、最近では反対になってきている。
いい気味……!
「はぁ、間に合った」
その日もいつも通り、登校直前までファンデーションを塗りたくっていたから、危うく遅刻するところだった。
急いで椅子に座り、コンパクトミラーで肌のチェックをする。よし、今日も合格!
ミラーを片付けた瞬間、先生が入ってきた。
「先生ー、あそこの机一つ多くないですか?」
梨乃が私の机に指を指しながら言った。
「私だったら、いますけど」
「本当だなぁ。一つ多い」
えっ?何?先生まで知らんぷり?何なの、みんなそろって!
「帰る!」
私がそう大きく宣言しても、全員無視。このクラスはおかしいんじゃないだろうか?
立ち上がった瞬間、窓に映る自分の顔が目に入る――いや、入るどころかそもそも顔が無い。
「ウソ!」
もう一度自分の持っている鏡を見る。そこにも私の顔は無い。
「何で……?」
私の独り言に誰一人、反応せず、淡々と授業を始めた。
「適量ぐらい本当は分かっていたのにね」
水晶玉を操りつつ、凜はつぶやく。
「鏡に映ったのはきっと、一瞬の妄想ね。自分だけで作り上げた妄想……」
凜はクスクス笑う。
「でも、貴方の願いは叶ったんだからいいんじゃない?白くなったでしょ?」
凜は面白そうに頬を緩めた。




