表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

第五話~美しき蝶は浮遊する~

 私には好きな人がいる。深瀬章吾ふかせしょうごくん。ずっと好きなんだけど、なかなか告白ができていない。せめて、彼の趣味を私も好きになろうと思っているんだけど、深瀬君の趣味って昆虫採集らしい。蝶をいっぱい集めているそうだ。

 私も、蝶に詳しくなって、深瀬くんと仲良くなりたいな……。


「深瀬、今お前が探してる蝶ってなんだっけ?」

 教室で深瀬くんと深瀬くんの友達の山野くんがしゃべっている。私はできる限り耳を大きくして、話を聞いていた。

「新種の……名前はわからないけど、青色で、すごく綺麗な蝶なんだ」

 新種、青色、蝶、私は心の中でメモをする。この条件に合う蝶を採ったら、深瀬くんは喜んでくれるかなぁ。蝶はいいよなぁ。深瀬くんに愛されて。

 窓辺を見ると、モンシロチョウがフワフワと飛んでいる。いっそ、私も蝶だったら深瀬くんに好きになってもらえたのに……。

 私はいつしかそんな願望さえ抱くようになっていた。


 帰り道、友達と一緒に帰っていた時、私の目の前をヒラリと蝶が舞った。その蝶の色は鮮やかな青色でじっと見つめてしまった。

麻利まり?どうしたの?」

「今の蝶、深瀬くんが探してるやつかな?」

 友達の理紗りさに聞く。

「そうかもね。あっ、そっか~。麻利は深瀬が好きだもんねぇ」

 理紗が怪しげな笑顔を浮かべている。理紗は私が深瀬くんを好きだということを知っているのだ。

「あーあ、捕まえれば良かった」

 今になって、後悔する。

「まぁ、次があるじゃん?」

「……うん」

 正直言って、今すぐ捕まえたい。もし他の誰かに深瀬くんを盗られたら困るから……。


 次の日、深瀬くんが理紗と話していた。

「昨日さ、深瀬が言ってた蝶見たよ」

「青色の?」

「そうそう!次見たら捕まえるから!」

 理紗……?何でそんなに楽しそうに話してるの?理紗も深瀬くんのことが好きなの……?

「私も見た」

 私は唐突に会話に入っていった。邪魔をしなければ。そう直感的に思ったのだ。

「だよね、麻利!」

 無理に笑顔を作ってみせる理紗。好きなら正直に言ってくれれば良かったのに……。


 その日の帰り道、私はむしゃくしゃしながら歩いていた。理紗と別れてからもイライラはおさまらなかった。

 私だって、深瀬くんのことが好きなのに……。

 考え事をしていたせいか、道を迷ってしまったらしい。

「どこ、ここ……?」

 ふと顔を上げると、占い専門店「ブラック・シャドウ」と看板が出ていた。ブラック・シャドウ……前に理紗が言ってた。何でも願いを叶えてくれるお店があるって。

 私は決意して、お店に入っていった。


 奥へ奥へ進むと、水晶玉を覗いている綺麗な女の人がいた。

「あの……」

「あら、ここに来るということは何か、悩み事があるのね?」

「はい……」

 私は静かにうなずくと、事情をしゃべった。

「そう……。でも、大丈夫よ。貴方にはこれを差し上げるわ」

 手渡されたものは、香水瓶みたいなもの。

「これは……?」

「魔法のエキス。一日一滴体の一か所につけるの。変身したいものを心の中で思い描きながらね。ただし、変身時間は二時間。一日一滴。これを守ってくださる?」

 女の人はニコリと微笑みながら問いかけてくる。

「はい。もちろんです」

私は渡されたエキスをじっくり見つめた。これで……。蝶になれるんだ。

「さぁ、行きなさい……」


 気付くといつもの見慣れた風景に戻っていた。……今のは夢?だけど、手の中にあるエキスが証拠になった。


 家へ帰ると、すぐに一滴エキスをつけた。青い色の綺麗な蝶を思い浮かべながら。

 瞬間、激痛が走った。自分自身が姿を変えているような感覚に苛まれる。

 やがて激痛もおさまり、気付くと体が軽くなっていた。フワフワと好きなところへも飛べる。私、本当に蝶になったんだ!

 私は早速窓から外へ出ると、適当に飛び始めた。遠くの方まで来ると深瀬くんの姿を発見した。

「あっ!」

 深瀬くんは私という名の蝶に注目している。今は理紗に注目をしていない。私だけに注目している……。

 私は少し飛んだあと、姿を消した。もし、魔法が終わったら嫌だもんね。

 少しして、いつも通りの姿に戻った。

 私は効果を存分に試した後、微笑んだ。このエキス、いいじゃない。想像以上だわ!


 私はその日から一日一回蝶に変身した。こうでもしないと深瀬くんは私を見てくれない。だから蝶に変身できるのはすごく楽しかった。

 だって、深瀬くんが優しい柔らかな笑顔を浮かべるんだもん。

 もっと、深瀬くんに好かれたい……。


 その日は二滴、エキスをつけた。誰も見てないし、少しぐらいいいよね?

 いつもより激痛が走ったが、その日は長く深瀬くんの前にいることができた。二滴なんかじゃ足りないわ……。


 もうそれからは十滴エキスをつけていた。

 その日もふらふらと飛んでいた。体に激痛が走るので、もう前みたいに早くは飛べなくなっていた。

「よし!捕まえた!」

 その日、深瀬くんに蝶の私は捕まえられた。私は時間制限があるのを忘れて、これから飼ってくれるのかと思うと少し嬉しかった。


 深瀬くんの部屋は蝶の標本で溢れていた。それを見た瞬間、ぞっとした。まさか、私もあんな目に?いや、そんなことない!深瀬くんは優しいんだ。

 だけど、私の期待とは裏腹に深瀬くんはピンを刺そうとしている。

「いや!」

 蝶になった私はもう声も出なかった。



「あらあら……。標本になったのね」

 水晶玉に映る麻利を見ながら凜がつぶやく。

「でも幸せじゃない?愛する彼の前で、彼が望む姿で一生いれるんだから……」

 凜が低くつぶやいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ