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騎士団長、この間の出来事を振り返る

ついこの間のことだ、俺は死を覚悟していた。


魔物のスタンピードの対処中、不意を突かれた。


部下を逃がし、一人で足止めを引き受けた代償は重かった。


脇腹を深く裂かれ、苦しみと頭に息を吐きながら…俺は深い森で土の上に倒れ伏していた。


視界がじわじわと滲んでいく。


周りには魔物。


ここから逆転など無理だろう。


「…ここまで、か」


最強と謳われ、次期公爵として期待された人生。


思えば『俺個人』を見てもらえたことなどあっただろうか。


もう少しわがままに生きても良かったかもしれない。


しかしその時、何故か魔物は突然散り散りに逃げ去った。


スタンピードが突然落ち着いた?


しかも散り散りに分散するように離れていった?


疑問が止まない中、突然降り出した雨が頬を叩く。


だが、意識が段々と混濁していく中で優しい声が聞こえた。


「あらまあ…ひどい怪我。騎士様は勇敢でいらっしゃるわ、部下のために一人残るなんて…私がもう少し早く追い払っていればこうはなってなかったでしょう。これでは放っておけないわね」


穏やかで、それでいてどこか浮世離れした雰囲気を感じる。


いつのまにか閉じてしまっていた重い瞼を無理やり押し上げると、そこには一人の少女が立っていた。


視界がぼやけてよく見えないが、神々しさすら感じる少女。


『…月の、女神……』


朦朧とする意識の中で、彼女が俺の胸元にそっと手をかざすのが見えた。


その瞬間、全身を貫いたのは優しい光だった。


優しい光としか表現しようがないそれは、しかし強引で力強い。


圧倒的なまでに純粋な〝力〟が、俺の傷だらけの身体を強引に〝癒して〟いく。


それはもう、『痛いくらい』に。


「うっ、ぐあ…っ!」


「あら、ごめんなさい。少し、力が強すぎたかしら? 加減が難しくて」


彼女が困ったように微笑んだ気がした。


さらに深く、俺の傷口を包み込むように手を添えた。


今度は心地よさが全身に広がる。


あまりに心地よいその感覚に、俺は抗うことなく意識を手放した。


…目が覚めた時、そこには誰もいなかった。


雨は上がり、森はスタンピードが確かに起きた跡を残しつつも落ち着きを取り戻している。


俺は起き上がり、自分の体を確かめた。


鎧は壊れ、自分と魔物両方の血に染まっている。


だが、身体の方は傷跡一つなく治っていた。


「夢では、なかったはずだ…」


それは鎧の血が証明している。


魔物の血は紫で、俺の血は乾いて黒くなっていた。


鎧は内側からどす黒くなっている。


俺を助けたのは、どこの誰なのか。


それから数日。


俺はその『その人』を追い続けてきた。


そしてあの奇跡が起きた付近の辺境の伯爵家で「新聖女」が現れたと聞き、一縷の望みをかけて足を運んだのだが。


『レイナ嬢。確かに凄まじい魔力だ。だが、何かが違う』


彼女の放つ光は派手で、太陽のように眩しい。


しかし、俺の命を繋ぎ止めたあの時の『あの人』とは、決定的に異なっていた。


むしろその後ろで怯えた顔をしていた、あの地味な姉。


イサベル嬢と言ったか。


彼女と目が合った瞬間、何か奇妙な既視感を感じた。


あの澄んだ瞳。


だが彼女は聖女ではないという。


勘違いなのか、現実なのか。


あの日俺を救った『奇跡』が、あの地味な令嬢の中に隠されているのだとしたら。


俺の、彼女への『興味』は果たして本当に俺を助けてくれた『あの人』への道に繋がっているのだろうか?

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