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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第2部 MOON OF DESIRE

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86/400

【MOD-3】非公式戦闘(前編)

Date:2132/03/05

Time:15:02(STC)

Location:outer space

Operation Name:-

 緊急事態につき簡潔に状況を説明します!

先ほどアルファ小隊及びベータ小隊が接触したものと同型と思わしき(ふね)で構成された所属不明艦隊が、建造中のスペースコロニー「S.C.36 マグ・メル」へと接近中――いえ、待ってください!

オリエント国防海軍第6艦隊本隊より入電!

所属不明艦隊が目の前で二手に分かれ、針路を大きく変更した部隊が現れたようです!

一体、何がどうなっているんでしょうか……?

と、とにかく……先ほど遭遇した所属不明艦隊は第6艦隊指揮下の小艦隊が対処するとのことなので、私たちスターライガは増援部隊の相手をしましょう。

マグ・メルへ直行するルートから針路を外し、別方面に向かっている所属不明艦隊。

私たちとキリシマ・ファミリーの母艦「レヴァリエ」でこれを追跡し、可能であれば目的地を特定。

場合によっては警告射撃――それでも効果が無い場合は敵と見做し排除しても構いません。

なお、今更付け加える必要は無いと思いますが、宇宙空間を漂うビーコン及び人工衛星に対する被害は可能限り避けてください。


 一旦母艦に戻り、最低限の補給を済ませたアルファ小隊及びベータ小隊は再び星の海へと上がる。

今回は敵戦力が比較的強大なため、先ほどまでは待機していたガンマ小隊を戦列に加えている。

また、キリシマ・ファミリーからもマリン率いるMF部隊が出撃しており、スターライガの3個小隊と編隊を組んでいた。

「ガンマ小隊各機、状況を報告!」

アルファ、ベータに次ぐ第3のMF小隊を率いる人物の名はサニーズ・コンチェルト。

彼女はライガやレガリアと共に第2次フロリア戦役及びバイオロイド事件を戦い抜いたエースドライバーであり、ベテラン揃いのスターライガの中でも卓越した操縦技量を有している。

また、元教師ということで指導力にも定評があるため、平時はクローネやソフィといった民間出身者の新人教育を任されていた。

搭乗機の「SNCR-DV9900 シルフシュヴァリエ」は対MF戦に特化した最高の運動性を持つ「制空戦闘機」のような機体だ。

「こちらスティーリア、大丈夫大丈夫!」

そのサニーズと肩を並べて飛んでいるのはチルド・トゥルーリ。

ファミリーネームこそ違うが彼女はサニーズの妻であり、自宅でも戦場でも献身的に夫を支えている。

自信家でお調子者ですぐ突撃したがる悪癖を持つものの、腐ってもベテランなので実力は高い。

愛機「CR-GPX スーパースティーリア」は分厚い装甲と豊富な射撃武器を持ち、紙装甲且つ遠距離戦が不得手なシルフシュヴァリエと組むことを想定した機体となっている。


 ガンマ小隊も定員数は4人であるが、今回は諸事情により1人が抜けた状態で出撃している。

「これが初陣かぁ……うぅ、緊張するなぁ……」

新人用の機体「RM5-20C スパイラルC型」のコックピットで一人不安げに呟いているのは、ガンマ小隊に配属されたばかりのラン・サツキ。

クローネと同期入社の彼女は本来4番機担当だが、今回は繰り上がりというカタチで3番機を務めている。

大学卒業前にスターライガへの就職が内定し、卒業論文を作成しながら鬼教官サニーズの指導を受けていたのはほんの数か月前の話だ。

一人前と認められていない状態で戦場へ放り出され、不安に押し潰されそうになるのも無理はなかった。

「緊張してるの? まあ、気持ちは分かるよ。あたしだって初めてMFに乗った時は手が震えていたもん」

後輩の不安を察したのか、彼女のスパイラルを見ながら優しく声を掛けるチルド。

「大丈夫、何かあったらスターライガの仲間たちが守ってくれるから。もちろん、可能な限り自分の身は自分でどうにかして欲しいけどね!」

「戦闘中は私やチルドから離れるなよ、ラン。私の下に就いている以上、死ぬことは絶対に許さん」

二人の上司に力強く励まされ、ランは少しだけ心の迷いが晴れたような気がした。

「……は、はい! 頑張ります!」

彼女の視線の先には所属不明艦隊の姿が既に見えている。

戦いの始まりはすぐそこにまで迫っていた。


「なあ、ライガのおっさん。このままあの艦隊を追跡し続けるつもりなのか?」

「仕方あるまい、こちらから無闇に仕掛けるわけにはいかん。あと、『おっさん』は余計だ」

好戦的でウズウズしているマリンを窘め、ついでにおっさん呼ばわりに対しても苦言を呈するライガ。

年齢的にはロートル扱いされても仕方ないのだが、見た目が非常に若々しいライガは何かとそういうのを嫌がっていた。

「うちの娘からMFのエンジニアリングについて学んだとは聞いていたが、素人考えで自作した機体で出撃とは……全く、その根性には頭が下がるな」

一方、サニーズは別の観点から皮肉交じりにマリン――いや、厳密には彼女の乗機へ懸念を示していた。

ちなみに、サニーズの娘ロサノヴァはMFデザイナーとガンマ小隊3番機を兼任しているが、今回は技術者としての仕事を優先し戦闘には参加していない。

「んだよ、おばさ――」

「あぁ?」

「――じゃなくて、サニーズさんはボクの『ストレーガ』に不満があるのか?」

マリンの愛機「ストレーガ」は彼女がジャンクパーツと既製品を掻き集めて自主製作したホームビルト機だ。

軍用機に適用される厳しい保安基準をほぼクリアしているため、安全性及び信頼性については特に問題無い。

だが、保安基準はあくまでも安全性を保証するものであり、機体性能の良し悪しはあまり重要視されていない。

「そうだな……率直に言わせてもらえば、私らの機体と同等の性能を発揮できるとは思えない」

それゆえ、サニーズに限らずスターライガの面々は黒いホームビルト機の実力に不安を抱いていたのだ。


 スターライガが接触を図ろうとしている所属不明艦隊の内約は、巡洋艦級6隻に駆逐艦級8隻。

戦艦や空母といった主力艦の姿は確認できない。

おそらく、そちらは第6艦隊の本隊と睨み合っているのだろう。

「レガリア、もう一度最終通告を行うべきだと思うか?」

戦いを避ける可能性を模索するため、最後にもう一回だけ対話を試みることを提案するライガ。

「そうね……やってみる価値はあるかもしれないけど、先ほどの艦隊と目の前の艦隊が同じ勢力だったら意味は無いと思う」

それについてはレガリアも同意見だったが、現実的には対話は難しいと考えていた。

「あなたの小隊に対する迎撃行動――それがアンノウンの答えなのよ。残念だけど、彼らが実力行使に出てしまった以上、こちらも黙って見過ごすわけにはいかなくなった」

彼女は肩をすくめ、深いタメ息を()きながら首を横に振る。

「今回は最終通告は無し。初めから警告射撃で――」

「待って、レガ! 巡洋艦の甲板にMFが……!」

レガリアが火器管制システムのセーフティ解除を指示しようとした時、巡洋艦を眺めていたリリーが大きな変化に気付き声を上げるのだった。


「MFだと!?」

幼馴染の報告を聞いたライガはすぐにHISのズーム機能を使用し、所属不明艦隊の巡洋艦級の一隻をじっくりと観察する。

まだ7~8kmほど離れているため、機体照合による機種の割り出しはできない。

だが、小さいながらもそこそこ特徴的なシルエットから、彼は自分たちが見慣れている機体である可能性を予想した。

「(あの機体……まさか、スパイラルか?)」

「地球製ではない艦艇なのに、艦載機はMFですって? 余計に訳が分からなくなるわね……」

アンノウンが自分たちとほぼ同じ様式の機動兵器を扱っているという事実に頭を抱えるレガリア。

もしかしたらMFに似た別の兵器かもしれないが、見た感じは新人メンバーが乗っているスパイラルC型と瓜二つの機体だ。

「レガリア、発艦した機体を見てみろ。2機がかりで何か運ぼうとしているぞ」

所属不明艦隊から現れた未知のMFを観察していたライガは、彼らが発艦後に怪しいコンテナを受け取り運搬しようとしていることに気付く。

まるで密輸業者のようなやり方だが、所属不明艦はどう見ても密輸船や海賊船とは思えない。

つまり、あの怪しいコンテナには軍需物資が入っている可能性が高い。

「何が入っているか分からん以上、迂闊に手を出すのは危険だな。もし、大量破壊兵器が隠されていたらと思うと……いや、あまり考えたくない」

現段階で先走って攻撃するのは危険だと判断し、まずは追跡及び監視に留めるべきだと提案するサニーズ。

確かに、コンテナを撃ったら核の炎に包まれた――という事態だけは避けたい。

「あなたの言うことにも一理あるわね。よし……バルトライヒよりワルキューレCIC、アルファからガンマの3小隊及びキリシマ・ファミリーのMF部隊で所属不明機の追跡を行う。残りの部隊は引き続き所属不明艦隊の監視を頼んだわよ」

「こちらワルキューレCIC、了解しました。そちらもお気を付けて」

母艦のスカーレット・ワルキューレへ指示を出し、レガリア率いるベータ小隊を先頭に15機のMFは所属不明機たちを追い掛けるのであった。


 所属不明機たちを追跡すること数分。

気付いていないのか意図的に無視しているのか定かではないが、彼らは後方を気にすること無く一定速度で巡航していた。

「マリン、お前なら所属不明機の行き先に見当が付くんじゃないか? この辺りの地理には詳しいんだろ?」

ライガからそう言われたマリンは首を傾げたものの、自分たちの針路上に一つのスペースコロニーがあることを思い出す。

オリエント連邦国内ではあまり大きくは報じられなかったため、1年の大半を地球上で過ごすライガたちは知らないのかもしれない。

「そうだな……そういえば、この先には所謂『トーラス型』のコロニーがあるはずだぜ。確か、ヨーロッパ諸国が共同でプロジェクトを進めているやつだ」

「ああ、『ユーロステーション』のことか。ニュースでは見聞きしていたが、実際の場所は知らなくてな」

マリンが特徴を述べたことでその存在を思い出し、宇宙に浮かぶいくつかのメガストラクチャーを見やるライガ。

その中の一つに白い巨大ドーナツ――ではなく、世界で唯一の環状スペースコロニー「ユーロステーション」の姿があった。

【STC】

「協定宇宙空間時」の略称。

協定世界時(UTC)との時差は+6時間であり、これは宇宙移民政策に積極的なオリエント連邦のロビー活動で決められたといわれている。

国際法により「宇宙空間に存在する居住地域の標準時はSTCでなければならない」と規定されている。

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