【MOD-2】接触
「パルトナよりワルキューレCIC、これより目標へ接近し警告を行う」
「こちらワルキューレCIC、了解。まだ攻撃はしないでください。大事なことなのでもう一度言いますが、『絶対に』許可があるまで攻撃は禁じます」
「俺は分かっているさ……だが、こいつらはどうかな?」
ライガ率いるアルファ小隊は基本的に4人で構成されている。
「やることは分かってるって。できる限り穏便に相手を回れ右させればいいんでしょ?」
一応は小隊長である彼に向かって気安い態度で話し掛けているのは、2番機担当のリリー・ラヴェンツァリ。
X字型のメインスラスターが特徴的な「XL95 フルールドゥリス」を駆る彼女はライガの幼馴染であり、30年前のバイオロイド事件の頃からMFに搭乗している。
民間出身且つ遅咲きのドライバーとはいえ、腕前は決して悪くない。
「姉さん、早まって攻撃したりしないでよ。もしかしたら相手は異星人の可能性もあるんだから……」
「大丈夫! ライガがいるんだから問題無いよ!」
一方、姉さん――リリーのことを心配しているのは3番機担当のサレナ・ラヴェンツァリ。
リリーの双子の妹である彼女はバイオロイド事件後に自らの意思でMFドライバーとなり、主に落ち着きが足りない姉のサポートを務めている。
搭乗機の「XL94 クリノス」もフルールドゥリスの姉妹機である。
「(初めての実戦だ、気を引き締めていかないと……)」
そして、アルファ小隊には今日初陣を飾る一人の若者がいた。
「4番機――おい、聞こえているのか! クローネ!」
「え、あ……はい! 聞こえてます!」
「頼むぞ、お嬢ちゃん。お前の死亡届を書くのだけは嫌だからな」
返答が遅いことを訝しんだライガの呼び掛けにハッとし、申し訳なさそうに返事をするクローネ。
彼女の名はクローネ・アナベラル。
スターライガがスカウトやヘッドハンティング以外の形式で採用した初の人材にして、スポンサーとして電子戦装備などを供与する企業「アナベラル・エレクトロニクス」の社長令嬢である。
建前上は厳格な採用試験に「自力で」合格したとされているが、実際は多かれ少なかれスポンサーによる関与があったと噂されている。
主要メンバーということで事情を知っているライガは、自らの部隊にクローネを配属させることで仕事に集中できるよう配慮していたのだ。
お前が「ペイドライバー」じゃないことを、自らの実力を以って証明してやれ――。
かつて自らも似たような経験をしていたからこそ、彼は大学を出たばかりの新人に大きな期待を寄せていたのであった。
一方、レガリア率いるベータ小隊も基本構成は4機編隊だが、こちらは可変機主体且つ平均年齢が少し高い点を特徴としている。
このうち、小隊長のレガリアと2番機担当のブランデルは第2次フロリア戦役を経験している大ベテランであり、バイオロイド事件ではスターライガの主力を担っていた。
「皆さん、補給や応急修理が必要な時はいつでも呼んでくださいね。私の機体は味方を支援するために造られたのですから」
アルファ小隊を含む仲間たちへ支援の大切さを伝えているのはニブルス・オブライエン。
実業家でもあるブランデルの秘書を務める彼女は、バイオロイド事件が終わった後にMFドライバーになるための訓練を開始。
シャルラハロート姉妹による指導のおかげで実戦に堪え得る能力を獲得し、欠員メンバーの後任としてレガリアたちと共に戦っている。
搭乗機の「AKN-X4000 ベルフェゴール」は名前こそ仰々しいが、その実態は高い機動力を持つ可変型支援機だ。
日本のビデオゲームに着想を得たとされるベルフェゴールの配備により、ベータ小隊は単独で軍事作戦を完結できる特殊部隊のような能力を獲得したのである。
そんな精鋭揃いのベータ小隊も戦力調整の観点から新人を迎え入れる必要が生じ、レガリアは数名の候補者の中から一人の若者を選んだ。
「(これが戦場……大丈夫、訓練通りにやれば生き残れるから……!)」
それがクローネと同じく初陣を迎える彼女――ソフィ・フォルティシモである。
名門フォルティシモ家出身のソフィは一般事務職でスターライガへ入社したのだが、MFドライバーとしての資質をレガリアに見い出され、状況が呑み込めないまま受けた適性試験で見事合格。
競合相手となる軍隊からの引き抜き者がほとんどいなかったこともあり、「ベータ小隊の4番機」という新人にとっては過酷ながらも最高のポジションを得られたのだ。
1度の実戦に勝る訓練は無い――。
場数を踏むことで腕を磨き、ゆくゆくは自分たちの次の世代を担ってくれることをレガリアは期待していた。
「見えてきたな……ふむ、艦影はJAOの艦とは違うのか」
HISのズーム機能で所属不明艦隊を観察しつつ、ライガは無線に声が入らない程度の声量で呟く。
現状、宇宙へ艦隊を派遣できる国は日本、アメリカ、オリエント連邦の超大国ぐらいしかないため、この3か国に属しない全領域艦艇となると、現実的な選択肢は限られてくる。
最初にライガが考えたのはJAOに次ぐ軍事力を持ち、全領域艦艇を擁しているロシア海軍の練習艦隊である可能性だ。
しかし、ロシアはオリエント連邦と数十年来の友好国であり、その関係にヒビを入れるような軍事行動にメリットがあるとは思えない。
仮想敵国のコロニー付近での諜報活動ならともかく、オリエント連邦管轄宙域での訓練なら軍部に伝わっているはずだ。
「(俺たちにとって未知の存在である可能性も高い。ここは慎重に動くべきだな……)」
俺たちがまだ知らない、遠い星々からやって来た異星人かもしれない――。
そう判断したライガは無線のスイッチを入れ直し、僚機へ所属不明艦隊と接触することを伝えるのであった。
所属不明艦隊の一隻――巡洋艦級と思わしき艦へ接近し、ブリッジの四方を囲うように展開するアルファ小隊。
万が一の場合に備え、ベータ小隊は少し離れたところで待機させている。
「サレナ、ここはお前に警告を任せたいんだが……」
「はぁ? どうして私が? こういうのはあなたのほうが慣れているんだから、そっちがやればいいでしょ?」
「そ、そこまで怒ることは無いだろ……いや、論文発表とかで話すのが得意かなと思って……」
自分の身の丈に合わない責任重大な役目を押し付けられ、「そんな大仕事は荷が重すぎる」と強い口調で辞退するサレナ。
スターライガは軍隊ではないので、メンバーは基本的に対等な関係だと規則で明言されている。
相手の意見が間違っていると思うのなら、意見具申を行ったり反対意見を述べることも許されているのだ。
スターライガが求めているのはイエスマンでもノーマンでもない、「イエスとノーを両方言える人間」である。
もちろん、普通は指揮系統が上位のメンバーの意見が優先されるのだが……。
「……もう、子どもの時みたいにしょげないでよ。姉さんに睨まれてるじゃない」
無線越しでも分かるほどの落ち込み方に加え、自機の後方にいるリリー機からの刺々しい視線を感じ取り、サレナは肩をすくめながらもライガを宥めだす。
ラヴェンツァリ姉妹とライガは互いの母親に親交があり、子どもの頃はライガの母が持つ別荘で一緒に遊んでいた。
その頃はとても大人しかったライガの「お姉ちゃん」をやっていたのがサレナだったのだ。
まさか、あんなに小さくて弱虫だった彼が職業軍人になっていたなんて――。
バイオロイド事件の際に再会を果たした時、サレナは奇妙な運命の巡り合わせを笑うしかなかった。
だが……逆に言えばライガとの再会は「そうしなくてはならない理由があり、必然的なものであった」とも考えられる。
「分かったわよ、オープンチャンネルに切り替えてっと――よし、言語はどうすればいいかしら?」
「そうだな……これはあくまでも俺の予想だが、相手は地球外からの来訪者かもしれん。たぶん、何語を喋っても変わらんと思うぞ」
「それは随分といい加減な答えね。まあいいわ、ここはとりあえず母国語で……」
ライガのリーダーとしては少々無責任な回答に呆れつつ、無線電波を包囲中の所属不明艦へと照射するサレナ。
この時点で相手は電波照射を既に探知しているはずだ。
「すぅ……!」
深く息を吸い込んだ後、彼女は緊張しながらも規則に従い最終通告を始めるのだった。
「あー、所属不明艦隊に告ぐ。貴艦らが現在航行している宙域はオリエント連邦の管轄下にあり、無断侵入は領海侵犯にあたる。ただちに公海上の航路へ復帰せよ。迅速な対応が見られない場合、武力による強制退去も辞さない」
淡々とした口調で所属不明艦隊に対し警告を行うサレナ。
相手が警告に応じたり針路を変えようとする素振りは全く見られない。
「……我々が最寄りの宇宙港へ誘導する。了解したら何らかの手段で意思表示を――!?」
その時、所属不明艦の対空砲がサレナの機体へ狙いを定め、何の躊躇いも無く攻撃を仕掛けてくる。
彼女は突然攻撃されるとは全く予想しておらず、回避運動への移行が明らかに遅れていた。
「(くッ……! かわし切れないか!?)」
「サレナッ! 危ないッ!!」
真っ直ぐ飛んで来る機関砲弾を見て直撃を覚悟した次の瞬間、サレナのクリノスを強い衝撃が襲う。
「姉さん!? 何を!?」
黒いMFはその反動で数回転しながらも姿勢を立て直し、すぐに所属不明艦隊から距離を置く。
バックパックから伸びるメインスラスターの外装が少し壊れていることを除けば、幸い機体にダメージは見られなかった。
「アルファ各機、俺のところに集まれ! 仕切り直しだ!」
これ以上の接触は危険だと判断し、ライガはラヴェンツァリ姉妹とクローネを呼び寄せ編隊を組み直す。
「相変わらずツイてないな、サレナ。対空砲火に真っ先に狙い撃たれるなんてよ。んで、被弾とかはしてないか?」
彼はサレナの昔から変わらない不幸体質をからかいつつも、被弾による悪影響は無いかと幼馴染のことを気遣う。
「大丈夫、姉さんの体当たりのおかげで助けられたわ」
「体当たりって……そこはせめて『援護防御』と言ってほしいんだけど」
リリーのフルールドゥリスの右腕は塗装が剥がれ落ち、左腕の実体シールドには弾痕が残っていた。
……そう、彼女は自らの危険を顧みること無く妹を対空砲火から庇っていたのだ。
「それはともかく、最終通告に実弾で答えるとはちょっといただけないよねー」
自機の損傷状況を確認しながら愚痴り始めるリリー。
語尾だけを聞くとお気楽そうに見えるが、その口調は明らかに笑ってなどいなかった。
「ああ、これは実力行使に出ないといけないかもな。少し待っててくれ、次の行動について早急にレガリアと話し合ってくる」
芳しくない状況だなと不安を感じつつ、ライガは長い付き合いの戦友を通信で呼び出すのだった。
「――そうね、本当はここまで緊迫することは想定してなかったんだけど……仕方ない」
無線越しでも分かるほどレガリアの声は落胆していた。
彼女としては穏便に物事を解決するつもりだったのに、所属不明艦隊は「実弾による対空戦闘」という最悪の答えを出してきたのだ。
残念だが、相手が実力行使に出るのなら黙って見過ごすわけにはいかない。
「スターライガ全機、火器管制システムのセーフティ解除! 攻撃を許可――」
「こちらワルキューレCIC、戦闘中止! MF部隊はすぐに帰艦してください!」
レガリアが攻撃許可を出そうとしたその時、通信回線に割り込むカタチでスカーレット・ワルキューレから帰艦命令が発令される。
ワルキューレCICはそうしなければならない理由を分かっているはずだが、前線にいるレガリアたちは当然ながら状況を把握できていなかった。
「何ですって!? バルトライヒよりCIC、状況報告を!」
「コロニー『マグ・メル』付近に大規模な所属不明艦隊が確認されました! コロニーに対し直接攻撃を仕掛けるものと予想されます!」
「落ち着け、『マグ・メル』は建造中のコロニーだぞ! 俺としては居住区がある『アースガルズ』の防衛を……!」
「落ち着くのはあなたの方よ、ライガ。気持ちは分かるけど……」
約10万人が暮らすコロニーの防衛――すなわち、戦闘続行を主張するライガを愛機バルトライヒのマニピュレータで制するレガリア。
リーダーとCICの意見が対立する中、指揮系統では最上位となる彼女が下した結論は……。
「CIC、新たな所属不明艦隊の規模は?」
「戦艦級及び巡洋艦級を中心とする打撃部隊と思われます」
「なるほどね……分かったわ、アルファ及びベータ小隊各機は帰艦。最低限の補給を済ませた後、私たちスターライガはマグ・メル方面へ向かうわよ」
対空砲火を放ってきた所属不明艦を忌々しげに睨みつつ、レガリアたちは母艦の方向へと針路を変える。
彼女がライガの反対を無理矢理押し切るカタチで下した決断――。
果たして、吉と出るか凶と出るか……。
【ペイドライバー】
本来は「高額な資金持ち込みと引き換えに契約を得るレーシングドライバー」に対する俗称だが、プライベーター業界ではそこから転じて「軍需企業の支援を背景に業界入りを狙うMF乗り」を指す。
大企業の関係者を親族に持つ者がプライベーターへ就職する手段の一つとして知られているが、これを快く思わない者も少なくない。
【JAO】
日本(Japan)、アメリカ(America)、オリエント連邦(Olient Federation)の三大超大国を指す俗称。




