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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第1部 BRAVE OF GLORY

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【BOG-49】純白の飛竜(中編)

 カナダ空軍のMF部隊をたった数コンタクトで全滅させたハヅキ隊。

「赤1より2へ、『悪魔』を阻止する」

彼女らの視線の先には、宵闇の中でもそれなりに目立つ蒼い機体――オーディールMの姿があった。

「赤2、了解。隊長機に続きます」

ルナサリアンの精鋭エイシであるユキヒメやスズランを被弾させ、ミナヅキ隊を全滅寸前にまで追い込んだ地球の精鋭部隊。

奴らのことを月の民たちは「蒼い悪魔」と呼んでおり、超兵器潜水艦さえ撃沈する凄腕として恐れる一方、首を討ち取れば銅像が建つとも言われていた。

……もちろん、出世コース狙いで悪魔へ挑んだ連中は大抵返り討ちに遭い、命を失うことになるのだが。

「相手は3機か。まずは1機だけ分断し、2対2の状況へ持ち込むぞ」

ユキヒメ様やスズランのヤツができなかったことをやってのけ、我が隊の名声を挙げる――。

腕利きらしい自信と大いなる期待を胸に、アカネはスロットルペダルを踏み込むのだった。


 一方、ゲイル隊のほうもハヅキ隊のツクヨミ指揮官仕様を目視で捉えていた。

「見たことが無いマークのツクヨミだ」

「肩が赤く塗られているわ……あいつら、きっとエースに違いない!」

アヤネルとスレイが一目見ただけで警戒心を強めるほど、ハヅキ隊の編隊飛行からは「精鋭のオーラ」が漂っている。

セシル並みのエースドライバーであっても、寸分の狂い無く一定間隔を維持するのは難しいのだが、肩に赤い縁取りを持つ敵部隊は常識外れの連携が取れるらしい。

少なくとも、外部から分かるほどのズレは全く生じていなかった。

「赤はエースが好む色だと言うが……ルナサリアンでもそれは同じか。なかなか興味深い」

「そんなこと言ってる場合じゃないですよ、隊長! 攻撃対象の選択は貴女に任せてるんですから!」

やけにマイペースなセシルを窘め、彼女へ指示を仰ぐスレイ。

「意外と大したこと無いかもしれないぞ? 隊長が燃え上がるような闘志を見せないからな」

「もう、アヤネルまで甘く考え過ぎよ。後で痛い目を見ても知らないから」

相方まで妙な発言をし出したことに呆れたのか、スレイはとうとう不貞腐れてしまう。


 とはいえ、セシルが「相手が強大なほど闘志を燃やす女」であるのは紛れも無い事実であり、彼女の平静さにはむしろ違和感を覚えていた。

「……歳を取って落ち着いただけさ。気を付けろよ、奴らは手練れだと見た」

いや、やはり相手の技量を警戒しているらしい。

別に油断していたわけではなかったようだ。

「ゲイル1より全機、肩が赤いMFの相手は我が隊が引き受ける! 他の部隊は『ゴースト』をできる限り始末してくれ!」

「こちらポラリス、了解した。全機、下手に戦場を荒らすなよ。ゲイル隊の邪魔になる」

敵エースは2機編隊――。

だが、奴らは何かしらのメリットを見い出し、あえてこの編制を採用しているのだろう。

「(騎士道精神には反するが……)ゲイル各機、3機がかりで確実に仕留めるぞ! 常に連携を意識して戦え!」

「ゲイル2、了解!」

「ゲイル3、了解」

3機の蒼いMFのメインスラスターが唸りを上げ、強烈な加速力で夜空を翔ける。

その目的は凄まじい機動力を活かせる先制攻撃であった。


「ゲイル1、ファイアッ!」

「赤1、攻撃開始!」

幾条もの蒼い光線が夜空を奔った直後、ゲイル隊とハヅキ隊は空中衝突寸前の至近距離ですれ違っていく。

互いに攻撃を当てやすいヘッドオンとはいえ、エース部隊同士の戦いとなるとさすがに一筋縄ではいかない。

「真っ向勝負で臆せず突っ込んで来たか……良い度胸と腕をしているな。イブキ、反転して再攻撃を仕掛けるぞ」

アカネの予想通り、相手に見えている状態での攻撃は簡単にかわされてしまった。

エースに同じ戦法は通用しない。

ならば、空戦の定石に従って敵機の背後を奪うまでだ。


「くッ、素早い……! 追い付けない!」

機体を方向転換させたイブキは最大推力でゲイル隊を追い掛けようとするが、機動力に差がありすぎて瞬く間に置いていかれてしまう。

ツクヨミは辛うじて音速突破が可能な程度の推力なのに、敵機――G-BOOSTER装備状態のオーディールMはマッハ2に届きそうな「音速を超えた戦い」を見せつけてくるのだ。

機動力の差は勝敗を分かつ決定的な要因では無いものの、常に振り切られるリスクがあるというのは相応のストレスになり得る。

「落ち着け、敵の動きに翻弄されるな! 我々は我々の戦い方に集中すればいい。月の民の空戦理論に負けは無い」

敵機の圧倒的機動力に戸惑う部下を落ち着かせつつ、アカネは頭の中で策を練った。

速度性能に頼った戦いでは絶対に勝てない。

一撃離脱戦法を繰り返してもいずれは破綻し、こちらが撃墜されるだろう。


「(見たことの無い重装備をしているな。あいつら、本当の狙いはヤマタオロチか)」

「蒼い悪魔」には対ヤマタオロチ用と思わしき増加装甲が施されており、噂で聞いていたほど空戦機動は鋭くないように見える。

もしかしたら、そこに付け入る隙があるのかもしれない。

1機ずつ格闘戦へ持ち込み、ハヅキ隊が得意とする連携攻撃で確実に仕留めていく。

空戦にルールは無い。

自分たちが有利な状況へ敵を誘き寄せる――地球人のやり方は知らないが、少なくとも月の民は分の悪い賭けはしない主義だ。

「イブキ、次の攻撃を行った直後に反転して格闘戦へ持ち込む。動きは私に合わせてくれ」

「こちら赤2、了解」

敵機の機首がこちらを睨みつけている。

ハヅキ隊のツクヨミ指揮官仕様も光線銃で「蒼い悪魔」を狙い澄まし、交錯する瞬間を待つのだった。


 2回目のヘッドオン対決ではハヅキ隊が先に動いた。

「射撃開始!」

アカネとイブキは敵編隊の先頭――最も厄介な隊長機に対して攻撃を集中させる。

奴に落とされた同胞の数は60とも70とも言われており、一兵士でありながら賞金が懸けられているという噂さえ耳にした。

しかし、誇り高きユキヒメ様がそんなことをするとは思えない。

どうせ誰かが士気高揚のために嘘情報を流したのだろう。

「いいぞ、敵部隊が散開した!」

「イブキ、1機を集中的に狙え! 2対1の状況と格闘戦を心掛けろ!」

ハヅキ隊の最初の一手は成功した。

敵隊長機の急な回避運動に僚機が反応できず、3機のMFは分散行動を強いられている。

どうやら、敵部隊は隊長とそれ以外の技量差が大きすぎるらしい。

ならば、「つがいの鳥」と呼ばれたハヅキ隊にも勝機があるはずだ。

作戦目標の達成とエースとしてのプライドを懸け、2機のツクヨミ指揮官仕様は「蒼い悪魔」へ襲い掛かる。


「ゲイル2、後方に敵機だ! 振り切れ!」

セシルは自分が集中攻撃を受けた時点で敵部隊の意図を察していた。

隊長機の撃墜または回避運動の強要による統制の切り崩し――そこからの各個撃破が目的だろう。

なるほど、相手はゲイル隊のことをそれなりに研究しているらしい。

「簡単に言わないで! こいつら、ストーカーみたいに張り付いてくる!」

隊長の発言に対し声を荒げて反応するスレイ。

彼女はハヅキ隊の絶え間無い連続攻撃でマニューバを封じられ、一気に加速して振り切るチャンスを掴めずにいる。

相手の狙いは回避運動が途切れる瞬間だ。

少しでも下手な動きを見せれば集中攻撃を浴び、そこそこ頑丈なオーディールといえど一瞬でやられるかもしれない。


「人気者はそういうもんさ――隊長、私としてはゲイル2への援護を提案する」

軽口を叩きながらも相方のピンチを見かねたアヤネルは、意見具申というカタチで自らの意向を示す。

「分かっている、スレイを追い掛けている奴を追い掛けるぞ」

もちろん、セシルも部下に孤軍奮闘を強いるほど愚かな上官ではない。

彼女とアヤネルはスレイをイジメる敵部隊の背後を奪い、すぐに攻撃を仕掛けた。

「ゲイル1、ファイアッ! ファイアッ!」

「ゲイル3、ファイア!」

搭乗者の姿が分かるほどの至近距離だとさすがに警戒され、2機のツクヨミ指揮官仕様は鋭敏且つ統率の取れたマニューバでレーザーの弾幕を回避。

意外なほどあっさりとスレイ機に対する攻撃を切り上げ、仕切り直しのためか離脱していく。


「大丈夫か、スレイ? ストーカーに付き纏われて大変だったな」

「ええ、私は大丈夫よ」

心配するアヤネルの問い掛けに対し、外部から見えないのが惜しまれるほど可愛らしい笑顔で答えるスレイ。

ところが、セシルには両者の遣り取りが「イチャイチャ」しているように見えたようだ。

「……あまりベタベタするな。ほら、嫉妬した連中がまた仕掛けてくるぞ!」

日本には幸せそうなカップルを冗談交じりで「爆発しろ」と祝う慣習があるらしい。

ルナサリアンにもそういう文化があるのかは知らないが、先ほど離脱したハヅキ隊が再攻撃を仕掛けてきたのは事実であった。


 ホッと一息ついたのも束の間。

「もうッ! こいつら、本当に鬱陶しい!」

スレイは2機のツクヨミ指揮官仕様に再び追い掛けられ、フラストレーションを募らせる。

いつもの装備ならあっという間に返り討ちにできるのに、重装備をしている時に限って厄介な連中と当たってしまう。

「ゲイル2、相手のペースに呑まれるな! ドッグファイトは奴らの思う壺だ!」

すぐに援護へ駆け付けながら注意を促すセシル。

だが、頭に血が上がりやすいのはスレイの意外な弱点であった。

今、彼女は明らかに冷静さを欠いている!


「いいぞ、相手の律動が乱れてきた! このまま叩き落としてやるぞ、蒼い悪魔め!」

敵機の動きを完全に捉え、アカネは操縦桿の引き金に指を掛ける。

もう少し……確実に撃ち抜けるタイミングで操縦席を狙い撃つ!

慌てるなよ、ハヅキ・アカネ。

あいつを墜とせば我が隊の名声は上がり、部下たちの待遇も良くなるんだ。

何よりも……士官学校時代いつも上にいたスズランに勝ちたい!

彼女ができなかったことをやってみせる! やってやるぞ!

「隊長! 上方から敵機ッ!」

引き金を引こうとした時、イブキの叫び声がそれを阻む。

「くッ……!」

頭上を確認しつつ反射的に操縦桿を動かし、アカネは慣れた手つきで回避運動へと移った。

鋭い機動でなんとか攻撃をかわした直後、狙っていた個体とは別の蒼いMFが眼前を翔けていく。

「こいつ……! どうやら、我々に構ってほしいようだな!」

この攻撃行動がハヅキ隊の怒りを買い、ターゲティングを変えるキッカケとなったのは言うまでも無い。


 これこそがゲイル隊――正確にはアヤネル個人の作戦だった。

「ゲイル3、勝手に動くんじゃない! 実力はお前よりも相手のほうが上なんだぞ!」

独断専行に近い僚機の行動を咎めるセシル。

自分も無茶をしやすいタイプだから分かる。

ああいうのは周囲に余計な心配を掛けさせる、言ってしまえば「悪いヤツ」だ。

厄介事を起こす前に制止しなくてはいけない。

「お前らの相手はこっちだ!」

「聞こえているのか、アヤネル! 重装備でドッグファイトは無茶だと言っている!」

久々の出撃で張り切っているのか、欠場分の空白を取り返したいのか――あるいは、単にスレイを助けたかったのか。

いずれにせよ、隊長と同じでなかなか言う事を聞かない頑固者らしい。

「クソッ、しょうがないな」

結局、部下の無茶を抑えるためセシルもドッグファイトへ加わるのだった。

……まあ、彼女も本質的にはアヤネルと同じタイプなのだが。


 エドモントン解放作戦以来の出撃とはいえ、今日のアヤネルは調子が良い。

散開中のツクヨミ指揮官仕様の背後へ食らい付き、積極的に攻撃を仕掛けている。

「今日は私も機体もリズムにノれているんだ。悪いけど、ここで撃墜数を稼がせてもらう」

「気を付けて、アヤネル。あなたが思っている以上に手強い相手よ」

援護してもらった恩があるとはいえ、相方の先走りがちな行動へスレイは注意を促す。

「大丈夫だ、問題無い!」

心配げな彼女に対し力強く答えるアヤネル。

だが、一心同体の敵部隊に苦戦しているのは火を見るよりも明らかだった。

リズムにノれているというより、ハヅキ隊の手の平の上で踊らされていると表現すべきだ。


「無様なものだな。重装備ではまともに踊れまい――さあ、火の塊となって落ちろ!」

アカネ機の光線銃から蒼い光が放たれ、オーディールのG-BOOSTERへ直撃する。

「被弾した!? くッ、まだまだッ!」

幸いパージが必要なほどのダメージではなかったものの、次は確実に必殺必中を狙ってくるだろう。

執拗なまでに集中攻撃を浴びせられ、しまいには増加装甲が剥がれ始めるアヤネルのオーディール。

「(ブースターのパージ……いや、ダメだ。ここで失くしたら『ドラゴン』にダメージを通せなくなる)」

彼女はG-BOOSTERのパージを試みたが、作戦内容を思い返し考え直す。

追加装備前提の大型重火器――それが無ければヤマタオロチの厚い装甲を貫くのは不可能に近い。

だから、前哨戦でブースター及び付加武装を捨てるわけにはいかなかった。


 一方、ハヅキ隊の背後から攻撃を仕掛け、可能な限り注意を惹き付けようとするセシルたち。

「どうするんです、隊長? このままでは埒が明きませんよ」

スレイの言う通りだ。

敵部隊の猛攻は確かに凄まじいが、追われるアヤネルもかなり踏ん張っている。

正直、ここまで強くなるとは思っていなかった。

しかし、この極限状況でいつまで集中力が持つか。

少しでも緊張の糸が切れた瞬間――その時が彼女の最期になるだろう。

「分かっている、今のアヤネルなら使いこなせるかもしれん……!」

「使いこなせるって……どういうこと?」


 戦友の窮地を救うため、セシルが導き出した秘策とは……?

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