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【完結済み】MOBILE FORMULA 2132 -スターライガ∞-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
第1部 BRAVE OF GLORY

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【BOG-37】暗闇の狙撃手(前編)

 ここはアメリカ軍が担当する市南部の区域。

相応の損害を出しながらもカルガリー国際空港の奪還に成功したため、戦闘機以外の航空部隊やヘリボーン用の「MV-22C スーパーオスプレイ」は既に同空港へと移動している。

膠着状態が続くエドモントン国際空港に海兵隊員を乗せたMV-22Cが複数機向かう中、アメリカ軍最強にして最後の攻撃機「A-10D サンダーボルトⅡ」を運用する部隊は、エドモントン市南部での近接航空支援に赴いていた。


「友軍部隊が航空優勢を確保してくれたか、頼もしいぜ」

「『アヴェンジャー』で地面は耕せても、ハエを撃ち落とすのは厳しいっすね」

A-10Dの主兵装である30mm航空機関砲「GAU-8 アヴェンジャー」は戦車すら蜂の巣にできるほどの破壊力を持ち、同武器と空対地ミサイル「AGM-65L マーベリック」があれば大抵の作戦は遂行可能である。

また、レジスタンスが設置した発振器のおかげでレーザー誘導爆弾「ペイブウェイⅥ」が使えるため、精密攻撃にはそれを用いるよう指示されている。

ただし、地上の敵に対しては滅法強いものの空対空戦闘は苦手なので、制空権を常に確保できる状況――最低でも航空優勢でなければ投入は難しいのだ。


「トーチカを発見! 攻撃する!」

低空飛行で品定めを行っていた1機のA-10Dは「獲物」を発見し、ノーズアートが描かれた機首をトーチカの方へと差し向ける。

対空機銃による迎撃を正面から受けることになるが、A-10Dの重装甲の前では豆鉄砲程度の威力でしかない。

「ガンの射程内、ファイアッ!」

パイロットが操縦桿のトリガーを引くと、唸るような動作音とほぼ同時に「アヴェンジャー」から大量の劣化ウラン製30mm徹甲弾が放たれる。

対戦車戦を想定したその火力は凄まじく、頑強に造られているはずのトーチカを内部の兵士諸共撃ち砕いた。

脆弱な人体に30mm徹甲弾が命中したらどうなるか……。

容易に想像できるが、あまり考えたくはない。


 高い対地攻撃力を持つA-10D部隊による的確な近接航空支援の結果、市南部のルナサリアン地上戦力はほぼ一掃された。

カナダ軍やオリエント国防軍もレジスタンスの支援を受けながら敵を確実に撃破しており、最終目標の市中心部を攻め落とせば戦いは終わる。

味方の通信では噂の「ゲイル隊」もかなり活躍しているらしい。

「隊長。俺にも恋人ができたって話、しましたっけ?」

3番機を担当する若いパイロットがどうでもいい話を振り始めた。

「前にも聞いたぞ、それ」

それに対して興味無さげな反応を示す隊長。

「カワイ子ちゃんと噂のあの娘か? んで、初デートは何時なんだ?」

一方、2番機のパイロットはからかうように後輩へ聞き返す。

「この作戦が成功したら休暇を貰えるんで、ジョージア水族館にでも行こうかと」

「ほほぅ、ロマンティックじゃねえか」

他愛のない、とても平和な会話。

そのひと時を終わらせたのはAWACSからの通信だった。


「警告! 後方にアンノウン出現! 76戦闘飛行隊、お前たちの真後ろだ!」

レーダー上に突然現れた6つの赤い光点。

次の瞬間、76戦闘飛行隊を示す4つの青い光点が一斉に消滅する。

代わって表示されたのは「機影消失」を意味する×マークであった。

「クソッ! もう少し早く気付けていれば……!」

敵増援の早期察知はAWACSの役目なのに、それを果たせなかった――。

自らの不甲斐なさに怒りを覚え、必要書類が置かれた作業スペースを殴り付けるポラリス。

あの隊の若い3番機は少々私語が多かったが、悪い奴ではなかった。

「増援……!? ダメだ、避け切れねえ――!」

「遠距離からレーザーが来る! こいつら、チューレの時のスナイパー部隊だ!」

「チクショウ! こんなところで出くわすなんて!」

たった6機の増援部隊が次々と地球側の航空戦力や地上部隊を撃破し、レーダー上の×マークを増やしていく。

おそらく、ゲイル隊を相手取る時のルナサリアンの指揮官はこういう気持ちなのだろう。


「こちらカナダ陸軍第20独立野戦連隊! AWACS、スナイパー部隊を追い払ってくれ! 目標制圧までの時間稼ぎを頼む!」

エドモントン市庁舎及びアルバータ州会議事堂を攻略中のカナダ陸軍部隊が攻撃を受けている。

彼らが壊滅したら作戦は失敗に終わり、ここまでの戦闘で生じた人的・物的被害が無駄なものとなってしまう。

……将兵たちへこれ以上の出血を強いるわけにはいかない。

「了解した……エースの相手はエースに任せる! ゲイル隊、敵増援部隊を全て撃墜しろ!」

無線周波数をオリエント国防空軍のチャンネルに設定すると、ポラリスはヘッドセットマイクでそう叫んでいた。


 補給のため母艦アドミラル・エイトケンへ戻っていたゲイル隊は、格納庫でエナジーバーを頬張っている時に敵増援の一報を耳にした。

「もぐもぐタイム」を終えた彼女らは対MF戦用装備に変更された愛機へ再び乗り込み、戦闘空域へと舞い戻る。

「相手はチューレの時のスナイパー部隊らしいね。あっちが6機なら、こっちも3機加勢すればイコールコンディションだ」

そう言いながら合流してくるのは、リリス率いるブフェーラ隊以外に考えられない。

「セシル姉さま……いえ、ゲイル1。敵増援がスナイパー部隊というのは確かなのですか?」

ローゼルに限らずブフェーラ隊の面々はチューレ前線基地の戦いに参加していないため、スナイパー部隊の本当の恐ろしさを知らないようだ。


「この状況を見る限り、敵方には腕の良い狙撃手がいるな」

幼馴染の質問に対し率直な答えを述べつつ、セシルは眼下の市街地へ視線を移す。

所々で上がっている黒煙の大半はルナサリアンの軍用車両だが、スナイパーにやられたA-10Dの無残な墜落現場も確認できる。

「上を飛んでいるのはゲイル隊か? お前ら、ゲイルの連中の下にいれば生き残れるぞ!」

「待て、ゲイル隊は3機編制だと聞くがな。どう見ても2倍の数がいるぜ」

「ゲイル隊に追従するような部隊だ。あいつらもエースに違いない」

よく目を凝らすと、市庁舎周辺に展開するカナダ陸軍の兵士たちがこちらへ手を振っているのが見えた。

そして、彼らを狙うスナイパー部隊との交戦が近いことも意味している。


「ゲイル1より各機、散開して狙撃機を(あぶ)り出す。ここから先は単独行動だ」

相手の数は6機と決して多くない。

だが、彼女らはこちらが手出しできない距離から攻撃してくるうえ、複雑な市街地で芋虫のように姿を隠しているのだ。

AWACSの強力な機上レーダーで見つかればいいが、コンクリートジャングルに潜む4~5m級の機動兵器を安全圏から見つけ出すのはかなり困難だろう。

セシルたちが自力で索敵するにしても、固まって行動していては効率が悪すぎる。

「敵機を発見したらデータリンクで位置情報を共有し、可能ならば自力で撃墜しろ」

個々人の技量を信じ、セシルは単独行動で敵を探させることを決断した。

「行くぞ! 全機、散開(ブレイク)!」

彼女の指示に合わせて6機の蒼いMFが散開。

敵機の居場所を突き止めるべく、各機は思い思いの方向へ飛び去るのだった。


「白5より白1へ、敵部隊の散開を確認。これより各個撃破を開始します」

「こちら白1、了解。蒼い奴らは手強いぞ、今までの敵とは別格だ」

白1――ミナヅキ・ニレイの率いるサキモリ部隊は俗に「白部隊」と呼ばれている。

本来なら各防衛ラインが維持できている間に出撃したかったが、現地の抵抗勢力(レジスタンス)による破壊工作で補修部品や燃料弾薬の備蓄をダメにされたため、出撃準備を整えるのに手間取ってしまったのだ。

使える燃料弾薬をかき集めているうちに防衛ラインは次々と突破され、占領軍司令官はエドモントンの放棄を決断。

彼女と彼女の部下数名は司令部偵察機で一足先に撤退――安全圏へ向かう途中で撃墜されてしまったと噂になっている。

……まあ、そんな上官のことはどうでもいい。


「(そういえば、ウチの部隊のエイシもだいぶ入れ替わったな……)」

ニレイの部隊はチューレ前線基地を失った後も数多くの作戦へ参加し、その度に開戦以前から引き連れていた部下との別れを経験してきた。

優秀な精鋭部隊なので上層部に陳情すれば機材も人材も補充できるが、配属されるエイシは一通りの操縦訓練を終えただけの新人ばかりだ。

彼女らを教育すべき熟練者は他部隊へ引き抜かれていき、訓練不足による平均レベルの低下に悩まされている。

平時から事務作業や打ち合わせで多忙なニレイに、新人たちの教育へ集中する余裕など無い。


「見つけた! 追い掛ける!」

最初に敵機――肩部装甲の縁が白いツクヨミを発見したのはアヤネルであった。

彼女は先制攻撃を受けながらも咄嗟の判断で回避し、レーザーの光跡から相手の位置を割り出すことに成功していた。

「ゲイル1より3へ、敵の居場所が分かったのか?」

「ええ、データリンクで全ての味方機へ送信しました。でも、1機ぐらいなら自力で仕留めきれます!」

1人1機は撃墜しないと間に合わない以上、隊長など味方の手を煩わせるわけにはいかない。

ここはアヤネル単独で敵を片付けることにする。


「(路地へ逃げ込むつもりか……ならば!)」

入り組んだ市街地を縫うように逃げる敵機。

おそらく、地球側が民間施設への誤射を躊躇(ためら)うの分かったうえでの行動だろう。

相手の策に乗るつもりは無い。

アヤネルは操縦桿を引き、市街地スレスレの低空飛行で地上を駆ける敵機影を捕捉する。

スラスターの蒼い光が目立つことに加え、灯火管制を解除された町自体が明るいため、目視でもツクヨミの姿を追うことができる。

「(最小限の手数で確実にやる……!)」

操縦桿のトリガーに人差し指を掛け、いつでもレーザーライフルを使えるよう準備しておく。

今は必中のチャンスを待ち続けるだけだ。


 敵機が見通しの良い大通りへ差し掛かっている。

「ゲイル3、ファイア!」

細い路地から大通りへ飛び出す瞬間を見極め、アヤネルは操縦桿のトリガーを引く。

彼女の愛機オーディールMから放たれた蒼い光線は命中――せず、着弾地点のアスファルトをドロドロに溶解させてしまう。

「チッ、外したか」

相手も覚悟を決めたのだろうか。

アヤネルの攻撃をかわした敵機は逃げの姿勢をやめ、得物のスナイパーライフルを構えながら反撃へと転ずる。

「(この間合い、オーディールなら格闘戦へ持ち込んだほうが良いな)」

スロットルペダルを踏み込み、相手のレーザーを回避しながら同じようにレーザーを放つ。

敵機とすれ違ったところでちょうどライフルが弾切れになったため、これを投棄しながらノーマル形態へ変形。

空いた右手でビームソードを抜刀し、1対1の格闘戦に移行するのだった。


 コックピット内での一挙手一投足が分かるほどの間合いならば、瞬間的な照準移動が難しいスナイパーライフルの攻撃は当たらない。

どうしても直撃しそうな場合は最小限の動きで回避するか、オーディールの特徴であるビームシールドで防御すればいい。

敵機は今さら格闘武器へ持ち替えているが、その僅かな判断ミスが命取りだ。

「もらったッ!」

機動力を活かして相手の懐に飛び込むアヤネル機。

蒼いMFはツクヨミの斬撃を左腕のビームシールドで受け止めつつ、右手のビームソードを敵機の腰部へ突き刺していた。

その状態で光の刃をゆっくり斬り抜いた直後、ツクヨミの上半身が前方へと転げ落ちる。

僅か数m程度の落差ということもあり、コックピットブロックは特に損傷していないようだ。


「聞こえているか、ルナサリアンのドライバー! 急いで脱出しろ!」

コックピットから這い出してきた敵兵に対し、アヤネルはそう叫んでいた。

言葉が通じない異星人同士とはいえ、彼女の意図を察してくれたらしい。

ルナサリアンのドライバー――もといエイシは愛機ツクヨミの残骸処理で試行錯誤した末、護身用のハンドガンを携えながら暗い裏通りへ向けて走り去っていく。

「(地元の連中と違って、私はあんたたちを憎んでいるわけじゃない)」

アヤネルは先ほど放棄したレーザーライフルを回収し、僚機を援護するために再びエドモントンの夜空へ飛び立つのであった。


 エース部隊との戦いにおいて最大の貧乏くじを引いてしまったのが、ブフェーラ隊の3番機――アーダ・アグスタである。

彼女が見つけ出した敵機の搭乗者は……。

「くッ、オーディールの運動性でも振り切れないなんて……!」

そう、よりによってアーダは敵部隊の隊長であるニレイとかち合ってしまった。

ツクヨミといえどニレイの搭乗機は高性能な指揮官仕様。

彼女の操縦技量を考慮すると、戦闘力の差は無きに等しいだろう。

「ッ……!」

背後を完全に奪われているが、打開策はまだ残っている。

敵機がピッタリと追尾しているのを確認し、アーダは機体を急減速させたのだ。

オーバーシュートによる攻守逆転――「普通のドッグファイト」なら確かに有効だが……?


「よし、もらったぞ――なッ!?」

減速が間に合わず、オーディールの前へ飛び出してしまうツクヨミ。

アーダが操縦桿のトリガーを引こうとした瞬間、ニレイは極めて旋回半径の小さい後方宙返りを披露。

そして、一瞬の交錯タイミングと同時に爆発が起こる。


「ブフェーラ3がレーダーからロスト!」

爆発に気付いたセシルたちが目にしたのは、黒煙を振り払うように現れるニレイのツクヨミ指揮官仕様であった。

【最後の攻撃機】

基本設計がとにかく古いうえ、宇宙で運用できないA-10は本戦争の終結を以って退役を開始する予定。

後継機はSF-15E及びペイロードの大きな新型MFが担うとされている。

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