第二百十七話 「次なる選択」
小田領の攻略は、あまりにも静かに終わった。
一日。
それだけで常陸南部の勢力図は塗り替えられた。
略奪はなし。
領民の生活は維持。
年貢は軽減。
支配はむしろ安定へ向かっていた。
その報告を受け、佐竹本陣では空気が変わっていた。
成功。
しかしそれ以上に「次」が現実味を帯びてきたためである。
その場にいるのは
佐竹義重 と、軍師である 明智光秀 。
光秀は淡々と地図を広げた。
小田の南。
そのさらに先。
そして西へ。
指が止まった先には一つの名があった。
「宇都宮」
宇都宮国綱。
その名を見た瞬間、家臣たちの空気がわずかに変わる。
宇都宮は小田とは違う。
規模も歴史もある。
軽くは扱えない相手だ。
だが光秀は迷わなかった。
「使者を出します」
その言葉に広間がざわつく。
義重が目を細める。
「臣従を求めるか」
「左様」
光秀は即答した。
そして静かに続ける。
「佐竹への臣従を伝えよ」
「同時に織田の後ろ盾を明示する」
空気が張り詰める。
それはもはや“交渉”ではない。
通告に近い。
光秀は続けた。
「受け入れれば、そのまま勢力として組み込みます」
「拒めば」
一拍置く。
「次は宇都宮を攻略します」
その場の家臣たちが息を呑んだ。
あまりに明確な宣言だった。
義重は光秀を見る。
「そこまで一気に進めるか」
光秀は静かに頷いた。
「小田で証明できました」
「戦は長引かせない方がよい」
「中途半端な勢力を残せば、必ず火種になります」
義重はしばし黙る。
そして低く笑った。
「関東を整理する、というわけか」
光秀は否定しない。
「整理ではなく統一の準備です」
言葉は穏やかだが、その意味は重い。
宇都宮は選択を迫られる。
従うか。
戦うか。
どちらにしても、関東は動く。
やがて義重はゆっくり頷いた。
「よかろう」
「使者を出せ」
命令が下ると同時に、佐竹の軍勢は次の段階へ移行していく。
一方その頃。
岐阜では 織田信長 が関東の報告を受けていた。
「宇都宮か」
小さく笑う。
「光秀らしいやり方よ」
盤面はすでに一手先ではない。
三手先へと進んでいる。
そして誰もまだ気づいていない。
この流れが、関東全体を巻き込む渦へ変わっていくことに。
本能寺まであと二百日。




