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細川ガラシャになる前の明智玉でした。父の謀反を止めないと私が燃えるので必死です  作者: れんれん


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201/201

第二百一話 「生まれる前に」

岐阜城。


夏の日差しが強くなり始めていた。


玉の腹もはっきりと分かるほど大きくなり、 城中の者たちはますます気を遣うようになっていた。

「玉様、暑くはございませんか」

「大丈夫です」

「冷たい水をお持ちします」

「ありがとうございます」

侍女たちの心配は尽きない。


玉自身も最初は戸惑っていたが、 今ではそれが当たり前になりつつあった。

自分一人の身体ではない。

そう思うと自然と慎重になる。


縁側では熙子が穏やかな表情で娘を見ていた。

「母上」

「どうしました」

「子は皆、このように生まれてくる前から大切にされるものなのでしょうか」

熙子は少し驚き、 それから優しく微笑んだ。

「もちろんです」

「父も母も、家族も」

「皆が無事を願うのです」

玉は腹へ手を添える。


そうか。

自分もそうだったのだ。

今まで考えたこともなかった。

未来ばかりを追い、 歴史ばかりを気にしていた。

だが自分も、 こうして育てられた。

そう思うと少し不思議な気持ちになる。


その頃。

表では信忠が評定を終えようとしていた。

「美濃の収穫見込みは良好にございます」

「近江からの荷も順調です」

「関所の混乱も減っております」

信忠は頷いた。

戦が減る。

すると民が動く。

民が動けば商いが増える。

商いが増えれば銭が回る。

その循環が少しずつ形になっていた。


評定が終わると、 光秀が静かに言った。

「若殿」

「何だ」

「最近は皆、未来の話をするようになりましたな」

信忠は少し考える。

昔は違った。

次の戦。

次の敵。

そればかりだった。


だが今は、

来年の収穫。

新しい港。

街道整備。

そういった話が増えている。

「良いことだ」

信忠はそう答えた。

「明日を考えられるということだからな」

光秀も静かに頷いた。

それこそが信長の目指している形なのかもしれない。


一方。

安土城。

信長は各地からの報告を眺めていた。

西。

順調。

四国。

順調。

関東。

静観。

大きな問題はない。

だが信長は油断していなかった。


むしろ。

問題がない時ほど警戒する。

「里見はどうしておる」

信長が尋ねる。

「引き続き関係を望んでおります」

長秀が答える。

「そうか」

信長はそれ以上何も言わなかった。

焦る必要はない。

向こうから近づいてくるなら、 利用できる時に利用すればいい。

今はまだその時ではない。


そして備中。

秀吉は高松城を眺めていた。

城は苦しい。

それは間違いない。

だが毛利も簡単には折れない。

「もうひと押しじゃな」

秀吉が呟く。

官兵衛も同意した。

この戦が終われば。

中国地方の情勢も大きく動く。

皆がそれを理解していた。


その夜。

岐阜城。

信忠は静かに玉の隣へ座った。

庭では虫の声が聞こえる。

しばらく二人とも何も話さなかった。

やがて玉が言う。

「信忠様」

「何だ」

「この子はどんな子になるでしょう」

信忠は少し困った顔をした。

そして。

「分からん」

と正直に答えた。

玉は思わず笑う。

「そうですね」

「分からぬ」

信忠も笑った。


だが。

一つだけ願うことがある。

戦に追われるだけの人生ではなく。

未来を見られる時代を生きてほしい。

それは二人に共通する願いだった。


本能寺まであと二百九十五日

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