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細川ガラシャになる前の明智玉でした。父の謀反を止めないと私が燃えるので必死です  作者: れんれん


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第百五十九話 「安土へ行く殿、岐阜を預かる嫡男」

岐阜城、本丸。


商人たちは織田銭を手にして活気づいていた。

だが城内の空気は、祝いから政へと切り替わりつつあった。


信長は、岐阜に留まらない。

安土へ行く。

そこを政務の中心とし、天下の形を整えるためだ。


岐阜は織田の要。

兵站、貨幣、物流、そして家中の結束。

ここを揺らせば、天下は揺らぐ。

ゆえに信長は、岐阜を最も信頼する者に預けることにした。


本丸の広間。

信長は上座に座し、信忠と玉、そして光秀を前にしていた。

帰蝶もまた、その場に控えている。

信長は短く言った。

「俺は安土へ行く」

その声は淡々としているが、命令そのものだった。

信忠は膝をつき、深く頭を下げる。

「はっ」

信長は続けた。

「安土で政務を行う」 「天下の形を整える」

「岐阜は残す」 「だが岐阜は、ただの城ではない」

信長の視線が鋭くなる。

「岐阜は銭だ」

「銭を握れば、国を握る」 「堺を締めた今、織田の銭が天下を流れる」

「だから岐阜を揺らす者が必ず出る」

信忠は目を伏せたまま答える。

「心得ております」


信長は信忠を見下ろし、告げた。

「信忠」

「貨幣の製造」 「荒銭の回収」 「鋳造所の管理」

「全てお前に任せる」

広間の空気が僅かに震えた。

それはつまり、岐阜の経済の支配権を信忠に与えるということ。

信長は続ける。

「さらに――」

信長の声が低くなる。

「内部調査の決定権も、お前に持たせる」

信忠が顔を上げた。

「……内部調査の」

信長は笑った。

「家中が割れれば終わりだ」 「妬みと欲は、戦より恐ろしい」

「怪しい芽があれば、躊躇なく抜け」


その言葉は、信忠に刃を渡す宣言だった。

信忠は深く頭を下げる。

「必ず、岐阜を守ります」

信長は光秀に視線を移した。

「光秀」

光秀は一歩進み、膝をつく。

「はっ」

信長は淡々と命じた。

「お前は岐阜に残れ」

「信忠の補佐をせよ」

光秀は即答する。

「承知いたしました」

信長は続けた。

「だが補佐だけではない」

「内部調査の執行は、お前がやれ」

光秀の目が僅かに揺れた。

執行。

つまり、調べ、掴み、摘発し、処断に繋げる役目。


信長は言った。

「信忠が決める」 「お前が動く」

「岐阜は、お前の手で静めよ」

光秀は深く頭を下げた。

「御意」


帰蝶が静かに口を開いた。

「殿」

信長が目を向ける。

帰蝶は玉を見た。

「玉は奥を預かります」

信長は頷く。

「当然だ」

そして信長は玉へ言った。

「玉」

玉は頭を下げる。

「はい、父上」

信長は淡々と告げた。

「帰蝶は安土へ行く」 「岐阜の奥は、お前が頂点だ」

玉の胸が跳ねた。

帰蝶がいなければ、奥は揺れる。

奥が揺れれば、家中が揺れる。

玉は正室として、織田の心臓を握ることになる。


信長は最後に言った。

「好きにやれ」

玉は深く頭を下げた。

「必ず、奥を乱させませぬ」

その場で信忠が言った。

「父上」 「安土での政務は、どのように」

信長は笑った。

「決まっている」

「天下の形を作る」 「諸国を従わせる」

「そして、次の世を始める」

信忠はその言葉を胸に刻んだ。

安土は天下の中心。

岐阜は天下の血管。

どちらが欠けても織田は倒れる。


信忠は思う。

父上は、岐阜を俺に託した。

これは信頼ではなく、試練だ。


出立の日。

信長は軍勢を伴い、安土へ向かった。

帰蝶もまた輿に乗り、その列に続く。

岐阜城下の民は頭を下げ、武士は槍を揃える。

信長は馬上から振り返り、信忠を見た。

信忠は黙って頭を下げた。


信長は笑った。

何も言わず、そのまま前を向く。

安土へ。

天下の中心へ。

信長の列が見えなくなると、岐阜城は一瞬だけ静まり返った。

だがその静けさは、次の戦の始まりでもあった。


その夜。

岐阜城の政務の間。

信忠は机に座し、帳簿を広げる。

鋳造所の銅の入荷量。

荒銭回収の数。

堺への支払いの記録。

岐阜の両替所の動き。

信忠は筆を取り、淡々と命を書きつけた。

「鋳造所の警備を倍にせよ」

「荒銭回収の目標を上げよ」

「織田銭の流通を岐阜、尾張、近江へ優先して徹底せよ」

それは戦よりも地味だ。

だが天下を作るには、こうした積み重ねが必要だった。


光秀が静かに言った。

「若様」 「調査の件も、進めねばなりませぬ」

信忠は頷く。

「父上から決定権を預かった以上」 「曖昧にはできぬ」

信忠は光秀を見た。

「光秀」 「お前が動け」

光秀は深く頭を下げた。

「承知」

信忠は続けた。

「まずは銭の流れを追う」 「堺と繋がる者がいるなら、必ず尻尾が出る」

光秀は静かに答えた。

「すでに手を打っております」

信忠は目を細めた。

「早いな」

光秀は淡々と答える。

「火種は早く摘むべきです」


奥では、玉が静かに座していた。

帰蝶は安土へ行った。

この城の奥は、玉が頂点となる。

侍女たちが並び、頭を下げる。


玉は淡々と告げた。

「これより奥向きの命は、全て私を通しなさい」

「勝手な噂話を回した者は許しません」

「奥が乱れれば、殿の天下が揺らぎます」

侍女たちの背筋が伸びる。


玉は思った。

戦は外にある。

だが内もまた、戦だ。

そして今、岐阜は信忠様の城。

信忠様が政を学び、貨幣を作り、内部を締める。

光秀が影となり、火種を探す。

私は奥を整え、家中を揺らさない。

それぞれが役割を持ち、織田を支える。

玉は静かに息を吐いた。

歴史は変わっている。

だが変わった歴史を守らねば、意味がない。


本能寺まであと三百八十八日

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