ガールミーツガール②
「い、今からお茶でもどうかしら?」
日が完全に落ちたターミナル駅前。見知らぬ少女からの突然の誘いに、百合は目を白黒させる。
新手のナンパ? それとも何かの勧誘?
加速し回る思考回路。けれど、動き続け熱を持てばショートするのが回路というもので。
「は、はい」
思わず百合はそう返していた。
どうしてこうなった……。
ターミナル駅内部にある、チェーン展開されている喫茶店店内。店員に案内された席に着いた百合は、項垂れた。
「ごめんなさいね、急に。知ってる娘にあまりに似ていたから声をかけてしまって」
「あ、ううん。大丈夫気にしないで」
テーブルを挟んで対面に着いている少女に声をかけられ、反射的に、項垂れ下がっていた顔を上げ笑みを向ける。
それにしても、こうして対面して改めて思う。
年の頃は自身と同じぐらいに見えるが、白い髪に、磁器のように白い肌、切れ長の瞳に、160センチはありそうな身長と均整のとれたスタイル。
同性の百合から見ても、まるで精霊のような美しさだ。
「これも何かの縁かもしれないし、自己紹介しておこうかしら。氷川雪よ」
未だ戸惑いを隠せない百合とは対照的に、既に落ち着きを取り戻している少女、雪。
「上石百合です」
「百合ね、いい名前ね」
自己紹介も終わり、注文したコーヒーに口をつける雪。そんな彼女に、百合は恐る恐る声をかける。
「似てる子って、大切な友達とか?」
「友達……とは違うけど、そうね、とても大切な子よ。けど、どうしてそんな事を?」
「いや、だって」
問いかけ返され、言い淀む。
今でこそクールで落ち着いた雰囲気だが、だからこそ、我を忘れ、腕をつかんだことがそれほどの存在なのだと語っている。
そのことを伝えようと、百合が口を開きかけたときだった。
「ねぇ、百合。貴女学校や自宅で何か困ってることが起きているんじゃないかしら?」
不意に雪の視線が鋭くなり、そう問いかけてきたのだ。
反射的に脳裏に浮かぶのは、つい数時間前まで目にしていた体育館倉庫の惨状。
けれど、どうして雪がそのことを?
学校の生徒ではないはず。在校生ならば、これほどの見た目、噂になっているはずだ。
なら事件の関係者か、はたまた……。
そこまで考え、百合の脳裏にある可能性が浮かび上がった。というより、何かの番組で見たのを思い出したのだ。
新興宗教の勧誘で、悩みを聞き、入信を勧めてくるというのを。
あ、これダメなやつだ。
脳内でダラダラと冷や汗をかく。と、そんな時だった。静かな店内にスマホの着信音が鳴り響いたのだ。
発信源はそう、百合のカバンの中。
チラッと雪を見やる。すると察したのだろう、コクリと頷き促してくれた。
断りを入れ、カバンからスマホを取り出し確認する。すると、ディスプレイには『龍宮寺楓』という文字が。
その名前に面倒くささを感じながらも、通話ボタンを押す。
「はい、もしも」
「百合ちゃんですか!? 今どこにいるんですの?」
百合の言葉を遮るように、通話口から届く、鈴を転がしたような声。もっとも、今は切羽詰まった様子で、警報機のようなやかましさだが。
「まだお帰りになっていない様子、まさかまだ生徒会長として働かされているんですの? それは何という蛮行。主に降りかかる災厄は、メイドとしてこの私が」
「ストップストップ。もう帰宅して、駅にあるスタボで少し休んでるだけだから。あと、誰が主で、誰がメイドか。私たちはただの幼なじみでしょうが」
「ですが」
「あー、ハイハイ分かりました。今から帰るから、待っててくださいな」
「本当ですの? それでは、お布団を私の人肌ほどに温めて」
何やら聞き捨てならないことを口にしている気がするが、構わず通話を切り、スマホをしまい雪に向き直る。
「と言うわけだから、ゴメンね。早く帰んないとちょっとおかしな幼なじみが暴走しそうだから」
急いで飲み物を飲み干し、身支度をして百合は足早に店を後にした。
「やれやれ、騒がしい人ね。そんなところまでそっくり」
そんな姿を、懐かしむような笑みを浮かべて雪は見送った。しかし、すぐにその瞳は鋭くなり。
「けど、だからこそ気になるわねあの匂い。少し調べてみましょうか」
ある日の朝、私立清峰高校は浮足立っていた。その最たる震源地である2年前A組に登校した百合は、クラスメイトたちのその様子に眉をひそめた。
「おはよ。みんなどうしたの、何だか賑やかなんだけど」
自分の席に向かい、近くの席の女子生徒に声をかける。
「あ、会長おはよ。なんか転校生が来るみたいだよ、しかもこのクラスに」
「おっ、転校生? けど、それにしてもなんだか騒がしくない?」
そう苦言を呈し、教室内を見回す。
確かに転校生は学校内でもトップクラスの特殊イベントだが、それにしてもヤケにクラスメイト達のテンションが高い。特に男子に至ってはお祭り騒ぎだ。
「なんでも、その転校生を見かけた子がいるんだけどすっごいきれいみたい。まるで雪の妖精みたいだったって」
「へー、そうなんだ」
単調に返しながらも 、雪の妖精、その言葉に百合の脳裏にある少女の姿が浮かび上がった。
いや、まさかそんな事……。
「はーい、みんな席つけ」
しばらくし、担任が教室にやってきて教卓へ。
それを見て、今まで思い思いの場所で友人と話していたクラスメイト達は自らの席へ。
全員が着席したのを見届け、担任は一度咳払い。
「朝のホームルームを始める前に、みんなに紹介する子がいる。転校生だ」
担任の言葉に、クラスメイト達のテンションが自然と上がる。その様子を担任は満足げに眺め、視線を教室前方のドアへ。
「それじゃあ、入ってきなさい」
促され、ガラガラとドアが開きある少女が教室に足を踏み入れた。
その少女は雪のように白い長い髪をなびかせ、担任の隣へ向かい、黒板に名前を書く。
氷川雪、と。
「転校生の氷川雪です。皆さんよろしく」
そうして、転校生の氷川雪は深々と頭を下げた。




