第五十四話
直美たちがグリムリーパーの大型モニターに映し出された帝国軍の様子を伺う。この画像は、沢山あるカメラから収集した中からオオサカが厳選したものだ。
「どないや、ええ感じに映っとるやろ?」と得意げにオオサカが言う。
映し出され帝国軍の艦隊は、警戒しているのか、ゆっくりと隊列を組みながら侵攻している。
「結構広いのに、衡軛の陣で二列縦隊か。意外と慎重だね。艦体数は二十二だから、そこそこ長いね。本当はもう少し固まって来てくれた方がやり易いんだけどな」
直美は、そう言ってぼやいる。先頭は駆逐艦が一隻だけで、その後は、二列縦隊、中ごろに超大型戦艦が一隻だけ、そして再び二列縦隊という少し変形した陣であったが、警戒しながら動くには良い陣形だと直美も思う。
帝国の艦隊が罠の中頃まで侵攻してきたとき、一隻だけ先行していた駆逐艦目掛けて残骸が動き出した。残骸は不規則な螺旋状に旋回しながら駆逐艦に迫っていく。
二列目に並んでいた駆逐艦たちも一斉に残骸目掛けて砲撃するが、残骸は微妙に軌道を変えながら迫てくる。帝国軍全体の足が止まった。
その瞬間――、あたりに漂っていた残骸や岩が一斉に超加速して動き出す。何と言っても無人のデブリだ。搭乗者の安全もミサイルのような暴発も気にしない、一度だけの使い切りを考えた推進力が爆発的な勢いで殺到し始めた。
突然動き出したデブリに向かって、帝国軍も慌てて砲撃を始めるが、オオサカが操作するデブリは、砲撃を躱しながら敵艦に迫っていく。
「っは、そんなもん当たるかい! それから、広域ジャミング開始!」
しかし、全部のデブリに細かい操作が出来るような作りにはなっていない。小さめのデブリは推進装置だけなので、機動後は操縦は出来ず、ただひたすら直進するだけであったが、そういう小さめのデブリは副砲が狙撃を試みる。ただ、直進するだけと見せかけて軌道修正するデブリも紛れているから性格が悪いとしか言えないだろう。
さらに敵の連携を崩し、後々やって来るであろう帝国軍の本陣に情報が伝わらないように、あちらこちらのデブリに仕掛けておいたジャミング装置という通信障害を引き起こす装置を機動させたのだ。
百個以上のデブリが帝国艦隊目掛けて殺到する中、帝国軍も近づくデブリを阻止しようと砲撃を繰り返していく。しかしデブリは少々砲撃を浴びようが関係なく動き出した慣性に従って突き進んでくる。
ズン! ズズン!
重巡や戦艦などの砲撃がデブリを粉々に破壊していく。それでも、数が多く捌ききれない。そのうち砲撃出力の弱い駆逐艦に元戦艦だった外装パネルが突き刺さった。
「アホやな、駆逐艦レベルで、戦艦の外装なんか破れるかい。避けんかいな」
駆逐艦の主砲では破壊しきれず、多少削れたり、軌道をそらせることに成功することもあるが、それがまた、味方の艦へと想定外の方向から飛んで行ってしまい更なる混乱が生み出していた。
ついに、限界に来たのか、駆逐艦たちが一斉に対艦ミサイルを発射しまくった。粒子砲ではなく物理的な力そのもので破壊するつもりのようだ。
「よーし、ようやく到着したでー。こいつは大きいから、頑張りやー」
警戒させないためにも、やや離れた所に設置していた大きな岩が、オオサカの操縦によって飛んできたのだ。陣形の一番先頭に居た駆逐艦が正面から迫ってきた大きな岩に押しつぶされて行く。それでも岩は止まらない。二列目の駆逐艦たちも纏めて巻き込んでいく。
彼らは二列縦隊だった事が災いとなった、簡単には後退出来ないのだ。上下左右からデブリが飛んでくる状態で逃げ道を失っていた。
ここで、短距離ワープでもして引き返すことが出来れば良いのだが、あたり一面デブリに囲まれ、もはやワープに必要な加速も出来ない。撤退の判断が遅かったのだ。
「これは大きいで、簡単に破壊されへんよ」
オオサカが楽しそうに操縦している。この岩は推進装置と多少の方向転換も可能な作りとなっている。
直美は、考古学者目掛けて大きな岩が転がって来る、アメリカの映画を思い出した。こっちの岩は回転はしないが、その質量で艦を押しのけて次々と破壊していく。
「あ、重巡! やりよるな」
楽しんで操作していた大きな岩が重巡四隻からの一斉射撃を受けて爆散してしまった。
――しかし、爆散して破片となった岩や小石が、そのまま重巡たちに覆いかぶさっていく。
「さて、そろそろ、頃合いやで艦長はん、カシアはん。デブリを盾にしながら出陣や!」
「メインエンジン始動! 緊急発進! 第三戦速に!」
オオサカの合図で直美とカシアは、それぞれの艦を起動させ、ついに穴倉から飛び出した。
小惑星の裏から飛び出したグリムリーパーの右舷側にグレムリンが盾となる形で並ぶ。
「目標、正面の戦艦! 第一、第二、第三主砲一斉射撃用意! オオサカ敵艦のナンバーリングも出来たらやって! 防御シールド正面に展開!」
直美の指示でバロックがグリムリーパーの前方に取り付けれた三台の主砲を操作する。直美は正面に見えた戦艦の横っ腹目掛けて突き進む。
「ナンバリング完了や。今向かっているのは戦艦三や」
「了解! シノ、敵の残数を教えて!」
「はい! 超大型戦艦一隻、戦艦三隻、重巡四隻、巡洋三隻、駆逐艦三隻、その他、重巡一隻小破、駆逐艦一隻中破の合計十六隻が残っています」
直美たちは罠によって、敵艦六隻を削ることに成功していた。
「バロック、戦艦三に一斉射撃――撃て!」
新造されたグリムリーパーに搭載された戦艦クラスの主砲から光の矢が戦艦三目掛けて殺到する。
流石に戦艦クラスに換装した主砲だけあって、一発だけではあったが、戦艦の防御シールドと突破して艦体に命中したのが見えた。
しかし、その直後、戦艦三の前に居た超大型戦艦からの砲撃が、グリムリーパーの右舷を守るグレムリン目掛けて撃ち放たれた。
「オオサカ、チャフ搭載ミサイル二発用意! ミサイルの目標はデカブツ!」
横に居たグレムリンに超大型戦艦の砲撃が掠る。それだけでグレムリンの防御シールドが赤く染まる。グレムリンは右舷に防御シールドを集中展開していたようだが、それでも防御シールドを突破して突貫工事で取り付けた補助パネルがはじけ飛ぶ様子がモニターに映る。
直美は、一撃離脱の要領で、グレムリンを引き連れたまま戦艦三の腹下へと潜り込む。ここなら超大型戦艦も味方への被害を考えると砲撃出来ない。
「チャフミサイル、デカブツに向けて発射! バロック、目の前の重巡五に向けて撃ちまくれ!」
戦艦三の横に並んでいた重巡五に向けて、グリムリーパーの主砲を撃ち続けながら、重巡五の腹下へと移動する。その間も戦艦三からの砲撃は飛んでくるが、正面に展開している防御シールドで逸らす。
重巡五は横に並んでいた戦艦三の陰になっていたグリムリーパーの位置を正確に把握できて居なかったのか、防御シールドの展開方向を誤ったようだ。腹下からの砲撃に晒された重巡五の艦体が震えるのがモニター越しに見える。
重巡五の腹下でフットペダルを踏み込んでグリムリーパーの艦体を傾け、天上部を超大型戦艦に向ける。オオサカが素早くチャフミサイルを発射させる。
直美は、ミサイルが発射されたのを確認すると、再び重巡五の腹下から抜け出て、今はデブリ攻撃によって撃沈した巡洋三の残骸の陰へと進路を変える。
「チャフミサイル、迎撃されました。左舷六十、仰角十二から駆逐艦七、九が急速接近中!」
シノの声を聞いて直美は、艦長席のモニターを切り替え左舷側を見る。一番後列に居た駆逐艦が斜め上から襲い掛かって来ている。
「バロック、左舷十、仰角八、正面主砲、砲撃開始」
バロックに未来位置を指示し、直美は操縦桿を更に左に倒しながら少し引き上げる。その間もバロックは主砲を交互撃ちで砲撃を繰り返す。
バロックが放つ砲撃のうち一発が駆逐艦に命中する。わずか一発であったが、直撃を受けた駆逐艦七は防御シールドの甲斐も無く爆散する。
「駆逐艦七、撃沈。駆逐艦九が離れて行きます」
その間も、右舷に居るグレムリンが最初に攻撃した戦艦三に対して砲撃を繰り返している。もちろん、揚陸艦の主砲で戦艦の防御シールドを突破して装甲を打ち抜くのは難しい、それでも牽制目的で撃ち続ける。
「重巡五、撃沈します!」
先ほど腹下から集中砲火を受けた重巡五炎に包まれ、赤い火の玉となって燃えて行く。
「次のデブリ攻撃、行くで!」
残り少なくなったデブリをオオサカが前方の艦体目掛けて殺到させる。先頭には最初の罠で小破となった重巡一と中破となった駆逐艦四がいる。
しかし、直美にはデブリ攻撃の結果を見守る余裕はない。すぐ近くには戦艦三、巡洋四、駆逐艦九がいる。
「カシア、こっちの左舷に後ろから回り込める?」
直美はグリムリーパーを帝国艦隊の後ろを周りむように大きく旋回させていく。
「大丈夫です。追い付きます!」
グリムリーパーはまだ、最大戦速まで出していないが、それでも揚陸艦のグレムリンは一杯一杯のようだ。
「オオサカ、対艦ミサイル二発用意! 目標は巡洋四。バロック、前方主砲で戦艦三を牽制、撃てるタイミングで撃って」




