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第五十二話


直美たちが、急いでフェルマント邸に戻るとすぐに、メイドから声が掛って会議室へと案内された。

会議室に入ると、フェルマントと共にオルヴァンが居た。

以前に聞いた話で軍司令部は、この建物の近くにあると言っていたので、帝国軍が接近してきたという連絡を受けて駆けつけたのか、それとも直美と話してからも、フェルマント邸に居たのかも知れない。


「直美、いよいよ帝国軍が我々の領域まで近づいてきたようだ。今、セレナとアントワーヌを呼びに言っているから、もう少し待っていてくれ」


フェルマントがそう言って、端に居たメイドにお茶の用意をするように指示を出した。


「直美……俺は……部屋の外で……」


「ううん、今日は聞いておいて。次回からは出席しなくても良いけどね。改めて全員がいる時に、セレナの護衛として紹介しておきたいんだ。エルザは、普段もセレナの側にいる事が多いから良いけど、リム=ザップは今まで造船ドッグにいる事が多くて、正式に顔合わせをしていないからね」


「そうか……直美が言うなら……」


リム=ザップは、少し居心地が悪そうに一人掛けのソファーに座りなおした。まあ、彼の場合、体の割にソファーが小さくって座りにくいのかも知れないが、暫く我慢してもらうことにした。


暫く待ているとセレナと宰相のアントワーヌもやって来て、それぞれが席に着く。

長机の片側には宰相、フェルマント、セレナが座り、もう片側にはオルヴァン、直美、バロック、そしてリム=ザップが座った。

そこで、直美は会議が始まる前に、リム=ザップの紹介とセレナの護衛任務に当てる事を話した。


「ほう、確かに強そうだな」とオルヴァンが満足そうに言う。


「そりゃもう、彼一人で一個中隊ぐらいの人間は倒せますよ」


直美がそう言うと、オルヴァンが目を丸くした。


「それでは、護衛はリム=ザップ、お主に頼もう。直美が信用している者なら、ワシも、とやかくは言わんよ。今までも守ってくれたからな」


フェルマントも満足そうに頷く。


「よし、それでは、会議を始めようか、オルヴァン帝国軍の動きを教えてくれ」


こうしてフェルマントが会議の口火を切った。


オルヴァンの話では、帝国軍はあらかじめ予想していた通りの進路で、こちらに向かっているようだ。このルートは他のコロニーと行き来するときに使われる一般的なルートであった。このルート以外も存在はしているのだが、大規模な軍を率いて航行するのであれば、このルートを選ぶだろうと予想出来ていた。


「仮にも正規の帝国軍を動かしているんですから、こそこそと狭いルートから来るようでは、皇帝の威厳が保てないでしょうからね」


アントワーヌがニヤリと笑いながら言った。


「ふん。威厳か何か知らんが、馬鹿であることは確かなようだ。他のルートも見張っているが、他部隊も居ないようだ。平和な中央だけを守っていた将軍が皇帝になっただけの事はある。謀略は得意でも戦ってものを知らなさすぎるのかもな。しかし油断はできんから、引き続き監視は続ける」


オルヴァンはそう言うと、続いて進行してきた部隊規模の話に移っていった。

帝国軍の内訳は、駆逐艦九隻、重巡五隻、巡洋艦四隻、戦艦三隻、超大型戦艦一隻という構成のようだ。


「そのデカブツって、デスカリオンですか?」


「いや、どうやら違うようだ。超大型戦艦の三番艦でアビュリオンというらしい。直美の言うデスカリオンは二番艦だ」


直美の質問にオルヴァンが答えてくれた。


「へぇー。それじゃ、ユーグって人が来たわけでは無いのかな?」


「いや、そこまでは探れていないが、おそらく違うだろうな。帝国内で発表された内容では総大将としては、第一天宙艦隊の総司令官ユーグ第二皇子となっているが、先遣隊で来るとは思えん」


「おいおい、それじゃ今回は、あのデカブツが二隻来るかもって事かよ。一隻でも大変なのによぉ」


バロックが嘆くように天井を見上げる。


「ふむ。どうやら、そう、想定しておいた方が良いようだな。直美、罠だけで超大型戦艦を沈める事は出来んか?」


フェルマントが直美に聞いてきたが、その声はあくまでも確認レベルのように聞こえた。フェルマントも、そう簡単に倒せる相手では無い事は理解している。

何と言っても現在の帝国にとって、超大型戦艦とは最大かつ最強の戦力なのだ。


「そうですね。一時的な足止めにはなるけど、致命傷は無理でしょうね。前に戦ったデスカリオンに、もっと大きな小惑星をぶつけましたが、それでも撃沈は出来ませんでした。今回は、それよりも小さな岩しか用意出来なかったから一層無理でしょう」


直美の言葉を聞いて、オルヴァンも横で大きく頷いた。


「出来るとすれば時間稼ぎですね。時間を稼いでいる間に、連邦政府に参加した他の元貴族の到着を待って、全軍を持って飽和攻撃を仕掛けるしか無いでしょう」


オルヴァンも具体的な勝ち筋が見えているわけでは無い。そもそも、この戦い自体、勝ち筋が見えていないのだ。帝国の好きにはさせない。セレナを渡さない。

ただこの点から始まっているというのが正直なところだ。フェルマントたちのゴールは、連邦政府として帝国と不可侵条約を結ぶことだ。

そのためには、相手を殲滅するのが目的ではない。これ以上の戦争継続は損益の観点から無意味だと知らしめることにある。


そのためには、フェルマントたち連邦政府としては超大型戦艦が残っていても構わない。しかし帝国は、この最大かつ最強の戦力がある限り、交渉の席に着くことは無いだろう。また、仮に着いたとしても、対等な立場での交渉とはならない事は明白だった。


「アントワーヌ、ラジェール伯爵……いや、ラジェール上院議員や他の者たちは、どうなっている?」


フェルマントが宰相に話を振った。ラジェールというのは元伯爵家の当主だ。今や連邦政府になっているので、貴族政治から離れるためにもラジェール上院議員と呼ぶようにしている。

連邦政府に参加を表明した元貴族は、伯爵以上の上級貴族だった者は上院議員、子爵や男爵など下級貴族は議員と呼び分けているようだ。


「ラジェール上院議員の艦隊は既に出立したと連絡をもらっています。しかし、彼は帝国によって辺境域に領地替えさせられたので、到着までに時間がかかるかと思います。ただ、同じく上院議員のサルモワール様の軍勢はまもなく到着します。おそらく帝国と同時ぐらいかと」


「ふむ。サルモワール上院議員は、たしか嫡男は、ゴルディア・セントラル内の学園に留学していたな。息子の事も心配だろうからな」


アントワーヌの話では、現在は議員と呼んでいる、元子爵家が三つと元男爵家が五つの軍勢が向かって来ているようだ。味方の戦力で一番有力なのがラジェール上院の高速戦艦四隻と駆逐艦六隻で構成された高速機動艦隊だという。

その次の戦力はサルモワール上院だ。彼が治めているコロニーは近くに惑星があり、そこから産出される鉱物資源が主な収入源で惑星とコロニーの両方を維持するため揚陸艦三隻が主となっているが、それ以外にも駆逐艦四隻で構成された防衛艦隊だという。


一方、子爵家の戦力は重巡が一、二隻程度と駆逐艦が二、三隻。男爵家では、駆逐艦一、二隻と哨戒船と言ったところのようだ。


「それじゃ、先遣隊は、罠で混乱した隙に銀翼の艦隊と私の遊撃部隊、そして駆けつけたサルモワール軍で潰せるだけ潰つって感じですね」


「ふむ。数の上では互角だが、地の利はこちらにある。サルモワール軍が来れば数の上でも有利になるから、サルモワール軍が到着するまで時間を稼ぎつつ、地の利を生かして敵戦力を削ることになるな」


こうして、先遣隊への対応方針は固まった。帝国軍は全二十二隻に対し、連邦はフェルマント軍の二十隻で迎え撃つ事になる。そこにサルモワール軍が来れば二十七隻となるので、数も有利となるが、問題は超大型戦艦だ。


直美が率いるグリムリーパーとグレムリンは、残骸に隠れて待機し、頃合いを見て罠を発動するために、銀翼の艦隊よりも先に出発することにした。



いつものお願いではありますが、

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