第四十九話
今回は、長い話になってしまいましたが、ようやく、直美たちの体制が固まります。
侯爵が出掛けていて挨拶が出来ないので、それまでの間に直美は、バロックと別れてからの事を聞いておくことにした。ソファーの前の小さなテーブルにはメイドが用意してくれた四人分の飲み物とお菓子が置かれている。
「それで、何でアビスはボロボロのままなの? ペストホロウで修理は出来なかったの?」
直美は、談話室のソファーに座りながら、紅茶を片手にバロックに聞いてみた。
「ああ、それがな。ペストホロウについて修理を依頼しようとしたんだが、既に修理工場の主だった連中は、コロニーを脱出していてな。残りの者とアビスの整備員だけで対応しようかと思ったんだがな――」
バロックの話では、腕のいい職人は既に脱出してしまっていて、残っていた者は引退した年寄りであったり、どうにも頼りなかったりで、とても短期間でまともな修理が出来る状態では無かったそうだ。このまま、下手にいじって宇宙空間で問題が起きたら詰んでしまうと考えたそうだ。
「なるほどね。それで、ここまでワープ無しの通常航行でやって来たの? あの状態で、良く三か月程度でたどり着けたね」
直美が驚いていると、バロックは自分の頬を撫でながらカシアの方を見た。
「実は、通常航行とは言い難い状態でして、艦長がどうしても早く行きたいとゴネるので、グレムリンで牽引しながら来たのですよ」
カシアがバロックの後を引きついて話してくれた。カシアの話では、ワープこそ危なくって使えなかったが、巡洋艦のアビスよりも大きい揚陸艦のグレムリンが、力業で牽引ロープを使って引っ張ってきたようだ。
「へ? 牽引ロープって……艦体を引っ張れるようなロープなんて、良く、そんな物を持ってたね」
「いえ、艦長。アビスに牽引ロープなんて……あ、グレムリンですか! グレムリンは根っからの海賊船だから持っていてもおかしくないですね」
直美の疑問にシノが口を挟んだ。艦体を引っ張れるほどのロープともなると、その辺にあるロープなどと違って、太くて長いだろうから束ねるとかなりの大荷物になる。シノも元々はアビスの乗組員だから、そんな大層な牽引ロープなど持っていないことは知っていたのだろう。
「えっと、海賊船だと儒備品なの? 牽引ロープが?」
「いえ、いえ。シノの言った通り、グレムリンは海賊船ですからね。海賊は時として、相手の船ごと拿捕することもありますし、大きなジャンク品なども運んできたりしますから、そういう時の為に牽引ロープを積んでいる船も多いんです。もっとも、グレムリンでもほとんど、使ったことはなかったようですけどね」
「そりゃ、揚陸艦で格納庫も大きいんだから、大概のジャンク品は格納庫に入れられるものね。まあ、そんな状態でも、ここまで来れたのだから良かったけど、万が一、戦闘になっていたらヤバかったんじゃないの? アビスを引っ張りながら戦えないと思うけど」
直美は呆れながら言うと、カシアは大きく頷いた。ほとほと、カシアは振り回される役割になっているのかもしれない。
「そりゃもう! そのうえ、スピードは上げろって無茶ばっかり言うから、こっちはヒヤヒヤもんでしたよ」
「ふん。良いじゃねぇか。そん代わり魔力供給者は、ほとんどそっちに回して、索敵はこっちが受け持っていたんだからよ」
バロックは子供のように口をとがらせて文句を言っている。
「はぁ……それで、結局、アビスは直せていないのね。うーん。フェルマントさんやオルヴァンさんと相談だけど、このままだと戦力としては使えないかぁ――」
直美としては、アビスも修理して戦力に組み込みたかったが、今は新しグリムリーパーの造船に人員を割いているので、アビスの修理まで手が回らないことは理解している。だからといって、アビスの乗組員を遊ばせておくのは勿体ないと言う話を二人に聞かせた。
「ええ、そうですね。私たちも、ちょうどその件で話していたのですが、グレムリンの乗組員を少し整理して、アビスの乗組員をグレムリンに乗せては如何でしょうか?」
直美が悩んでいる内容を話すと、カシアが人員の入れ替えの話をしてきた。
カシアの話では、元々、グレムリンの乗組員は練度が低い上に、本来が海賊だったこともあり、粗悪な者も含まれているそうだ。
侯爵家の軍として行動するのであれば、そのメンバーもそれ相応の人格が望ましいのは分かる。ましてや直美の役割は、万が一の時はセレナを連れて逃げなければならない。その時にイマイチ信用のおけない者が居ると困るのだ。
「うーん。そうね。私も海賊って言葉だけで良いイメージはなかったけど、本当にセレナや侯爵家にそぐわない人は困るな。ただ、軍人も全員が品行方正とは言えないんでしょ?」
「はい。それは、もう……バロック艦長を見て頂ければわかると思いますが」
「だぁぁ! 何で俺を引き合いに出すんだよ! 俺は品はともかく、セレナ様や直美を裏切ったりはしないぞ」
バロックが何か叫んでいるが、直美は、それを無視しながら考えていた。少なくとも艦体を動かす技術があるのであれば、それを捨てるのも勿体ない。
「じゃあさ、その人たちは軍の方で初めから鍛え直すなりしてもらった方が良いのかもね。それでも使えないとか、素行の悪い人はクビにするとかは?」
「そうですね。その方が良いかもしれません。軍人もバロック艦長のようにゴロツキ上りもいますから、一度性根を叩き直してもらいましょう」
「だからよ。お前たちは、俺のことをどう見てるんだよ!?」
「へっへへ。大丈夫だよ。バロックはちゃんと信用しているよ。口は悪いけどね」
直美が、いじけるバロックを少し慰めてやると、バロックは何だか照れくさそうにしている。やはり、子供みたいに単純だなと直美は思ったが、これ以上、言うとややこしいので、口には出さなかった。
直美たちが、談話室で話していると、セバスが夕食の準備が整ったと声をかけてくれた。夕食の話を聞いて、バロックはすっかりと機嫌を直してくれた。
夕食は、直美、シノ、エルザとバロック、カシア、そしてセレナで食べたが、さすが侯爵家の夕食だけあって豪華な食事に、バロックは無心になって食べていた。
夕食の席に来なかったリム=ザップは、造船ドッグで作業員たちと食べるそうだ。ちなみに、リム=ザップはサイボーグではあるが食事は普通に食べる。消化器官の一部や脳は元々の自前の物のようで、ちゃんと食料から栄養を補給するそうだ。それでも、必ず食料品が必要なのかと言われると、そうでも無いらしいので、意外と複雑な体をしているようだった。
夕食が終わってしばらくすると、フェルマント侯爵が帰宅したので、バロックとカシア、そして直美の三人で執務室に伺った。
まずは二人の紹介と挨拶だけでもと考えていたが、執務室にはオルヴァン軍務長官も居たので、挨拶に続いて、先ほど、バロックたちと話した内容についても話すことにした。
すると、グレムリンの乗組員の件は、オルヴァンも乗り気になってくれた。戦力は多いに越したことが無いというのもあるだろうが、今回の戦いで船の数よりも人員の方が問題だったそうだ。
「艦体などのハード面は作れば済む話だが、乗組員というソフト面では、知識も経験も時間がかかるものだ。その実務経験を既に持っているなら、時間も大幅に短縮できるので育てるのも楽だ。なあに、品格などという物は今からでも何とかなる」
とオルヴァンはニヤリと笑って、さっそく再訓練にあてる人員リストを出すようにバロックとカシアに依頼していた。
「ところで、私もグリムリーパーの人員に問題があって――」
直美も、リム=ザップとエルザをセレナの護衛兼連絡係としてコロニーに残すつもりだと話した。そして、その結果、射撃手が不在になることで人を回せないかと切り出した。
「なんだ、それなら俺が射撃手として、グリムリーパーに乗るぞ。俺は元々、軍に居たときも射撃手だったからな。それに、アビスの修理は時間かかるから、艦長の俺は空いているしな。そんで、カシアは引き続きグレムリンの艦長をすればいい」
バロックの話では、通常、艦長が修理の監修まで行う事は無いようで、艦が動けないのであれば艦長のバロックは暇になるという事だ。それなら、バロックの言う通りグリムリーパーで射撃手をしてもらった方が、直美としても助かる。
「なにも、バロック艦長が射撃手をしなくても、グレムリンの艦長をすれば良いじゃないですか。代わりにグレムリンの射撃手をグリムリーパーに回しますよ」
カシアは、呆れているような、でも少しからかっているような感じであったが、バロックに言った。
「バアーロ。今更、俺がお前の艦を乗っ取れるかよ。あの艦はお前が面倒を見るんだよ」
バロックは、艦長として求められたことに少し嬉しそうだったが、その声には、かつて副官を務めて来たカシアを一人前の艦長として認めているようでもあった。
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