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第四十八話

三連休明けの初日なので、景気付けに、おまけ投稿です!


「あのー。これ本当に良いんですか? これって戦艦用なので、軽巡クラスには完全にオーバースペックだし、無理やり艦内に詰め込むと部屋とかも確保出来ませんよ」


設計が終わった部分から随時パーツを発注していくが、直美の注文に製造業者たちが度々確認に訪れる。外観の大きさだけ軽巡サイズであったが、強固なメインフレームも外装も武装もエンジンまでもが戦艦クラスを注文している。


「どうせ、遠征よりも防衛が主体となるんだから、居住性は無視してしまって良いのよ。乗組員も私とシノ、後は射撃手ぐらいになるだろうし。あ、射撃手はまだ決まっていないから一応、男性の場合も考慮して、狭くても構わないから寝床は二つ確保しておいてね」


直美にとって艦長室や乗組員室、食堂などは全て無駄な空間という認識だった。それらを全て排除して、その分のスペースで巨大な主砲や巨大なエンジンを積む事を優先させた。寝室も寝床という言葉通りカプセルホテルを連想させる寝るだけのスペースを確保し、シノと交代制で使えば良いし、なんなら艦長席で寝ることになっても問題は無いと思って居た。


完成した設計は、以前に映画で見たことがある潜水艦の艦内並みの居住空間しか無かった。


この世界の者にとって、宇宙船の小型化に拘る者は居なかった。なぜなら宇宙空間で小さい事でのメリットは少なく、むしろ長期間の航行に心身共に快適に過ごせるように居住空間を広くとることが一般的だったのだ。

設計者たちは、自分たちもガッツリ関わって設計書を書いたのに、出来上がった設計書を見て、思わず頭を抱え込んでしまった。その設計書は、今までの自分たちが積み上げて来たキャリアを全否定しているものだった。その根底を真っ向から、殴り付けるような設計に、自分の中での正解が分からなくなったのだ。


設計者はまだ良い。これから注文したパーツが集まって、組み立てが始まると造船工たちの地獄が始まる。造船というか、設計から作り直したオリジナルの艦体を突貫で仕上げなければならないのだ。ここでも直美とリム=ザップはフル稼働しなくてはならない。全体を完全に理解出来ているのは、この二人だけなのだ。設計書を片手に監修を続ける。



造船を着手して三か月が経過した頃、アビスとグレムリンが入港してきたと直美のもとに連絡が入った。


「バロックたちが来たんだね。しかし、思った以上に時間が掛ったね。何かあったのかなって心配してたよ」


「あのコロニーは廃棄されていて、通信網も死んでますから連絡の取りようも無かったんですよ。普通なら、他のコロニーに寄って連絡を付けるんですけどね。今の状況だと、迂闊に連絡できなかったんじゃないですか?」


シノの言う通り、帝国軍を敵に回しているんだから、下手に連絡をしようものなら傍受も逆探知も可能だ。帝国が現状をどこまで知っているか分からない以上、余計な情報を与えるのは得策ではない。


「とにかく軍港に行って、お出迎えしましょうか」


という事で、直美とシノは軍港へ向かった。一方、リム=ザップは全力で造船の手伝いを続けて貰っていた。彼一人で数人分の働きが出来てしまうし、重機を使わずに重量のある物を自力で持ち上げたり出来るのだ。その作業効率を考えると、お出迎えよりも造船に注力してもらった方が良いのだ。


もっとも、お迎えと言っても、造船ドッグからさほど離れていないので、自動走行の車に乗って三十分足らずでアビスとグレムリンが入港しているゲートに到着した。

アビスたちは軍港の気密ドッグに入っていた。軍港には気密ドッグというエアーが流れているドッグと、もう一つオープンドッグと呼ばれる真空のドッグがある。

オープンドッグが使われるときは、単純に乗組員の乗り降り、物資の搬入以外に多少の修理が必要な時に使われる。空気を入れない分、低コストというメリットもある。気密ドッグを使うのは、そこそこの修理などが必要な場合などに使われる。


「あれ? 修理して来たんじゃなかったのかな。外装もボロボロのままだよね。後部も穴が開いてるし……グレムリンは平気そうだから、あれから戦闘があった訳ではないだろうしね」


直美は強化ガラス越しに気密ドッグの中に並んで入港しているアビスとグレムリンの姿を見つめた。


「よう、久しぶりだな。元気そうだな」


二隻の艦体を見ていると、突然後ろから声を掛けられた。直美が振り向くと、そこには懐かしい顔が並んでいた。


「バロック! カシア! 二人とも平気? 怪我はしていない?」


直美は、二人に駆け寄ると、そのまま二人の周りを一周して怪我していないか見て回った。


「はっ、あのぐらいで怪我なんかするかよ……って言いたいところだが、あの時の戦闘でアビスは少し死傷者が出てな。怪我人はとりあえず治療カプセルに放り込んで運んできたから、今、エルザの所に送っておいたよ」


「そうか……エンジン付近に穴開いてるもんね……」


直美はアビスの方を振り返りながら言った。アビスの乗組員全員を知っているわけでは無いが、バロックたちに助けられてペストホロウ連れて行かれたときに“錆びたカモメ亭”というお店でご飯を食べたり、一緒にグリムリーパーの修理を手伝ってくれたりしたので、名前は知らなくても顔は知っている人は多くいた。


「まあな、機関室で魔導タンクも破裂したから被害が大きくなっちまってな。これも船乗りなら仕方がないことだ。お前んところは……平気そうだな。シノとエルザが平気なら、リム=ザップが死ぬはずもないから全員大丈夫ってことだな」


「ははっ、たしかにリム=ザップは死にそうにないよね。彼は、新しいグリムリーパーの造船を手伝ってもらってるの」


「ん? 修理や改造ではなく、造船ときたか……いよいよあのビンテージも駄目になったのか?」


「うーん。古いパーツを探し集めたり、普通に手に入るパーツをいちいち加工して合わせるよりも、新しい艦体を作った方が楽なんだって」


直美が言うと、バロックも納得したのか頷いた。


「そうだ。カシアは、グレムリンの乗組員とうまくやれてる?」


カシアが艦長を務めているグレムリンは元々、ジラールという者が艦長をやっていた。彼が裏切り行為を働き海賊たちをヴァルクライネ辺境伯に売ったのが原因で海賊たちの多くが亡くなってしまったのだ。

グレムリンはその時に拿捕したのだ。ただ、拿捕したのは良かったが、亜空間魚雷の秘密を見られてしまったため、当時の艦橋スタッフは始末せざるを得なかった。

とは言え、本当に全員を始末すると艦が動けなくなるので、亜空間魚雷に気づいていない乗組員はそのまま使っている。


裏切り者の艦体の乗組員で、しかも初対面のため信頼関係が構築されないまま、カシアが艦長を行い、アビスからも交代要員の艦橋スタッフを編入させて、どうにか動かして来たのだ。


「いやー、一時はどうなるかと思いましたが、意外と乗組員たちは協力的でしたよ。むしろ前の艦長の事を嫌っている風でしたので、今では喜んでいますよ」


カシアもあれから三か月もグレムリンの乗組員たちと共に生活して信頼関係が出来てきたからか、最後にあった時に比べて随分と顔色も良くなっていた。


「良かった。あれは、かなり無茶ぶりだったから、ほんと、グレムリン内でクーデターでも起きて殺されないかと心配したよ」


「私も飲み物、食べ物に気を付けて、一人では行動しないように注意しましたよ。まったく一日中常に警戒しないといけなかったので、神経がすり減りました」


と言いながら、カシアは乾いた笑い声をあげた。本当に大変だったのだろうと、直美は心の中で詫びておいた。


その後も、バロックたちの話を聞くと、まだ侯爵やセレナに挨拶出来ていないと言うので、二人を伴ってフェルマント侯爵邸に向かうことにした。

自動走行の車でも、機密に関わる話やセレナの事は話せないので、車内では無難な侯爵邸での食事の事や客室の調度品などで話が盛り上がった。


フェルマント侯爵邸について、執事のセバスに声を掛けるとすぐに二人にも客室を用意してくれた。侯爵は出かけているそうなので、戻ったら挨拶することにして、ひとまずは談話室でくつろぐ。

直美としても、修理してくるはずのアビスがボロボロのままで来たことが気になっていたので、こうして話せる時間はありがたい。


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