第三十一話
バロックたちが乗った連絡艇がグレムリンに行ってからからしばらくすると、ブラッディ・ローレライのアンヌから映像通信が入った。
どうやら、ジョアンからの結果報告を聞き終わったのだろう。彼女たちは一足先に帰ってジェンガーや他の海賊たちとも相談するそうだ。それで、先ほどの尋問の様子を録画したデータを転送してほしいという話だった。
「それでは、データは転送しましたので、一度検討をお願いします」
「ああ、直美には無理させたからな。古株の連中も耄碌して腰は重いかもしれんが、頭ぐらいは働いてもらうさ」
アンヌはそう言うと、ブラッディ・ローレライをゆっくりと発進させ、グリムリーパーから十分な距離を取ったところでワープして第一のアジト、ペストホロウに向かって行った。
当面、敵もいないし、他の海賊も居ない状態なので、グリムリーパーの艦内は安堵感が漂っていた。
艦内に残っている猫族のシノは人間よりも力もあるので、オオサカの手伝いとして、修理工房への荷物運びをしていた。残りの二人、直美とセレナは艦橋でレーダー監視はしているが、久しぶりに、おしゃべりを楽しんでいた。
「うーん。何だか変なことに巻き込まれてしまったね。結局、帝国軍の動きはセレナとは関係なく、海賊の殲滅を狙った行動ってだけだったし。本来なら、海賊のアジトの事は放っておいて、セレナをお爺さん達の所に連れて行ってあげたいんだけどね」
「いいえ。私も“ゴルディア・セントラル”に行きたいですが、行ったとしても何か出来る事があるのかとか、この先の目標や展望が持てていないのです。今こうして、成り行きに流されながらも、直美やバロックに繋がったように、何かの他の縁にも繋がるかもしてませんわよ。実は先ほどアンヌという艦長と直美が話しているのを端で見ていたのですが、私、彼女の事をどこかで見たことがあるような気がしましたの」
「え? アンヌさんの事をですか? でも軍人ならバロックが知ってそうだけど?」
「いえいえ、当時の帝国軍は巨大な組織ですのよ。全員が顔見知りという訳にも行きませんわ。彼や彼の父が所属していた黒槍艦隊はペルセウス方面軍でして、ノーマ方面にあるヴァルディス銀河帝国の母星、ペルデギウスから見ると最も遠い辺境の地を守る軍になりますわ。だから、彼はノーマ方面軍の者などは知らないと思いますわ。まあ、私が見たような気がするってだけでアンヌが軍人とは限りませんけどね」
直美とセレナが話をしている間に、グレムリンに行っていたバロックたちが戻って来た。
直美が、どれぐらいの人が魚雷について知っていたのか、気になってバロックに聞いてみたが、はぐらかされて、具体的な人数は教えてくれなかった。ただ、艦橋のスタッフ達はほぼ知っていたようで、それらの人は処分の対象となったそうだ。
「そういう訳で、残りの奴らは具体的な事は掴んでいなかったから生かしている……ただ、主だった者が駄目だったので、ブリッジのメンバーをアビスから出すしかないな。それと、当然、艦のAIは戦闘ログを持っていたので、これはオオサカに吸い取らせて、消してしまった方が良さそうだな」
「うーん、そうか。分かった。バロック、色々とありがとうね。オオサカ、グレムリンのAIは管理下における? 戦闘ログを回収して、向こうには残さないようにしてほしいんだ」
「おう、大丈夫やで、リム=ザップはんが、もう向こうのインターフェースを解放しておいてくれたから、これから乗っ取りを開始するわ。数分で終わるで、ただなぁ……船自体は新しいけど、CPUはセコったみたいやから、グリムリーパーのような上等なサーバインフラは搭載して無いんや。だから船を動かすには、それなりに人手は要るで」
バロックとオオサカの見解は一致していた。やはり、グリムリーパーのように、艦長一人でも動かせるような半自動という訳にはいかないようだった。
「バロック、グレムリンを動かせるだけのスタッフをアビスから出せるの?」
「そうだな。戦闘機動は難しいが、最低限、動かせる人員は出すしか選択肢はないな。それじゃ、さっそくアビスに戻って、グレムリンに割り当てる人員を選んでくるわ。それで、お前たちはアビスに戻るか?」
そう言うと、後ろにいたリム=ザップとエルザに聞いたが、あっけなく二人は首を横に振った。
「ああん? お前たちとは長い付き合いのはずだがな。こうも簡単に振られるとはな」
「すまない……直美一人で……戦うのは……難しい」
「馬鹿野郎。そんな事はわぁーてんだ。俺の言いたいのは、長年連れ添ったアビスと俺から離れるにあたって、何かねーのかってとこだよ」
バロックが頭をかきむしりながら、リム=ザップに詰め寄ったが、その後ろで、エルザが身も蓋も無い事を言い出した。
「えー、だって、向こうに女子が居なくなるしね。どうせ、シノもこっちに残るって言うだろうし、セレナ様も居るからこっちの方が良いかなって。それにあんた達なら、腐った物でも平気で食べるぐらいだから、医者が居なくても平気でしょ?」
「いや、他の奴らはともかく、俺の胃は繊細だからな!? ああ、もう良いや。たしかにセレナ様がこっちにいるんだから、お前もこっちにいた方が良いのは、その通りだしな。分かった、とにかく俺は、戻ってグレムリンを動かす人員を出してくるわ…………ったく、俺だって、こっちに来たいのによ」
後半は何やら一人でブツブツ言っていたが、バロックはアビスに戻って行った。
「艦長はん、グレムリンのAIは支配したで。ワイが上位の命令権をとったから、仮に向こうで誰かが指示しても、直美はんの指示を優先するようにしてるから勝手な事は出来んよ。それに亜空間魚雷に関してはトップシークレット扱いにしたから、今後は向こうには情報も残らんで……ところで艦長はん、今の間に、その辺に漂ってる残骸回収せえへんか? 戦艦とか巡洋艦の部材を使って、アップグレード出来るかも知れへんし、そうでなくても、また壊れたときの為に部材は集めておいた方がええで」
「あ、そうだね。最新鋭の艦体ばっかりだもんね。せっかくだから貰っておこう!」
バロックたちが人員の再配置で手こずっている間に、直美とリム=ザップはひたすら残骸回収を行うことにした。
「直美……戦艦の主砲……二セットあった……今度付けるか?」
「おお! いいねぇ。それじゃ第一と第二は戦艦クラスにして、第三は巡洋艦のを付けようか。これじゃ、この艦が軽巡なのか怪しくなってくるけどね」
「艦体は……軽巡クラス……火力と魔力は……戦艦クラス」
直美とリム=ザップは暇だったのもあり、次々と残骸を拾い集め、魔改造出来るように準備を整えて行った。
一通り、残骸回収を終えると、リム=ザップは修理工房に立てこもって、グリムリーパーの艦体に合うように加工を始めていた。その一方、オオサカの手伝いをしていたシノが解放されて艦橋に上がって来た。
「艦長。リム=ザップから聞いたですが、私もこちらの残りますので、これからもよろしくお願いいたしますね。へへへ。いつかリム=ザップも女の子に改造してしまって、この船のスタッフを女子だけにしても面白いですね」
「えぇー。超ゴツイ体格になりそうだね」
「うん。出来なくわないわね。メンテナンスの時に、脳の中の人格をいじっちゃえば、性転換も不可能ではないわよ」
エルザまでも参加して、リム=ザップ本人が居ない間に性転換計画まで出てきそうになっていた。
艦橋には女子ばっかりになっていた為、賑やかにおしゃべりしていると、バロックから通信が入って来た。とりあえず、グレムリンを動かせる状態まで修理して人員の配置まで終わったそうだ。それで肝心のグレムリンの艦長については、とりあえず、カシアが務めることになったそうだ。
映像通信で会話すると、カシアは胃が痛いのか顔色は優れていなかったが、我慢してもらってペストホロウに戻る準備を開始することになった。
各艦が準備を行っていると、そこに緊急通信がアンヌから届いた。それは、グリムリーパーの直美とアビスのバロックを繋いだ三者通話だった。
『ベストホロウに“鋼の獅子”が襲撃してきた。どうやら、直美が撃沈した大佐というのは、ヴァルクライネ家の娘、エリシア・ヴァルクライネだったようだね。そこでバロック、お前は、直美を連れて逃げな。こちらに戻る必要はないよ』
「ちょっと、アンヌさん。何を言っているんですか? 相手の規模は? 戦闘は始まっているのですか?」
直美は、慌ててマイクを掴んでアンヌに問い詰めるように聞いた。
『直美、あんた……本当は海賊では無いでしょ? ジョアンから聞いたよ。グレムリンの乗組員を殺さずに済む方法を考えているってね。そんな人が海賊は無理だ。あんたは精々頑張っても、海賊に憧れたちびっこ海賊ってところだね。グレムリンの件では巻き込んでしまったが、あんたは、あんたの道を行きな。バロック、直美はお前を信用している。なるほどな……信用されているお前も本当は海賊では無いのか。となると、なおさらだ。さあ、もう行きな!』
アンヌは、そう一方的に言って回線を切断してしまった。
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