第三十話
ジョアンがブラッディ・ローレライに戻った後、カシアとエルザも一旦、アビスに戻るかと話をしていると、アビスから通信が入った。エルザによって眠らされていたバロックが起きたようだ。
「おはよう、バロック。よく眠れた?」
という直美の言葉を聞いて、バロックは嫌そうな顔をしながらも、どこか嬉しそうにも見える複雑な顔をしながらモニターの前に座っていた。
「ああ、おはよう。それで、今そっちはどんな状況だ。先ほど、アンヌのとこの連絡艇が出て行ったのは見たから、尋問は終わったんだろ?」
「うん。そうなんだけど、尋問は元々の予想通りでジラールは真っ黒よ。そのうえ、辺境守備隊で大佐を務めていた女の人に第一アジトも第二も教えちゃったみたいなんだ」
「はぁぁ、やっぱりそうか。で、その大佐ってのは名前は分かっているのか? いや、辺境守備隊で大佐の女って分かってんなら、調べるのは簡単そうだな」
「あーそう言えば、名前までは聞かなかったけど、その大佐、私が撃沈した戦艦に乗っていたみたいなんだよね。あ、でも、その人から、他の人に情報が流れているか分からないから、そっちは海賊の皆さんで考えて貰うしかないね。それよりも、私としては、亜空間魚雷の存在が漏れる方が困るんだよ」
直美は、ザックリとではあるが、今まで状況と今抱えている問題をバロックに話した。
「あー、それは、これからの事を考えるとアレは隠した方が良いな。という事は、奴のグレムリンの乗組員の扱いか? 撃沈してしまうのが一番簡単だが、揚陸艦がもったいないと?」
「はっはは、ジョアンさんは拿捕した船って言っていたから、この揚陸艦は私が貰えるのかなぁって思っちゃたんだよね」
直美として、海賊たちのルールが分かっていないので、この拿捕船はどういう扱いになるのか分かっていなかった。ただ、誰かの物になるにしても自分の物になるにしても、最大の切り札である亜空間魚雷を乗組員に知られている状況に変わりはない。
「そりゃ、海賊としては、拿捕した者に所有権があるから、グレムリンは直美の物だが……おい、エルザ。お前さぁ、薬か何かで奴らの一時間前ぐらいからの記憶を消すことは出来ねぇのかよ」
バロックは、グレムリンの所有権の話をしたあと、突然、直美の後ろに居たエルザに話を振った。
「バロック、何を言っているのよ。薬の実験は成功したわよ。あなた、一時間前と同じこと言っているのに覚えてないんでしょ?」
エルザが平然と言い放った。それを聞いたバロックがモニターの向こうで固まった。
「な……まさか、お前、俺の記憶を消したのか?」
バロックが、明らかにうろたえ始める。
「っぷ、嘘よ。そんな都合よく狙って特定時間の記憶なんて消せるわけないでしょうが。消すとなったら全消しか、どこかの部分が適当に消えてしまうわよ」
「だぁぁ! お前、そんな悪趣味な冗談はやめろよー。マジでビビったぞ」
「あはは。バロック、色々と知らないことが多い私でも、今のは嘘だと分かるよ。それが出来たら自白剤の意味が無いもんね」
「……ん? 何で自白剤の意味がなくなるんだ??」
直美が言ったことがバロックには通じなかったようなので、丁寧に説明することにした。
「だって、もし記憶を消せるなら、捕まる前に当時の記憶を消しておけば自白剤を使われても、本当に覚えていないのだから、何も自白しなくなる。でも、エルザが自白剤を尋問に使ったという事は、それが有効な手段だからでしょ? という事は、狙った記憶だけを消すなんて出来ないってことだよね」
「「あ……たしかにー」」
バロックだけではなく、何故かエルザにまで納得されたようだった。
「それで、話を戻すけど、どうすれば良いかな?」
「ああ、そうだったな。うーん。方法は二つしか無さそうだが、まずは皆殺しだな。船は貰うが乗組員は全員処刑してしまう。もう一つは、管理するのが面倒だが、亜空間魚雷が本格的にバレるか、セレナ様が安全になるまで、乗組員は艦内に軟禁して、AIもオオサカ管理下にしておいて外への通信も遮断するぐらいしか思いつかんな。ただ、後者の方は、その艦の艦長をやるのはしんどいな。いつ反乱が起きるか分からんし、グレムリンの誰かを艦長にしても、いつ裏切るかわからんからな」
直美も、バロックの言った通り、この二つしか無いように思えた。
しかし、何気にエルザを見た瞬間、別の方法を思いついた。しかし、それが実現可能な事なのか直美には判断がつかなかったが。
「あの、エルザ。さっきの自白剤って、廃人にならない程度でそれでも知っていることを話してくれるような物はないの?」
「ええ、もちろんあるわよ。ただし、それだけに絶対に自白するって訳では無いわよ。だからあの魚雷の話を帝国軍に持って行けばメリットがあると分かっていて、強い意志で隠されてしまうとねぇ」
エルザの話を聞いて、再び、直美は悩んでしまった。あのデスカリオンでさえ撃沈できるかもしれない攻撃手段など、帝国からすると何が何でも知っておきたい情報だ。そうなると必死に隠してでも、情報を売ることで利益を得ようとする者がいてもおかしくはない。
「あのー、直美さん。あくまでも、聞きたいのはグリムリーパーがどうやって戦艦を倒したのかを知っているか、どうかだけなんですよね? それなら嘘発見器にかけて、少しでも怪しい反応をした者は始末した方が良いのでは?」
今まで、黙って聞いていたカシアが別の切り口から案を出してくれた。
「おお、なるほど。確かにそうね。それなら知っているか、知らないかの二択だから反応は見やすいのかも、エルザはどう思う?」
「ほう。カシア、すごいね。どっかのバロックとは大違いだ。そんな面倒な事は、普段しないから存在を忘れていたよ。本来、嘘発見器というのは、別に嘘を見抜く装置で無くってね。知っているか知らないかを判断するのに適しているんだよ。なので、さっきカシアが言った通り、戦艦を倒した方法を知っているか、知らないのかなら、割と簡単に見抜けるよ」
「おーい、どっかのバロックさんにも聞こえてますよー。エルザさん」
バロックが何か言っているが、グリムリーパーに居る者たちは、対処方法が決まったことで喜び合っていた。
さっそく、カシアに連絡艇を操縦してもらって、エルザはアビスに戻って嘘発見器の準備をすることになった。カシアはアビスの副官のはずだが、エルザにかかれば、ただの運転手として使われているようだった。
しばらく連絡ハッチの側で待っていると、連絡艇が戻って来た。今度は、バロックが運転手で、エルザとセレナが乗っていた。
「直美! 無事で良かった。本当に怪我はしていないですか?」
セレナは実際に会えるまで心配だったのか直美の周りをぐるりと回って怪我していないか確認していた。
「あはは。大丈夫だよ。全然怪我していないよ。今回はグリムリーパーもそんなに壊していないしね」
直美は、そう言って心配そうなセレナを抱きしめてあげた。
「セレナ様が、こっちに戻りたいというのでお連れしたんだ。それで、今回はグレムリンに乗り込むから、俺が同行することにした。奴らが反乱でも起こしたら面倒だからリム=ザップも連れて行くぞ」
バロックはそう言うと、エルザとリム=ザップを連れて、連絡艇に向かって歩き出したが、ふっと直美の方に振り返った。
「回線が繋がらない時はどうしようかと思った。本当に無事で良かった」
そう言うと、また連絡艇に向かって行った。
その後ろ姿に直美は、少しびっくりしていた。
通信で話した時もバロックは同じような事を言っていたので、実はエルザによって記憶を消されているのではと密かに心配に思っただけで、バロックの言葉は完全に聞き流されてしまった。
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