第二十七話
宇宙空間だけあって、相対距離はそこそこ離れている。通常のミサイルだと飛翔時間がかかるので着弾までに数秒かかる。それが亜空間魚雷の場合、標的の近くまで超短距離ワープして飛んでいく為、時間は極端に短くなる。その時差を直美は想定して時間を少し遅らせて亜空間魚雷を発射させた。
「戦艦一に先行の対艦ミサイル到達! 迎撃されました。 あ、魚雷が命中です! 二発着弾。続いて戦艦二の対艦ミサイルも迎撃されましたが、魚雷が三発命中!」
距離が開いているので、グリムリーパーまでは着弾の衝撃波は来なかったが、シノの少し上ずった声が艦橋内に響いた。帝国軍は亜空間魚雷の存在を知らない。随分と昔に廃れてしまったロストテクノジーとなっているのだ。
「オオサカ、外部モニターで戦艦たちの様子を映せる?」
直美の言葉にオオサカが素早く反応して、正面のモニターに戦艦の様子を映し出す。
「戦艦一は艦体中央と後部に着弾しとるな。亜空間魚雷の威力やと、もう動けんやろ。戦艦二は……アカンな。もうすぐ爆散するで――」
戦艦二の艦腹には、亜空間魚雷が三発とも突き刺さったようだ。オオサカの言葉通り、艦体に大きな穴を開けたまま傾いていく。
一瞬の静寂の後、あちらこちらから連鎖的な爆発が走り、外殻が内側から膨れ上がった。轟音とともに艦体が裂け、火球と破片が宇宙に撒き散らされた。
戦艦二の爆発は、それに留まるかに思えたが、帝国艦隊の悲劇はさらに続いた。
飛び散った戦艦二の艦首部分が前方で同じく被弾し、船足が落ちた戦艦一に向かって飛んでいく。
戦艦一も後部に穴が開いていることから、エンジンにダメージを受けたのかもしれない。飛んでくる戦艦一の残骸を避ける事なく、後部から艦橋部分に至るまで切り裂かれて行く。
「あぁあ、戦艦の背開きが出来てもうたな。艦長はん、これ……艦隊の指揮系統全滅しとるで」
「うん。そうだね。本当なら、ここで降伏勧告って行きたいところだけど、亜空間魚雷のこと、まだ秘密にしたいんだよ。前にやった戦闘シミュレーションでも、亜空間魚雷の存在がバレた所為で苦戦したことがあったからね。だから……ここに居る目撃者は殲滅するよ」
直美としても、無駄な殺生は望んではいないが、自分たちが生き残る為には、温情をかける事が必ずしも良いとは思って居なかった。伊達に、戦闘シミュレーションで死にまくって無いのだ。
直美が覚悟を決めている間も、帝国軍の特に戦艦二の乗組員は必死にダメージコントロールに勤めていたのだろう。しかし、努力は必ずしも報われるとは限らない。
特に宇宙空間で、乗っている艦体の背の部分が切り裂かれていては、応急処置で何とかなるレベルの話では無い。
「あぁ、結局、戦艦二も爆散してもうたなぁ。……さすがに他の者は二の舞を避けたみたいで距離を取ったか」
モニターに映る爆発の余波が過ぎ去り、沈黙に包まれた艦橋に、小さく呟くオオサカの声だけが残響のように漂った。
「良し! これで終わりじゃない。殲滅すると決めたからには全部沈める! 亜空間魚雷はグリムリーパーの切り札だから、誰かに知られるのは困る。リム=ザップ、シノ。このまま畳みかけるよ。」
「はい! 残り無傷は、巡洋艦二隻、駆逐艦五隻、小破は巡洋艦一隻、大破は揚陸艦一」
シノから場の雰囲気を一掃するかのように元気な声が聞こえた。リム=ザップもシノも元は軍人だけあって、直美よりも、その辺の切り替えはしっかりできる。
「メインターゲットは無傷の巡洋艦一で一気に片付けよう。機関全速、目の前の巡洋艦三の後ろを横切って巡洋艦一に仕掛けるよ。リム=ザップ、全砲を右舷に、右舷に防御――『駆逐艦五、六が後に回り込んで来ます!』」
直美の言葉を遮るように、シノが叫んだ。
帝国軍は艦隊司令官を失ったことで統制に乱れが生じていた。右翼に居た駆逐艦二隻が持ち場を離れ、グリムリーパーの後方に回り込んできたのだ。
「防御シールド、後方に集中展開! オオサカ、第三主砲で回り込んできた駆逐艦五、六を牽制。リム=ザップ第一、第二主砲で巡洋艦一を狙って!」
回り込んできた駆逐艦の相手をオオサカに任せて、左端の巡洋艦を狙いに行く。
直美は後部のモニターを見ながら、追ってくる駆逐艦の砲撃を躱してく。当然、敵も粒子砲なので光ったと思った時は着弾するのだ。目で見て避けれるものでは無いが、火器管制レーダの波の強さと勘で避ける。それでも避けきれないものは防御シールドでガードする。
実質、光学系の砲撃は防御シールドが頼りだと言っても過言ではない。そんな万全にも思える防御シールドだが、魔力の消費が高い上に全方位に展開すると、防御力が落ちる傾向にある。その為、盾のように必要に応じて、重点的に防御する方向を変更しているのだ。
そして、防御シールドの一番の弱点とも言えるのがミサイルも含めた物質的な攻撃だ。これは防御シールドでは全く防ぐことが出来ず、物理的に迎撃するしか無いのだ。
「あれ艦長? 巡洋艦二が、超信地旋回を始めました!?」
「へ? なんで、このタイミングで、そんな馬鹿な事を??」
超信地旋回というのは、その場に留まって旋回することだが、通常、戦闘中にそんな事はしない。それは隙が大きくなり、しかもその場に留まっているので、恰好の標的になるだけだ。
「……チャフ……位置を誤認……」
珍しくリム=ザップが口を開いた。どうやら、彼は先ほど戦艦に向けて発射した対艦ミサイルに搭載したチャフの影響で、巡洋艦二のレーダーに異常をきたして、我々の位置を誤認しているのではないかと言っているようだ。
「そんな、ド素人のような事をするかな? でも、確かに誤認しているなら多少は理解できる動きだね。うーん、それなら――」
直美は軌道修正して、巡洋艦二に向かって行く。後ろに駆逐艦五、六を引き連れながら。
「オオサカ、対艦ミサイル二発準備! 一発は巡洋艦二、もう一発は巡洋艦三に向けて準備! リム=ザップは第一、第二主砲で巡洋艦三を牽制、防御シールドは後方のまま」
オオサカが後方の駆逐艦を第三主砲で牽制しながら対艦ミサイルと準備する。
巡洋艦二に向かって行くグリムリーパーを目掛けて、巡洋艦三から砲撃が来るが、直美は、それを何とか躱しながら接近していく。
もう一隻の巡洋艦一は巡洋艦三の陰にグリムリーパーが入っているため砲撃が出来ずに遊兵となってしまっている。
時折、巡洋艦三からの砲撃がグリムリーパーの艦体をかすめ、嫌な音と振動が伝わって来る。
「まだだよ、ミサイル二発、発射よぉーい! ――撃て!」
ドンという発射音と共に、直美は操縦桿を引き上げ、エンジン出力を最大戦速まで上げる。グリムリーパーは巡洋艦三の手前で宙返りの軌道を取る。
発射された対艦ミサイル一は、足並みが乱れて、突出してしまった巡洋艦二に向かって飛んでいく。手前の巡洋艦三が副砲の迎撃システムが反応するが、自身に向かってくる対艦ミサイル二の方に集中し、巡洋艦二に向かって行く対艦ミサイル一に対しては反応が鈍い。
「……巡洋艦二……回避しません。命中! あ、巡洋艦二から砲撃が……後ろに付いていた駆逐艦六に直撃しました!? 駆逐艦六が撃沈します」
「あぁあ、同士討ちやな。目が見えんようになってるのに、何で撃っちゃうかなぁ」
「ミサイル命中……焦った……」
「まあ、そうだろうけどね。良し! 敵が混乱している今のうちに、一気に殲滅するよ!」
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