第二十八話
漆黒の宇宙に、無数の火花がちらついていた。かつて帝国軍の艦隊があった場所には、いまや燃え尽きた残骸だけが漂っている。溶けた装甲片、焦げた機関部、砕けた艦橋――それらが無言のまま、ゆっくりと回転しながら虚空を漂っていた。
結局、混乱した巡洋艦二にミサイルを直撃させた後は、もはや帝国軍は艦隊としての機能を失いグリムリーパーによって、追い掛け回されたあげく、次々と各個撃破されて行ってしまった。
「敵艦隊、全滅やな――まるで宇宙船の墓場や」
オオサカが、つぶやくような声で告げた。
その言葉に、誰も返す声はなかった。静寂の中、直美たちは精神的に疲弊していた。今回の戦いは正々堂々とした戦いでは無い。まだ、気持ちではユーグ率いる第一天宙艦隊との戦いの方がスッキリする。
「はぁぁ、残りは裏切り者、ジラールのグレムリンだけだけど、これはどうしたら良いのかな……亜空間魚雷の事もあるから、撃沈させたいところだけど、色々と情報も聞き出さないといけないよね」
直美としても、この裏切り者であるジラールの扱いに困っていた。帝国軍との繋がりや、どこまで情報が漏れているのかなど確認すべきことがあるとは思うが、自分たちの大事な切り札を見られているはずだ。この情報が漏れると命取りになる。
「あ、空間異常を検知! 右舷二十二度、仰角八度。飛んできます!」
「戦闘準備! 全主砲を向けて! 対艦ミサイル四発、発射用意!」
シノの声に素早く直美が反応する。ワープアウト直後を狙った砲撃を準備する。
「一難去ってまた一難か」
直美も思わずボヤいてしまう。終わったと思って居るところに、お代わりが来るのは正直言ってキツイ。
「戦闘待ってください! 秘匿通信を受信! ブラッディ・ローレライのアンヌ艦長からです! 映像付き通話です」
直美の脳裏に、ジラールの裏切りがあったばかりだから、アンヌも敵かもしれないという不安が走る。通話を繋ぐかと目で問うシノに頷きで答える。
『直美、これは何があった? ジラールの奴はどうしたの?』
スピーカーから流れて来た第一声は、これだった。そして、モニターに映し出されたアンヌの顔には本当に訳が分からないと困惑の表情を浮かべていた。
「アンヌさん、やはり罠でした。そしてジラールは裏切り者でした」
直美は表情には出さないように気を付けながら話したが、心の中では敵では無さそうだと思ってホッとしていた。
『ほーう。ジラールは散らしたかい? おや、まだ漂っているね。これは色々と語って貰わないといけないね』
一瞬、アンヌが険しい顔をしたが、グレムリンが機関を停止したまま、漂っている事に気がついて少し表情を緩めた。
「あの……それで、ちょっと困っていることがありまして……生け捕りにした方が良いとは思って居るのですが、私の戦い方とかバッチリ見られているので……色々と困るんですよ」
『ああ、なるほどね。そりゃ海賊としては、手札をバラされては困るよな。おまけに海賊相手じゃ信用も出来ないしね。うーん。それだったら、直接乗り込んで戦闘ログをゴッソリ奪っちまうのが良いだろうね。乗組員は……口を塞ぐしかないね。ジラールも自白剤で聞き出したいことだけ聞いて、あとは永久に口を塞いでしまう方が良いと思うよ』
アンヌは、軽い口調ではあったが、最終的は始末してしまう事を勧めて来た。
『ただし、ジラールから話を聞くときは、私の副官も立ち会わせてもらうよ。私達は全員海賊だ。だから私は、ジラールも直美、あんたもだが、どっちも信用なんかしてないのさ。あ! そういえば信用の話で思い出したが、回線が繋がらないから、バロックの奴が心配していたぞ。直美もバロックの事は多少信用しているんじゃないのか? あいつの所に腕の良い医者が居たはずだから、あいつを呼び出して、この場で自白剤を打ち込んでもらったらどうだい』
アンヌの言葉を聞いて、何故、先ほどは険しい顔をしたのか理解出来た。アンヌは、直美にとって都合の悪いことがあって、ジラールを始末したのでは無いかと疑ったのだ。しかし、生死は確かでは無いが一応は撃沈せずにいたことで、その疑念が少しは晴れたのだろう。
「あ、なるほど、そうですね。先ほどまでジャミングがかかっていたのですが、もう大丈夫だと思うのでバロックを呼んでみます。すみません。一旦切りますね。」
直美がシノの方を向くと、直ぐにバロックと秘匿回線を繋げてくれた。
『直美! 大丈夫ですか? バロックから回線が繋がらないと聞いて心配しましたわ。あ、ちょっとバロック! もう少し話を――』
回線がつながったと思ったら、ドアップのセレナがモニターに現れた。
「おっ! ビックリした。セレナ、私は大丈夫だよ。どこも怪我していないよー……あれ? 居なくなっちゃった」
セレナがモニターの前から強制的に退けられて、今度はバロックが出て来た。
『おう、無事だったか。繋がらなくなったから焦ったぞ。俺が行くって言ってるのにアンヌの奴が……』
なにやら、バロックがブツブツと文句を言い出したので、直美は遮って、これまでの状況を伝えた。その上で、アンヌの言った方法でジラールから話を聞き出せ無いか聞いてみた。
すると、近くで女医のエルザも居たようで、今度はバロックを押しのけてエルザがモニターの前に現れたので、そのままエルザに事情を話す。
『ふーん。それなら自白剤で聞き出せるわよ。それにグリムリーパーの秘密については、こっちから聞かなければ話に出てこないと思うけど、余計な事を言いそうになったら、ぶん殴れば良いのよ。それじゃ、これから、そっちに向かうね。じゃね――』
回線を切る間際に、後ろでバロックが何か叫んだようだったが、どうせこっちに来るんなら、その時に話せば良いのにと思い繋ぎ直しはせずに、アビスの到着を待つことにした。
暫く待っているとバロックのアビスがワープアウトしてきた。
オープン回線でバロックとアンヌと直美の三者通話で、これからの手筈を話し合った。バロックの所からは副官のカシアと女医のエルザが、アンヌの所からは副官のジョアンがそれぞれ連絡艇でグリムリーパーに来ることになった。
アンヌの所から来た小さな連絡艇が連絡用ハッチに接続してきた。連絡艇から降りて来たのは、見た目は三十代ぐらいの落ち着いた印象を与える女性だった。狭いハッチで挨拶するのも変なので、艦橋まで招待して挨拶を交わした。
「初めまして、ブラッディ・ローレライの副官を務めておりますジョアンと言います。よろしくお願いします」
始めて会ったジョアンは、直美に丁寧なあいさつをしてくれた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。グリムリーパーの艦長をしている直美です。こっちは一緒に行ってもらうリム=ザップです」
そう言って、直美がリム=ザップを紹介したが、二人は顔見知りだったようで、軽く挨拶をしただけだった。ジョアンと挨拶をかわしていると、アビスからも連絡艇が到着してきた。カシア達は何度も修理中に艦内を歩き回っているので、艦橋まで勝手にやって来た。
「直美、遅くなってすみません。急にバロックの奴が、自分が行くと言い出してしまって……」
カシアは艦橋に入ると、申し訳なさそうに言った。
「ま、しばらく寝ているから大人しくしてるでしょう」
そう言いながらエルザが小さな拳銃のようなものを直美に見せてくれた。その小さな拳銃はパラライザーという医療用の銃だそうだ。
「えっ、ひょっとして、それでバロックの撃って来たの?」
「ええ、そうよ。ゴチャゴチャうるさいからね……ま、本当は、留守番係が寝ていたら意味ないけどね」
どうやら、何かあったらアビスの指揮を執れるようにバロックは居残りのはずだったが、こっちに来たがった所為で、エルザのパラライザ―の麻酔で眠らされてしまったようだ。そんな状態なのに、副官のカシアもこっちに来てしまっている。一体誰が指揮を執るのか分からなかったが、そこは深く突っ込むのはやめておいた。
「艦長! グレムリンから連絡艇が出てきました。……あ、逃げるつもりかも知れません!」
シノの声が艦橋に響いた。




