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第二十話


バロックが、わざわざ自己紹介をしてくれたので、直美も返さないといけない気持ちにさせられた。


「私は、直美。成り行きで、このグリムリーパーの艦長をやってます。それでこっちはセレナ。レーダーを担当してもらってます……あのー、乗組員は以上ですよ?」


バロックが直美の後ろを気にしているようなので、最後の一言を付け加えることにした。


「ああん? 二人だけで、こいつを動かしてたってのか? おいおい、今更隠し事は無しだぜ。別に取って食おうって訳じゃないんだから、紹介ぐらいしてくれよな」


「いや、本当に二人だけなんですよ。後、AIは居るけど」


直美がそう言うと、バロックは頭を抱えながらしゃがみ込んでしまった。


「マジで? じゃあ、マジでお前が艦長? AIなんて何処の船にも付いているけど、たった二人だけで動かせるようにサポートした事は、優秀なAIだとは思うさ。ただ、そうは言っても結局、AIを使いこなして性能を引き出すのは人間だからなぁ。はぁぁ、俺なんか、こんな娘っ子にまんまと乗せられた挙句、逃げられるぐらいだからな……」


「あ、いやー、あの時は運が良かったってのもありましたけどね」


「いや、運も実力のうちだ。あれは見事にしてやられたよ」


「はいはい。続きはお店に行ってからにしましょうね。私はもう、お腹ペコペコなんですよ」


エルザさんは、しゃがみ込んで、いじけているバロックの頭を叩きながら言った。


そのままエルザさんを先頭にドックの近くにある酒場に連れてこられた。

白錆に覆われたドックの裏路地、そのさらに奥。積み上げられたコンテナの隙間を抜けた先に、ひっそりとその店はあった。看板は半ば崩れ落ち、残った文字から辛うじて、“錆びたカモメ亭”と読める。


店の名前の通り錆びついているのか、自動ドアはとうに壊れ、手動でガコガコとスライドさせて店内に入る。照明はほとんど機能しておらず、天井に吊るされた赤茶けたランプが、頼りなく揺れている。そのかすかな光に照らされて、店の隅々にまで埃と古びた機械部品が放置され、焦げた油の臭いが漂っていた。

アビスの行きつけのお店のようで、私たちが入ると、既にアビスの乗組員達で席が埋まっていた。


「艦長、先に始めさせてもらいましたよ。おや? 結局、あなたが本当に艦長だったのですか? あ、私は、前に繁華街であった……そう、そう。あの時の。一応、副官を勤めていますカシア・ヴェローナと言います」


こうして、再び自己紹介が始まってしまったが、直美は少し違和感を感じていた。何かが引っかかる。そんなモヤモヤとした気持ちを持っていた。店の小汚い雰囲気といかにも海賊らしい見た目の男たち。その割には、どこか礼儀正しい食事の仕方。この人たち、見た目と言動に微妙にズレた感じもする。しかし、モヤモヤしているのは、それじゃない。何かもっと大きなズレがある気がする。


「さあって、宴もたけなわではあるが、ちょいと真面目な話をさせてもらうぞ」


バロックが立ち上がって、皆を見渡す。


「さて直美、お前、隣に座っている人の事、どこまで知っている?」


そうか。これだ! 直美は言われて気がついた。なぜかバロックはセレナの事を深く聞いてこなかったのだ。レーダー担当だという言葉だけで、それ以上の事を聞いてこなかった。セレナは容姿も整っていて、体全体から出てくるオーラのような物がある。一目見て只者では無いと分かるはずだ。

それを海賊と名乗っている彼らが、細かいことを聞いてこないのはおかしいのだ。


「私も、バロックに会ってから違和感を感じていたんだ。なんで、海賊なのにセレナの事を深く聞いてこないのかなってね」


「…………なるほど。そりゃ確かに不自然だったな」


バロックは頭をかきながら、セレナの方を見つめた。


「それじゃ、質問相手を変えて、黒槍艦隊という言葉に聞き覚えは?」


バロックの言葉を聞いて、セレナはわずかに表情が変わった。


「どうでしょうね? あなたは、黒ひげで思いつく人は居ますか?」


「それは、我が艦隊の司令官であり父でもあるジャック・フォン・ドゥラン以外に思いつきませんね」


セレナとバロックの間でちょっとした確認というかすり合わせの会話が続いた。


「え? それではあなたは黒ひげジャックの息子? いや、そんな大きなお子さんは……」


「……そりゃ、あの事件から十年経っていますからね。……ところで、直美には?」


バロックは呆れた顔をしながらも、直美の事をチラリと見た。しかし、その目には感情が乗っていないように思えた。


「大丈夫です。直美には全て話していますわ。私がセレナ・ルクシア・ヴァルディス第七皇女であるとね」


「ふぅぅ。これで安心した。直美が良からぬ奴だったら、どうやって排除するか。もしくは悪い奴では無くても殿下の事を知らないのであれば、俺たちの事をどうやって説明するか。マジで悩んでたんだぞ」


「あれ、ひょっとして、私って命の危機だった? っていうかバロックって帝国軍?」


「命の危機と言えば……まあ、そういう事だな。それで、帝国軍の話だが、俺たちは、今のノイ=ヴァルド銀河帝国ではなく、レオネウス・アレクシオン・ヴァルディス皇帝陛下が治めていたヴァルディス帝国の元軍人だ」


それから、ようやくお互いにすべての事を話し合った。セレナがコールドスリープで十年間、宇宙を彷徨っていたこと。

直美が異世界から、急にこの世界に来てしまったこと。異世界云々については、バロックたちも半信半疑であったが、彼らとしても、そこに拘るつもりも無かったので、直美が、色々と常識レベルの知識が欠けているという事だけ認識してくれたようだった。


「はっはは。艦長はん。不思議ちゃんやと思われとるかも知れへんな」


バロックたちと会話をしていると、直美の持っているタブレットから、オオサカが会話に加わって来た。


「ほぉー。これが直美の言っていたグリムリーパーのAIか、なるほど。珍しい方言だが、この歴史から消されたコロニー、ペストホロウでは良く聞く言葉だな」


そう言って、この海賊たちの拠点かつ交易所として使われている遺棄されたコロニー、ペストホロウのことを説明してくれた。

このコロニーは以前、大規模な疫病が流行り、住民の大半が亡くなり、ついには生き残った住民たちによって、遺棄されたコロニーのようだった。それからというものならず者や海賊たちが集まるようになり、それらの者を相手にした闇取引や裏の商売が始まり現在の状態が形成されて行ったようだ。


「でも、海賊たちが集まるような場所なら、すぐに軍でも派遣されて壊滅しそうだけど大丈夫だったの?」


「ああ、それがな、ここはヴァルディス銀河帝国でも、辺境の地になるんだが、今のノイ=ヴァルド銀河帝国にはここに来るためのルミナスチャートが無いようなんだ。だから、存在は知っているが、艦隊を率いて攻略となると難しい。そのため放置されているというのが現状だ」


バロックはそう言うと、ぬるくなったエールをあおった。


「海賊たちも、万が一捕まりそうになっても、自分たちの犯罪履歴の証拠となるようなルミナスチャートだけは破棄しますので、帝国軍に渡らないのですよ」


バロックの横で、ゆっくりと度数の高そうなお酒をグラスで飲んでいたカシアが口を開いた。


「それで、殿下たちは、これからどうするつもりですか? まさか我々のように海賊をするわけにもいかないでしょうしね。ああ、私たちも海賊と言っても、人の命を取ったり、人身売買などはしませんよ。主なターゲットは、ノイ=ヴァルド銀河帝国の巡視艇などですからね」


「えぇぇ、じゃあ何で私の船を狙ったのよ。こっちは一般人なのに」


直美が不満そうにカシアに言った。


「ああん? どこの世界に、主砲を積んだ軽巡に乗る一般人が居るんだよ。いくら軍からの払下げでも、あそこまで武装なんぞするか。てっきり、新参者の海賊かと思ったわ」


バロックが口を挟んできた。


「あー。やっぱり居ないんだね。物騒な世界そうだから、アリなのかなって思ったんだけど……あれ、あの後出て来た帝国軍の軍艦には特に何も言われなかったよ」


「そりゃ、奴らの怠慢だな。識別信号だけ見て、外部モニターを確認しなかったんだろうよ」


「……そうか、だからルーナ・ベータの管制AIは、私たちの入港を拒否しようとしたんだね」


「はっはは。私がコロニーの入管審査員だったら、そんな物騒な船を入港させませんね。よく入れましたね? ちなみに私たちが、入港出来たのは本艦は外において、連絡艇だけで身元も偽装して入港したからですよ。アビスも元軍艦で、現在は海賊船ですから領軍が飛んできますよ」


そこで、セレナのおかれている状況が把握できていなくって、セレナが名乗ることで入港させてもらった事を話した。


「ああ、なるほど。それで入港できたが、その結果、ノイ=ヴァルドに目を付けられてしまったわけか。それでは……殿下は、何処か行く予定でも?」


バロックは口調を改めて、セレナに話しかけた。


「私は、祖父母のいる“ゴルディア・セントラル”に行きたいですわ。……出来れば、直美に一緒に行ってほしい。ただ、グリムリーパーが壊れているし、一緒にいると直美にも危険が……」


セレナは直美の顔色をうかがう様に言った。しかし、その顔は、不安と申し訳なさが入り混じった複雑な表情を浮べていた。


「なーに言ってるの! 私たちは友達でしょ。困っている友達が一緒に行ってほしいって言ってるなら、行くのは当然よ。グリムリーパーは、どの程度壊れているか調べないと駄目だから、ちょっと時間はかかるかも知れないけどね」


「ああ、殿下は良い友人と出会えましたね。ユーグ率いる艦隊に引けを取らずに、あのデスカリオンをわずか軽巡一隻で中破まで持ち込んだ。この若さで末恐ろしですな。それで俺たちも、あのノイ=ヴァルドに一泡吹かせられるなら手伝わせてほしいのです。もちろんグリムリーパーの修理も手を貸しますよ」


「よろしいのですか? 私に加担すると、お尋ね者に……あ! 皆さん海賊でしたわね」


「そうだ、俺たちは海賊にちげぇねーや!!」


バロックが海賊のように言ったので、店内に笑いが広がった。



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