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第二十一話


“ゴルディア・セントラル”に行きたいという、セレナの意思を聞いて、海賊――いや、元帝国軍人たちの意思も固まった。


「ところで、セレナ殿下、グリムリーパーではなく、アビスに直美も乗せて行くって方法もありますが?」


バロックはセレナに聞いているが、横にいる直美としては、少し複雑な気分でいた。

普通に考えたら、経験豊かな彼らの船の方が安心できる。そう思ってはいるが、その場合、オオサカとはお別れになってしまうのだ。

オオサカの本体がいるサーバルームはかなり大きい。もちろん回収デッキほどでは無いが、機関室並みの広さがある部屋に天井まであるようなコンピューターっぽい物がずらりと並んでいる。そのうえに、魔力も大量に消費している。

さすがに、アビスに居候させてもらって、オオサカの移設場所と魔力を求めるのは厳しいと理解している。それだけに――


「いえ、我儘とは理解しているのですが、私は直美のグリムリーパーで行きたいのです。オオサカも私の友達です。だから皆で行きたいのです」


セレナが言い切った。ここ到着して直ぐに、直美がオオサカに対して、バックアップが取れるか確認していた事を覚えてくれていたのだろう。

思わず、うれしくなって直美はセレナを見た。セレナも直美を見てニコッと微笑んだ。

そう。直美とオオサカは、何年も共に過ごしてきた仲では無いが、短時間で命の危機を乗り越えてきた戦友ではあった。

――少なくとも直美は、そう感じている。そしてその想いをセレナは感じ取ってくれていた。


「なるほど。皇女殿下のお友達を見捨てて行くわけにはいかないな。ふーむ、そうと決まったなら、あのボロ船を何とかしないとな。しかも、とんでもなく古いから今の規格じゃ合わんだろうし、とりあえずジャンク屋を当たった方が早いかぁ」


「そうね。ルーナ・ベータでもジャンクヤードで修理部品を探したけど、見つからなくって、代わりに、オーバンツァイス重工のNRX-99のピストンと第六次反応制御リングを加工して使ったんだよ」


バロックの呟きに答えるように直美が言うと、バロックが直美の顔をまじまじと見つめた。


「はぁ、お前、意外とマニアックなんだな。俺は、船のエンジンのメーカとか覚えてねぇぞ。リム=ザップ、元整備兵のお前なら分かんだろう? 明日にでも、直美と一緒にジャンクヤード巡りに付いて行ってやれ」


「えぇ!! リム=ザップって整備兵!? 突撃兵じゃあないの?」


直美はマニアックと言われたことよりもリム=ザップが突撃兵のような前線で戦う兵ではなく後方支援の整備兵であると、明らかに人選を間違えている実態の方に驚いていた。


「ああ、お前の気持ちはよくわかるぞ。しかし、一応、所属は整備兵なんだ。そのくせ上陸作戦など白兵戦になるとロケラン抱えて最前線に居たけどな。俺も新兵の時に聞いてなー。後方勤務の整備兵まで駆り出されている戦場なんか負け戦が確定だからよ、もう終わりかとビビったけどよ。本人を見たら、すぐに理解できた。これは完全に人事局のミスだろうってな」


バロックが、うんうんと頷いている。やはり誰が見ても配属先を間違えていると思うようだ。


「しかし……直美の逃げっぷりも……見事だった……見失ってバロックに怒られた……」


そのリム=ザップがぼやいた。


「はっあはは。いやーあれは偶々で……」


「偶々で、このリム=ザップを撒けるかよ。少なくとも俺には無理だな。というか、あの時は何で逃げたんだよ……俺は話をしたかっただけなのに」


「あのねーバロック。繁華街で丸腰の時に、こんな大男が突然追いかけてきたらどうする?」


「あぁーそりゃ……逃げるな……そういう事か、うん。すまん」


バロックが頭を抱えているが、そんな事を言われているリム=ザップは、全く気にならないようで無表情だった。


「……それより……。直美……エンジンは何?」


「えっとね。テルマス=ヴァルディック社製のVA-200-TT型熱融合炉なんだ。でも、これ、古すぎて出回ることが、ほとんど無いんだって」


「あぁ……“ヘルハウンド”か、……後継機の“ペイルスター”は……」


「うーん、それがね。台座が合わなかったから……あーなるほど、どうせボロボロだから、いっそう、台座ごと取り換えてしまえってことね」


直美とリム=ザップの会話が専門的な話をしていると、バロックが、離れた席で飲んでいた副官のカシアを呼んだ。


「明日、直美とリム=ザップでグリムリーパーの修理部材を探しに行くことにしたんだが、お前、付いて行ってやれ」


「え? 私が付き添わなくても、リム=ザップが居るなら問題ないと思いますけど」


「ばぁぁろ。お前が言っているのは護衛の話だろう。俺が心配しているのは財布だ! リム=ザップに任せて見ろ。こいつ新品の軍艦が丸ごと買えるような買い物してくるぞ」


「はっはは。なるほど、確かにやりかねませんね。どうやら、この二人意気投合しちゃっているようですから、財布の紐を管理する者がいりますね。分かりました。それなら私が行きしょう」


「ちょっと、バロック、私もお金持ってるよ…………いや、ごめん。エンジン買えるほどのお金は無かった。お金貸してくれるの?」


「あぁん? 皇女殿下のお友達に金を貸し付けるなど馬鹿な真似ができるか。殿下に献上するんだよ。ま、そうは言っても限度ってのがあるからな。その辺はカシアが見てくれるよ」


「あら、ちゃんと私の口座が使えるようになったら、返済……いえ、褒美を出しますわよ」


直美の横で話を聞いていたセレナが、ちゃんとバロックたちの負担にならないように配慮してくれるようで安心した。


「殿下、ご配慮頂き、ありがとうございます。明日、殿下は、アビスの艦内を案内させて頂きます。グリムリーパーは大規模修繕工事をするので、暫くはアビスで過ごして頂くことになります。アビスのなかでは、エルザかシノを付けますので、ご自由にお使いください」


「あのー、公式の場でもないので、もっと普通の話し方でよろしいわよ」


「あ、ははは。助かります! いやー実は、慣れていなくって、ここ十年ほど、使っていない敬語は難しかったですよ。それではセレナ様、このように砕けた話し方で失礼しますね」


セレナが頷いたのを確認して、バロックはシノという人を呼んだ。実は、直美は、初めて見たときから、その人の事が非常に気になっていた。

頭にはモフモフの獣耳がついており、パンツスタイルの後ろに穴が開て、その穴から、触り心地の良さそうな尻尾を出して、ユラユラと揺らしていた。


「この者がシノです。シノはレーダーを担当しているんで、セレナ様がやっていたような事をアビスでやっています」


「改めまして、シノです。艦ではレーダーと通信を担当していますが、停泊中はセレナ様の側使いをさせて頂きます。よろしくお願いします……えーっと? 直美さんは猫族を見るのは初めてですか? まあ、珍しいと言えば珍しいですか。シッポと耳が気になります?」


シノが挨拶してくれたのに、直美はシッポと耳から目を離せなくなっていた。


「あ、ごめんなさい。柔らかそうだなーって思ってしまって。ついつい見とれてしまいました」


直美は、不躾にガン見していたことに気がついて、ペコペコと謝ったが、シノは特に気分を害した様子は無かった。


「へっへへ。良かったら、触ってみます?」


「はゎゎ。良いのですか、ぜひお願いします!!」 


シノはバロックを押しのけて、直美の隣に座って、尻尾を触らせてくれた。直美にとって、シノのシッポの触り心地は地球の猫を思い出させた。


アビスの中で他にも女性の乗組員はいるが、シノは、艦橋にいるメンバーでは唯一の女性だった。


「……あー。今日から……アビスにいた方が良い……爆発する……可能性もある」


リム=ザップがとぎれとぎれ話すから、爆発するで区切られた瞬間、その場にいた全員が一瞬凍り付いてしまった。しかし、まあ、整備兵? が爆発する可能性があるなどと言っている艦で寝るのも勇気がいるので、今日から、直美とセレナはアビスに寝室を用意して貰うことになった。


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