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二十四の段 名君への第一歩(後編)

 最後にハプニングがありましたが、義苗さまは菰野藩上屋敷(かみやしき)に無事に帰還きかんしました。


「殿さま、よくぞご無事で……。我ら家臣かしん一同いちどう、心配しておりました!」


 お供をしていたドラぽん、ピョンピョン左衛門ら10数名の家来たちも城の外で心配して義苗さまの帰りを待っていましたが、上屋敷でお留守番るすばんをしていた家来たちはもっと心配していたようです。


「老中の陰謀いんぼう見事みごと退しりぞけるとは、なんとたのもしい殿さまなのでしょう。今までご隠居さまを恐れるあまり殿さまを無視してきたこと、どうかお許しください。これからは、新しい菰野藩を作るために一生懸命いっしょうけんめい働きます」


 家来たちを代表して一人がそう言うと、義苗さまは「オレはまだまだ未熟みじゅくな殿さまだ」と首を振りました。


「がんばって成長するから、みんなでオレを助けてほしい」


「ははっ!」


 ご隠居の雄年さまは、たくさんの家臣たちにかこまれて笑っている義苗さまを少しはなれたところから見つめていました。


(8歳で藩主になったワシは菰野藩を私物化しぶつかしていた悪い家臣たちに苦しめられ、大人になるまでの長い間、何もできずにくやしい思いをしていた。

 ……だが、ひこきちはたった13歳で昔の悪い家来のように菰野藩を私物化していたワシに立ち向かい、松平定信にまで卑怯な手を使わずに勝った。彦吉なら、菰野藩を救うことができるかも知れない)


 おお、雄年さまがようやく義苗さまをみとめてくれたようですね。よかった、よかった!


(でも、彦吉はぜーったいに「ぜいたくな暮らしをやめろ」とワシに言ってくるだろうなぁ。嫌だなぁ、憂鬱ゆううつだなぁ……)


 ……ただし、あまり反省はんせいはしていないようです。


「殿さま。はす向かいの大名屋敷から使者ししゃが来ていますです」


「はす向かいの大名屋敷? どこの殿さまだ?」


日出藩ひじはん(現在の大分県おおいたけんにあった藩)の木下きのしたとしまささまだそうです。義苗さまのお父上・俊直としなおさまが養子ようしに行かれた旗本はたもと・木下家のご親戚しんせきだと使者は言っていますよ?」


「え⁉ 上屋敷の近くに木下家の親戚の屋敷があったのか⁉ い、今まで下屋敷しもやしきにいたから気づかなかった……」


 使者としてやって来た日出藩の家来は、「これは、義苗さまのお母上から『息子に届けてほしい』とあずかった物です」と言い、義苗さまにマコモの草で作られた馬のオモチャを手渡しました。


ちまきうまだ。そういえば、昔、端午たんご節句せっく(5月5日)に母上がよく作ってくれたな。マコモの草で作っていたのか」


 義苗さまはなつかしそうに目を細めて、つぶやきました。


 粽馬は端午の節句に子供が遊ぶオモチャです。端午の節句からだいぶ日にちが過ぎていますが、正式に菰野藩主となれた義苗さまへのお母上からのささやかなプレゼントなのでしょう。


「そして、お父上からの伝言もあずかっています。『立派に成長したおまえの姿が見られてうれしい。将軍さまの家来である旗本の身分では、大名のおまえと頻繁ひんぱんに会うことはできないだろうが、江戸城の廊下でまたすれちがうことができる日を楽しみにしている』とのことです」


「……やっぱり、城内で迷子になっていたオレを助けてくれたあの旗本は父上だったのか」


 義苗さまは粽馬を大事そうになでながら言いました。じわりと目に涙が浮かび、あわてて手でぬぐいます。


「義苗さま。武士でも泣きたい時はありますです。今日はたくさんがんばったのだから泣いてもいいと思いますよ」


 ミヤが義苗さまの手をそっとにぎり、優しくそう言いました。


「いや、涙はとっておく。『人を愛し、人に愛される、立派な殿さま』になって、父上との約束を果たす時まではオレは泣かない」


「初心を忘れず、木々が生いしげる山になるのですね。そのお覚悟、超超特大の花まるです」


 南川先生がほめると、義苗さまはクスリと笑い、「いつもケチをつけてくる南川先生がオレをほめると、何だか気持ち悪いな」と言いました。


「な……! 私がケチばかりつける嫌な先生だと思っていたんですか? 怒りましたよ! 顔に大きな×印(ばつじるし)を書いてあげましょう!」


「あはは。ごめん、ごめん。うそだよ」


 めずらしく義苗さまが南川先生をあおり、みんなはドッと大笑いするのでした。


 ふぅ~、これでめでたし、めでたしで終われますね。では、そろそろお別れのあいさつを……。


「ごめんくださーい! 菰野のご隠居さまぁー!」


 おや? 何だか門の外がさわがしいですぞ? 屋敷の外には商人がいるみたいです。


「この間おしすると約束した500両、お持ちしましたよぉー! 今度は期日きじつ以内いないにちゃんと返してくださいねー!」


「ご、ごごごご500両ぉぉぉーーーっ⁉」


 義苗さまと家来たちがおどろいていると、雄年さまが「あ……。すっかり忘れてた」とつぶやきました。


「彦吉が菰野に行っている間に、新しく借金をしたんじゃった……。また菰野で大相撲をしようかなって思って。てへぺろ~☆」


「てへぺろ☆じゃないってばぁぁぁぁぁぁ‼」


 義苗さまの絶叫ぜっきょうが、江戸の空にひびき渡ります。ピョンピョン左衛門にも負けないほどの大声ですな!


 オチもついたところで、今度こそ本当に物語のまくを閉じたいと思います。最後までお付き合いくださったみなさん、まことにありがとうございました。


 でも、義苗さまと菰野藩の未来への戦いはまだ始まったばかりでござる。どうかみなさん、義苗さまたちを応援おうえんしてあげてくだされ。


「とりあえず、続編がある場合は、優秀で可愛いくノ一ミヤちゃんの活躍をもっと増やすです。増やしてくれなかったら、物語の語り手を爆弾ばくだんで吹っ飛ばすです」


 え? そんなえこひいきはできな……うわわ! 両手に爆弾を持ちながら恐い顔でせまらないでくだされ! や、やめ……。




 ちゅどぉぉぉーーーーーーん‼





                  了

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