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先生って呼ばないでくださいっ!  作者: 矢崎慎也
第2章 ライバルは増える?
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Ep.5 夏休みはリゾートで④

「法学部? 弁護士とかになりたいのか?」



 法学部という選択は少し意外だった。正直、桜は勉強がニガテというほどではないにしろ、得意な部類には入らないだろう。俺も人のことを言えたレベルではないが。弁護士という職業は、勉強が好きでエリート然とした人がなりそうなイメージだ。例えば瑠美みたいな……って言っても、瑠美は全然エリートっぽくないけど。



 俺の考えていることを感じ取ったのか、桜ははにかんだ。



「ううん、さすがに私に弁護士とか裁判官は難しいかなって。でも、法律ってすっごく身近なところにあるでしょ? 何にも知らないまま生きていくの、なんだか怖いなって」

「あー。それは分かる。詐欺とかって、結局知識が無いから痛い目にあうんだよなぁ」

「うん。でも、法律なんて自分で勉強するのすごく難しそうだし、授業だったら少しは覚えられるかなって思ったの」



 なるほどなぁと思ってると、桜に構ってほしいのか紅葉ちゃんが後ろから桜に抱きついた。



「おねえ、将来の夢は全然違うもんね~?」

「ちょ、ちょっと紅葉っ!」

「えへへ。先輩、知ってますか? おねえったらこの前からんむぅ」



 顔を真っ赤にした桜が、何やら慌てた様子で紅葉ちゃんの口をふさいでる。ふごふご何か抗議らしき声をあげてる妹さんの様子を見て、俺の隣で汐音が「うちとは立場が逆ですね……」と冷静に呟いているが、あながち間違ってない。



そういえば、と紅葉ちゃんを助ける意味合いも込めて俺は彼女に質問した。



「紅葉ちゃんって、なんで俺のこと知ってたんだ? 初対面だよな?」

「ふご……っふぅ、まったくおねえってば乱暴なんだから。……で、先輩のこと知ったきっかけですか? そりゃあもういつも家でおねえがっ……!」



 再びセリフの途中で「ふがふが」させられた紅葉さん(犠牲者)。助けを求める眼差しを俺と汐音に向けているが、俺たちはそっと目をそらした。だって君の後ろのお姉さん、貼り付けられたような笑顔浮かべてるんだもん。相手にしたら間違いなくやられる。



 そのとき、きゅぅと可愛らしい音が聞こえた。音の発信源は俺の隣だ。皆の視線を一身に受け、汐音は恥ずかしそうに身を縮こまらせる。時計を見たら時刻は12時を少し過ぎたところだった。朝ごはんを食べたのもいつもより少し早い時間だったし、そろそろ昼食にしてもよいだろう。



「俺たちはいったん昼食に行くけど……桜たちは?」

「そうだね……受験生相談会とかも行ってみたいけど、夕方までやってるみたいだし、ひとまずご飯に行こっかな」

「あ、じゃあウチ学食に行ってみたいっす! なんと、この大学の学食はビルのワンフロアまるまるがレストラン街になってるらしいですよ!」

「それは……ちょっと私も行ってみたいですね。兄さん、せっかくですしお昼もここで済ませてしまいませんか?」

「そうだな……よし、そうするか」



 どうやら全員賛成のようだし、早いところ行った方が良いだろう。まだ他の教室では説明会が続いているようだが、もうしばらくしたら如何にビル1フロア分の広さを誇る学食とは言えど4人分の席を探すのは困難になりそうだし。



「あ、ここの学食はステーキ定食が安くて評判が高いみたい!」

「そうなんですね……私、この明央海鮮丼が気になります。結構ボリュームありそうですが……」

「え、私も気になってたんだ! えっと……汐音ちゃん、だったよね? よかったら二人で1つ頼んで取り分けない?」

「は、はい。私は全然構いませんが……」

「やった! あ、なんかデザートもあるみたいだよ!」



 「女三人集まればかしましい」とは昔からよく言われてるけど、全くその通りだな、なんてことを考えながら、俺たち4人は食堂に向かって移動を開始した。



___________



「いやぁ、満腹満腹」



 俺の隣の席では紅葉ちゃんが少しぽっこりとしたお腹をさすりながら、満足そうに目を細める。



「食べたねぇ。……うぅ、ちょっと運動しないと、これはまずいかも」

「私もです、桜さん。最近友人に勧められたストレッチが、意外とおなか周りのお肉に効果てき面で……」

「汐音ちゃんそれ、詳しく聞かせてもらえないかな? かな?」



 それと対照的に、俺の前に座っている二人は何やらコソコソと(といっても全部聞こえてるんだけど)深刻そうに相談をしている。確かに、受験期って運動しないからカロリーのあるものを食べまくってるとヤバいって大学生の従兄弟が前に会ったときに忠告してくれたな……俺も一応聞いておくか。



 まったりとしばらく会話に興じていると、ふいに紅葉ちゃんが声をあげた。



「あ、おねえ! そろそろアレの発表時間じゃない⁉」

「アレ? ……あっ! アレのことだね!」



 そう言うや否や、桜は鞄からスマホを取り出して何やら調べ出した。気になった俺が、



「アレってなんのことだ?」



 と聞くと、



「この前ね、紅葉と出かけたときにデパートの抽選会に参加してね、そこで「仮当選」ってのになったの」

「仮当選、ですか?」



 汐音が首を傾げる。俺も初めて聞いた単語だ。



「うん。なんでも、そのときは「参加賞」か「そうじゃない賞」かだけが決まって、「そうじゃない賞」の方に当たった人には後日景品が発表されるんだって」

「なるほどな、その当選日が今日なのか」

「うん。ルンバとか、電子レンジとか、結構豪華な賞品が当たってると嬉しいんだけど……あ、これだ」



 お目当てのページを探し当てたのか、桜がスマホに一層顔を近づける。他の3人も、後ろから覗き込もうとすると、



「ええええええええええ」



 と驚いて頭を仰け反らせた桜のヘッドバットを食らいそうになった。



「あぶねっ! ってか、え? どうしたんだ?」

「おねえ、当たったの⁉」



 興奮した俺たちに問いかけられら桜は、震える指先で画面を指し示した。そこには……


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