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先生って呼ばないでくださいっ!  作者: 矢崎慎也
第2章 ライバルは増える?
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Ep.5 夏休みはリゾートで③

「桜……?」



 振り向いて姿を確認すると、そこにいたのは飾森桜その人ではなかった。というか、さっき「高校2年生」って言ってたしな。それに、声のトーンも桜より少し低いし、話し方も言い方は悪いがやや粗雑だ。フランク、とも言えるだろうか。



「どうしんですか、兄さん?」

「いや、クラスメイトと同じ苗字の人が後ろで返事してたから、もしかしたら本人じゃないかと思ったんだ」

「これだけ人がいれば、知り合いがいてもおかしくないですよね」



 辺りを見回しても、人の頭しか見えない。隣の席で汐音が眉間をもみほぐしているが、人混みにてられたのだろう。



「汐音、外で休むか?」

「いえ、ちょっと人に酔っただけですから、平気です。それより兄さん、そろそろ始まるみたいですよ」

「あ、あぁ。水分補給は一応しとけよ」

「……分かってます。子ども扱いしないでください」



 むっと頬を膨らませつつも、俺に言われたとおりにバッグから水筒を取り出して喉を潤している。



「(生意気そうに見えて、意外と素直なんだよなぁ)」



 教室の前方では、準備が整ったのか恰幅の良い男性がマイクテストを始めていた。そろそろ始まるようだ。筆記用具を取り出し、メモを取る用意をしていると、



「あのぉ……」

「ん?」



 声のする方に振り替えると、そこにいたのは先ほどの女の子だった。



「先輩、おねえのクラスメイトの方っすよね? ちょーっとお願いしたいことがあるんですが……」

「おねえ……お姉ちゃん? もしかして、桜のことか?」

「え⁉ 先輩、おねえとどういう関係なんすか⁉ ……って、今はそんな場合じゃなかった! もう説明会が始まる時間なのに、おねえがまだ戻って来ないんです」

「戻って来ないって……どこかではぐれたのか?」

「違うんす。一緒にこの教室まで来たんすけど、『お手洗いに行く』って……」



 で、そのまま帰ってきていないということか。廊下の方は人でごった返してるし、おそらくトイレの込み具合も生半可なものではないだろう。



「分かった。で、俺は何をすればいい?」

「ウチがお姉ちゃんを探しに行ってくるんで、説明会の内容をメモしといてくれません? おねえ、今日をすっごく楽しみにしてたんです」

「そんなことだったら、遠慮しなくていいぞ。俺も自分のためにやるつもりだったしな」

「あざす! この人混みだと、いったん教室から出たら再入場は厳しそうっすから助かりました!」



 俺に向かって軽く一礼してから、教室後方の出入り口に向かって飾森妹は人混みを掻い潜っていく。話し方はアレかもしれないが、意外と礼儀はしっかりとしてるし、他人に席を譲ったり姉のために進んで行動したりと、根は優しい子なのだろう。



「兄さん。彼女、そのまま行かせて良かったんですか?」

「ん? どういうことだ?」

「どういうことも何も……」



 汐音は呆れたように辺りをぐるっと見て、



「こんな人混みの中で、闇雲に探したって見つからないでしょうし……最悪の場合、行き違いになりませんか? LINEなり電話なりで居場所を伝えて、説明会終わった後に合流することもできたと思うんですけど」

「…………」



 高校生2人で全く思いつかなかった当たり前のことを指摘され、俺はがっくりと項垂うなだれた。



___________



「ほんっとにごめんなさい!!!」

「申し訳ありませんでしたっ!!!」



 説明会終了後、建物のエントランスで待ってた飾森姉妹が揃って頭を下げてきた。結局、桜は予想通りお手洗いで時間を取られてただけらしい。トイレから出たころには、説明会の時間は半分くらい過ぎており、迎えに来た妹さんと無事合流した後、説明会が終わるのを待っていたという訳だ。



「気にしなくていいって。そうだ、桜。これ、メモ取っといたぞ」

「わぁ! ありがとう! 本当なら、自分で聞いてたはずだったんだけどなぁ」

「あの人混みは、さすがに予想できなかっただろ。それと、えーっと飾森……」



 俺が妹さんの方に視線を向けたまま言い淀んでいると、察してくれたのか、



「あ、改めて紹介するね! この子は飾森紅葉。1個下の私の妹だよ」

「どうもっす! 紅葉くれはでいいっすよ!」

「あ、皐月くん。その子は?」

「ああ。こいつは汐音。俺の妹で、今中学3年生」



 俺がそう紹介すると、



「えええ⁉ 中学生⁉」

「う、うちらより大人びてるっす……」

「……なんだか、素直に喜べないんですけど」



 何故だか落ち込んでいる汐音はとりあえず放置しておき、俺は桜に説明会の要点を搔い摘んで説明する。大学のアピールポイントとか、入試の配点とか、正直ネットで調べれば分かるようなことばかりだったが、配られたパンフレットにはかなり細かく書き込みがしてある。



「んー……ねぇ、皐月君。皐月君も明央が第一志望なんだよね?」

「あぁ。今のところな」

「……何学部にするか、決めた?」

「いや、迷ってる。偏差値で決めるなら、可能性が高いのは商学部とか文学部なんだが……」

「そっか。私ね、決めたよ」



 桜は手渡したパンフレットの内の1ページをじっと見つめながら、自分に言い聞かせるようにはっきりと言葉にした。



「私、やっぱり法学部に行きたいんだ」


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