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先生って呼ばないでくださいっ!  作者: 矢崎慎也
第2章 ライバルは増える?
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Ep.4 心機一転?形勢逆転?⑪


「はぁ……だから違うって」



 クラスで吊るしあげられた時以来の否定を伝える。



「(そもそも、こんな凡骨と瑠美じゃあ月とすっぽん……とまではいかないと思いたいけど、釣り合うはずないだろうに)」



 別に、俺は自分の容姿をことさら卑下している訳ではないが、それでも瑠美の隣を歩いているときは気まずさというか、妙な恥ずかしさを覚える。図書館で勉強するくらいならともかく、一緒に買い物に行ったり遊びに行ったり……うーん、想像できない。



 未だに納得できてない様子の飾森さんに、俺は瑠美との関係性の説明を試みた。



「いいか、俺と瑠美は縁あって一緒に勉強する関係になっただけで……いや、一方的に教えてもらっているだけなんだが……とにかく、それ以上でもないから。ただの先輩と後輩だ」

「……普通の先輩と後輩は、一緒に勉強したり下の名前で呼び合ったりしないよね?」

「うぐっ。そ、それは瑠美がお願いしてきたからで……」

「ふーーーーん。皐月くんって、お願いされたら女の子を名前で呼んでくれるんだ? じゃあほら、私のことも桜って呼んでよ! ほらほら!」

「え、ええ……」



 ぷんすか、という表現が一番適切だろうか。ぐいっとお顔を俺の方に近づけてきた飾森さんは、何かに立腹した様子で自分を下の名前で呼んでみろとせがんできた。



「(っていうか、なんで俺は怒られてるんだ……?)」



 俺が瑠美と仲良くしているのが気に障った……んな訳はないか。出会って間もない俺に、クラスの人気NO.1の飾森さんが恋心を抱いてるなんて考えるのはアニメかマンガの世界だけの話だろうし。ってことは、



「まさか、瑠美の方を⁉」

「へ?」



 しまった、声に出てしまった。さ、さすがにそれはないだろう。うん。ただ、ちょっと瑠美と飾森さんが百合百合しているところは見てみたくも……



「……」



 無言の、突き刺さるような視線が、不埒なことを考えていた俺を襲った。心の中で土下座する。



「どうしたのかな~? 瑠美ちゃんは呼べても私じゃダメなのかな~?」

「……ああもう分かった! 呼ぶ、呼ぶから!」



 ゆらーりゆらーりと迫ってくる飾森さんと、あと外を通りがかったこの大学の生徒と思しき人から発せられていた「昼間っからこんなとこでイチャつくなよ」という無言のオーラに耐えかねて、俺は意を決して飾森さんの方を向いた。



「さ……桜」

「っ! は、はい! 私が桜です!」

「いや、それは知ってるんだが……」

「だ、だよね! あは、あはははは……」

「はは、はははは……」



 お互いの乾いた笑いが静まった後、気まずい沈黙が訪れた。なんだろう、今までただのクラスメイトだったのが、もう1ランク上に上がったような……友達? いや、でも今まで友達じゃなかったかと言われるとそれも微妙だし……。って通路の方から舌打ちが聞こえて来た。さっきの大学生だろ、絶対。



 どうしようか、と助けを求めるように飾も……桜の方を見やると、おでこまで名前の通りピンク色に染め上げてた彼女もまたこっちを向いたところだった。視線が交差し、互いに瞬時に逸らす。やばい、変な汗が出てきた。初夏とはいえ、館内の空調は正常に機能してるようだし、これはやっぱり俺の……



「……何ラブコメごっこされてるんですか、先輩?」

「「わぁっ」」



 驚きながら声のした方向を振り向くと、そこには頬をぷくーっと膨らませた瑠美の姿が。俺と同じく慌てた様子だった桜が、



「瑠美ちゃん、いつからそこに……?」



と聞くと、



「悠馬先輩が、とっっっっっても緊張されたご様子で『桜っ』って呼びかけたところからですね。お邪魔でしたか?」



 ふんっと明後日の方向を向きながら答える。



さっきの桜の感情は読めなかったけど、今度は分かるぞ。これは間違いなくねている表情だ。



「(まあ、俺とし……桜が仲良さそうにしてたら、自分だけ仲間外れにされたみたいに思うよな)」



 どうも桜が絡むと、瑠美は少し子どもっぽさが増すようだ。普段の教え方やふるまいが落ちついていて大人っぽいから、そんな瑠美も新鮮で微笑ましい。



「というか、さっそく来たんですね」

「え、もしかしてダメだった?」

「そ、そういう訳じゃないです。口を滑らせたのも、元々私ですし」

「えへへ。まぁ、私も予備校がある関係で毎日は来れないんだけどね。週に1回とか2回くらいかなぁ」

「……予備校ナイスですっ」



 俺を置いてけぼりにして、何やら二人で盛り上がっている。ぼーっとしてたからあまり会話は耳に入ってきていなかったが、何やら瑠美はガッツボーズをしているようだ。何かいいことでもあったんだろうか。



「あ、悠馬先輩」

「ん?」

「この前桜先輩とお話ししたときに聞いたんですが……」



瑠美はそこでいったん言葉を区切ると、「言ってもいいですか?」と目線で桜に許可を求めた。「あ、あのことかな?」と瑠美が何を言おうとしたか察した桜が片手で小さな丸を作ると、それを確認して言葉を続けた。



「桜先輩の志望校、先輩と一緒なんです」

「俺と? ってことは、明央が第一なのか?」

「うん、実はそうなんだ。って言っても、今のままだとなかなか厳しそうなんだけどね」



 てへへ、と恥ずかしそうに笑う桜。本人は自信を持てていないようだが、彼女の理解の速さは俺なんかよりもよっぽど早い。今は瑠美のおかげで早くスタートダッシュが切れたことが幸いして、何と俺の方が優勢だけど、うかうかしてたらすぐに抜かれてしまうだろう。



「そっか、お互い頑張ろうな。……にしても、桜とはライバルか。簡単には負けないからな」

「へへ、悠馬くんなんかすぐに抜いちゃうんだから! 一緒に頑張ろうね!」



 不意打ちに下の名前で呼ばれ、ドキッとする俺を尻目に、彼女は「やるぞー! えいえいおー!」と途中で止まっていた試験の解き直しを再開する。



 俺もやるか、と広げていた勉強道具に目を落とすと、隣に瑠美が寄ってきて、桜に聞こえないようにこそっと耳打ちしてくる。



「私、ちゃんと桜先輩と話せました。昔のことも、ほとんど言ったんです」

「……そっか」



 薄々予想はしてたけど、本当にやっちまうとはな。桜の様子もそれを匂わせるような行動は無かったし、彼女に打ち明けたのはやっぱり正解だっただろう。



 よく頑張ったな、の意を込めて瑠美の頭を思わずわしゃわしゃっとしてしまった。よく汐音にしているから何の気なしにやっちまったが……瑠美は特に嫌がる素振りを見せず、されるがままに気持ちよさそうに目を細めている。なんだか、猫みたいだ。



「あー! 瑠美ちゃん、さっきは私に文句言ってたのにー!」

「ち、違います! これは先輩からのご褒美ですから!」

「……ご褒美? って、騙されないからね! だいたい瑠美ちゃんは前から……」

「さ、桜先輩だって! この前……」



 ……うん。仲良きことは美しきかな。これ以上巻き込まれるのは御免だし、俺は自分の勉強に集中することにする。なんか前にもあったぞ、こんな流れ。



 テストの問題用紙にラインマーカーで印をつけながら、「瑠美と桜の方がライバルっぽい関係だよなぁ」という思考がぼんやりと頭に浮かんできた。何についてのライバルなんだろうな、一体。


これで第4章はおしまいです。何のライバルなんでしょうねぇ(すっとぼけ)

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