Ep.4 心機一転?形勢逆転?⑩
期末テストが終わった。
「(だめだ、手応えがない……)」
図書館へ向かう道で、俺は今日受けたテスト―今日は現代文と英語表現と地理だった―を思い返し、ため息をもらす。中間テストでは高得点を取れていた英語表現が、今回は自由英作文が10点分も出題されたこともあって満足のいく答案を作れておらず、現代文についても80字の記述問題は、なんとか解答欄を埋めただけに過ぎない。
「油断したかなぁ」
ぼそりとぼやいて、足元に道に転がっていた石をなんとなく蹴っ飛ばす。が、地面を転がる石はすぐ傍の電柱にぶつかって動かなくなった。はぁ、と再びため息をもらし、落ち込んでいても仕方がないので図書館への歩を進めようとしたそのとき、
「あ、皐月くーん!」
と後ろから大きな声で自分の名が呼ばれた。振り返ると、声から予想がついていたことではあるが、飾森さんが手を大きく振りながらこちらへ近づいて来ているのが見えた。
「おっす。あれ、飾森さんって家こっちの方面だっけ?」
「ううん、全く逆……ってほどでもないけど、駅を越えた辺りだよ。皐月くんは?」
と、世間話をしながら並んで歩き続ける。考えれば、ほぼ毎日のように会っていたとはいえ、飾森さんのプライベートについては全然知らないんだよな、俺。なんたって、会話のほとんどが勉強に関係することだったし。
「そういえば、今日の試験どうだった?」
「んー現代文が難しかったかな。私、物語文は得意なんだけど、説明文がニガテで……」
「分かる。読んでて楽しくないんだよな。大学受験では、小説の問題はあまり出題されないって聞いて、地味にショックだったわ」
「ねー! 瑠美ちゃんからそう教わったとき、私思わず涙目になっちゃったよ!」
「ははは…………………ん?」
何気ない飾森さんの発言に、引っかかりを覚えた。
「瑠美から聞いたって……そんな話図書室でしてたっけ?」
「あ、ううん! この前の週末、LINEしてて国語の話になってね。そのときに聞いたんだ。『国語の現代文ってどう勉強すればいいの?』って」
頭の中にはてなマークがたくさん並ぶ。今、耳から入ってきた情報が上手く脳で処理し切れていないようだ。
「瑠美と、LINEした、のか?」
「う、うん」
戸惑ったような反応をした飾森さんだったが、少し頭を悩ませるような素振りをして何かに気が付いたようだった。
「あ、そっか。皐月くんいないときだったんだ!実は先週の金曜日にね、瑠美ちゃんと私の二人で司書室で勉強してたんだ」
先週の金曜日……そうか、思い出したぞ。瑠美が飾森さんと話し合うと決意した翌日の昼休み、俺は空気を読んで図書室に行かなかったんだ。飾森さんには表向きの理由として、「先生に質問したいことがあるから」って言っといたけど。
翌日以降、瑠美から何か言ってくることはなかったし、期末テストの勉強が追い込みに差し掛かっていたので俺からも特に尋ねていなかったので、すっかり記憶から抜け落ちていた。
「(でも、ちゃんと話せたんだな、瑠美)」
この様子を見るに、どこまで話したのかは知らないけど、二人の関係は以前より親密なものになったのだろう。娘が親離れしてしまったような、若干の寂寥感はあるが、それを上回る喜びで俺の心は一杯だ。
そうこうしているうちに、大学の正門が見えてきた。っていうか、
「え、もしかして飾森さんも図書館に?」
「えへへ。瑠美ちゃんがポロっと口滑らせたから来ちゃった♪」
やっぱり。そうじゃなきゃわざわざ家から遠いこっち方面に来るはずないよな。もっと早く気づけよ俺。
「……もしかして、迷惑だった、かな?」
俺が黙ったのを、悪い方向に捉えたらしい。飾森さんが嬉しそうだった表情を一転、何かを心配するような様子になったのを見て、俺は慌てて首を横に振る。
「いやいや、迷惑とか全然そんなことないから!」
「……ほんと? 瑠美ちゃんも、怒らないかな?」
「大丈夫だろ。たぶん」
ちょっとびっくりしただけだと説明することで、ようやく彼女の顔に笑顔が戻った。うん、近くで見ると改めて整っている。A〇B48とか乃〇坂46とかにいても違和感ないレベルに可愛さと綺麗さが並列されていて、今更ながら心臓が少しずつ跳ねてきたのを感じる。
「(瑠美の可愛さとは違ったベクトルというか……大人っぽさがあるんだよな、全体的に)」
どこが、とは言わないけれど。
話しているうちに図書館の前まで来たので、俺たちは話すのを一度止めて建物に入る。おそらく初めて来たであろう「大学の図書館」の雰囲気に圧倒されている飾森さんを先導して、俺と瑠美がいつも使わせてもらっている休憩室に来た。
「瑠美は……まだ来てないみたいだな」
「2年生は私達より科目数多いもんね~」
「よし、じゃあ待っている間勉強しとくか」
「うん! まずは今回のテストの解き直しから……かな?」
「ああ。中間テストのときは俺もそうした」
誰もいないのを幸いに、おしゃべりしながら使うテキストと筆記用具を鞄から取り出していると、ふと視線を感じた。部屋には俺と飾森さんしかいないってことは、この視線の主は―
「えっと、飾森さん? どうかしたか?」
「な、なんでもないよ! うん、ほんとに!」
ぶんぶんぶんと後ろで結ばれず流された髪も、飾森さんの動きに併せて揺れている。
「そうか……」
「う、うん!」
取り出した定期テストの問題用紙を開き、解ききれなかった問題にマーカーを引こうとしたとき、
「……やっぱりなんか用か?」
隣から向けられる視線に耐えられず、手元から顔を上げる。
「うー……ごめんね、どうしても気になったことがあって……」
「ん? 勉強のことか?」
「ううん、そうじゃなくて……」
躊躇いに躊躇ってから、やがて意を決したようにこう聞いてきた。
「皐月くんと瑠美ちゃんって、やっぱりお付き合いしてるのかな⁉」
次で第4話はおしまいです!(たぶん)




