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先生って呼ばないでくださいっ!  作者: 矢崎慎也
第2章 ライバルは増える?
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Ep.4 心機一転?形勢逆転?③(授業⑤「if, when副詞節中の時制」)




 昼休み。持ってきたお弁当を速攻で片付けた俺が、図書室の入口のドアをそろーっと空けると、



「あ、皐月くん! こっちこっち!」



 気づいた飾森さんは、貸し出しカウンターの奥から手招きしてくる。一応周囲を気遣ってるのか、声は潜めたようだが、



「飾森さんが……自分から男に声をかけた⁉」

「並みいる男子からの告白を断ってる飾森さんが……そんな……」

「ってか、オイあの男子……たしか音羽様と一緒に歩いてたのが目撃されたっていう……」



 バッチリ聞こえてますよねー。ってか、音羽様ってどういうことだ。彼女の人気は、どうやら学年内に閉じたものではないらしい。



「(これ、迂闊うかつに瑠美と放課後一緒にいるところを見られたらヤバいよな……)」



 以前、俺の忘れ物を瑠美が教室まで届けに来てくれた後のクラスメイトの反応を思い出し、思わずぶるりと震える。あの時は疑惑で誤魔化せた(?)が、次はそうもいかないだろう。



 はぁ、とため息を漏らして飾森さんのいる方向へ歩いていく。



「えっと、じゃあ美樹ちゃんしばらくカウンターの方よろしくね」

「はいはい、後はお若いお二人でどーぞ」

「もう! そんなんじゃないよ!」



 ヒラヒラと手を振る違うクラスの女子生徒に、しばらくの間は当番を任せるつもりらしい。まあ、今図書室には俺たち含めて10人もいないから業務に支障は全くないだろう。



「よし、じゃあよろしくお願いします。皐月先生」

「そ、そう期待されるのも困る……先生なんて大したもんじゃないぞ」

「そうかな?」



 小首を傾げながら、飾森さんは口元に微笑を浮かべた。手を胸の下で組んでいるため、ただでさえ自己主張の激しい「そこ」は一層強調されて……



「(って、いやいや何考えてるんだ俺!)」



 彼女の妖艶な雰囲気にあてられて、危うく思考が変な方向へ持っていかれそうになった。本人には自覚が無さそうだからどうしようもないのだが、それがかえってエロさを増強しているというか、まるで素人の―



「皐月君? 大丈夫?」

「っ! あ、ああ」



 いかんいかん、集中せねば昼休みが無くなってしまう。



「あー、その、『if節とwhen節の中が現在形になるのはどういう場合か』だったか」

「そうなの! 参考書とかも見てみたんだけど、「副詞節がどうたらこうたら~」て書いてあるだけで……」



 確かに、さっきペラペラとめくってみたが、学校で配られたテキストに書いてある説明は詳しくなかった。俺は瑠美に聞くことで疑問を解消してきたけど、学校の教材だけで理解するのはやや厳しいかもしれない。



 昼休みの前に作成したオリジナルプリント(といっても例文を二つ予め書いておいただけなんだが)を彼女に手渡す。



「これは?」

「①『I wonder if we will be able to play tennis tomorrow.』と②『If it will be sunny tomorrow, I will play tennis in the park with my friends.』。この二つの文、一方だけに間違っている箇所があるんだ」

「え、どっちかだけしか合ってないってことだよね?」

「ああ、そうだ」



 うーんとうなりながら二つの英文を吟味している飾森さんは、まるで数週間前の俺を見ているようだった。



「(瑠美、いつもこんな風に俺のことを見てたのかな)」



 子どもを育てたことが無いから正しいのかは分からないが、ハイハイを卒業してよちよち歩きを始めた子どもを見る親のような気持ちってこういうものじゃないだろうか。



「んー。②かなぁ。なんか、テキストの例文で①はあったような……」

「おお。正解だ」



 て、テキストの例文を少し変えただけだから、その指摘は実に正しい。ちなみに、俺は瑠美に説明してもらってる時にこの二択を外している。なんだか少し敗北感。



「②の文章のif節、『If it will be sunny tomorrow』のところだな。ここに間違いがあるんだが」

「『if節の中が現在形になる』んだよね? だから、正解は『If it is sunny tomorrow』、だよね?」

「あ、ああ。正解だ」



 またもや正解。「俺、説明する必要あるのかな……」と若干疑問を覚えながら話を続ける。



「さて、じゃあなんで①が正解で②が間違いかなんだが……そこの区別が分からないんだよな?」

「うんっ、そうなの!」



 我が意を得たり、とばかりにうんうんと頷く飾森さん。



「よし。じゃあ、この二つの例文を日本語に訳すことはできるか?」

「ちょっと待ってね……うん。①は「私は明日テニスができるかどうか疑問に思います」で、②は「もし明日晴れたなら、私は友達と公園でテニスをします」」

「正解。じゃあ、ここに注目してくれ」



 そう言って、俺は二つの例文の『if』の部分に赤ペンで丸印をつける。



「今、日本語に訳すときに『if』はどういう風に訳した?」

「え? ①の方は……「かどうか」で、②は普通に「もし」だけど……」

「そう、そこに『if』の文法的な違いがあるんだ」



 この辺は瑠美の完全な受け売りだが、彼女の説明が学校の先生やその辺のテキストなんかよりよっぽど分かりやすいので、遠慮なく使わせてもらう。



「テキストでは『if節が副詞節のとき、その節の中の動詞は現在形になる』って書いてあるけど、正直分かりにくいよな。だから、「『if』の部分を『もし』って訳すことができるなら、そのときはif節の中を現在形にする。反対に……」

「『if』をそれ以外で訳すときは、『will』が入ってても問題ないってこと、かな⁉」

「あ、ああ。そうだ」



 飾森さんが突然目をキラキラさせて俺のセリフを奪ったものだから、俺は呆気に取られて首を縦に振るしかできない。



「そっかぁ! 日本語に訳したときの違いで区別できるなんて、すごく便利だね!」

「だよな。俺も最初知ったときは、「こんな楽な方法あるのか」って驚いたよ。ちなみに、『when』は「~とき」って訳す場合には、when節の中を現在形にする必要があるからな」



 『併せて覚えておくと良いですよ!』と言っていた瑠美の顔を思い出しながら、最後に一点補足しておく。まぁ、飾森さんは俺と違って吞み込みが早いし、一度気づけば自分で応用ができそうだが。



「ほんとにありがとう! やっぱすごいよ、皐月君って! 予備校とか通ってるんだっけ?」

「いや、基本的には独学……だな」



 若干目を逸らしながら答える。自分で勉強している、という意味では独学だが、実際には超スーパーウルトラ頼りになる先生の個別指導を受けているようなものだ。「すごいっ!」とますます俺を褒めちぎってくれている彼女に、得も言われぬ罪悪感を感じる。



 目を逸らした先にあった時計を見ると、まだ昼休みは10分ほど残っていた。



「おっし、もう大丈夫そうだな。じゃあ、俺先に教室に戻ってるから―」

「あ、ちょ、ちょっと待ってくれるかな!」



 座っていた椅子から立ち上がり、司書室を出ようとすると飾森さんが慌てて引き留めてきた。



「えっとね……もし皐月くんの時間が許せば、他のところも教えてくれると嬉しいかな、なんて……」

「お、俺が⁉ いや、でも俺そんなに勉強は」

「ダメ……かな?」



 必殺の上目遣い。狙ってやってるなら「あざとい」の一言で切って捨てるが、その純粋な目を見ていると到底そうは思えないから困る。



「……俺が分かる範囲なら」

「やったぁ! 皐月くんの説明、すごく分かりやすいから嬉しいな♪」



 途端元のニコニコ顔に戻って、いそいそと「この問題……とこれとこれと」と質問する問題のリストアップを始める飾森さん。



「(分かりやすいのは、俺じゃなくて瑠美の説明なんだけどなぁ)」



 そう思うが、ややこしい事態になるのを避けるためにも伏せておいた。まあ、俺も普段あれだけ瑠美に頼りまくってるし、他の人に聞かれたことはできる限り答えてあげたい。



「できたっ! 皐月くん、この問題をお願いします!」



 そう言って飾森さんから渡された模試の問題冊子には、10か所ほどの付箋がつけられている。



 「これは絶対昼休み中には終わらないな……」と思いながらも、少しでも彼女の力になるべく自分の記憶を掘り起こし始めた。


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