サラマンダー現る!
2台のゲーム機がLANケーブルで繋がった瞬間、信じられない光景が広がった。
「あ、雨霧……そそそ、その人は誰?」
彼のすぐ後ろに全身が真っ赤な女の人がいた。長い髪の毛も、インドの踊り子のような服も、瞳の色まで全てが真っ赤な女の人。その人がたわわな胸を雨霧の頭の上に乗せるような体勢で彼に後ろから抱き付いている。
「紹介するよ日笠、この人が魔王の一番弟子であり、オレが仕える主人、サラマンダーのサラだ!」
雨霧はおっぱいが頭に乗っているこの状況を無視するかのように、私にその人を紹介してきた。
魔王の一番弟子というから、雨霧がこの世界で合っている相手もオジさんとばかり思っていたけれど、サラという人の見た目は充分に若くて、人間で言うと20台前半のお姉さんという感じがする。
どうしよう……こちらから自己紹介した方がいいのかな?
サラと目が合ったけど、すぐに視線を外されてしまった。まるで私など眼中にないという感じで。
サラは魔王の足元に片膝を付いて、胸に手を当てて頭を垂れる。
「魔王さま、お久しぶりです」
「うむ、長い間待たせたなサラ」
「魔王さまと離れ離れになって幾年。その間もずっと魔王さまのことを想い続けておりました……」
「そうか、苦労かけたなサラよ……」
魔王はサラの頭に手を当てながら微笑んだ。サラの目からは涙が滝のように流れ落ちている。
あーあ、床がびしょぬれになっちゃうな。ここ、お兄ちゃんの部屋なんだから怒られるのは私なのに…… 状況がよく分からない私は、そんなどうでもいいことを考えていた。
「オレ様の適合者を見つけるのに時間を要したのだ。この異次元に来る大概の人間はオレ様の話を信じることなく不適格だったからな」
「しかし魔王さま、本当にあの小娘は魔王さまの適合者なのですか?」
「つぐみはオレ様と魔族の契約を済ませたぞ?」
「魔王さま程のお力に釣り合う人間となれば、もっと屈強な人間であるべき。本当にその小娘は適合者なのですか? あのちんちくりんな小娘が魔王さまに適合するとは思えませんが……」
サラの視線が私に突き刺さる。その表情はとても冷たくて意地悪な感じがする。真っ赤なクチビルの端がつり上がってひくひく動いている。
「ねえ雨霧、サラって私を嫌いなのかな?」
「ちょっと雲行きがおかしくなってきたな!」
そう言いながら、彼はズズッと鼻水をすすった。
「ひとつ、私にいい考えがあります。私とあの小娘を模擬戦で戦わせてください。私が一撃でも食らうようなことが有れば、魔王さまの適合者として認めましょう」
えっと……一体、何の話をしているのでしょうか?
「うむ、いい考えだ」
魔王が満足げに頷いた。そして私の方を二人が向く。
や、やめて……!
「つぐみよ、今からサラと1対1のバトルをするのだ!」
魔王が私に命令した。その隣でサラはニヤリと笑った。
「バトルって……何の? ねえ雨霧、バトルって何のことなの?」
「このVR世界ではスキルに応じた魔法と武器が使えるんだ。用意されたステージの中でどちらかが倒れるまで戦うこと。それが模擬戦だ!」
「どちらかが倒れるって……あっ、それってあくまでもゲームの中だから痛くは――」
「このVR世界で負った傷はリアル世界に全て引き継がれる。当然、痛みも苦しみも全てがリアル世界と同じだ!」
「じゃあ、もしこの世界で死んじゃったら……」
「それは……」
雨霧は私から視線を外してうつむいてしまった。
「さあタッ君! ステージを開きなさい!」
サラが雨霧に命令した。
彼はサラに『タッ君』と呼ばれているのか。私もタッ君と呼んだら彼は怒るかな? そんなどうでもいいことを考えていた。




