初めての砂漠ステージ
「オペレーションボード・オープン!」
雨霧が戦隊ヒーロー物の人みたいにカッコよく言った。
すると、彼の目の前にコンピュータの画面のような物が現れた。
「バトルステージを展開!」
雨霧の声と同時に周りの景色が一変。ぎらぎらに燃える太陽の下に広がる砂の大地。人の背丈ほどのサボテンが点在している他は何も無い砂漠の真ん中に私たちはいた。
「はあっー!? どうしてぇぇぇ――?」
「落ち着け日笠! オレ達はVRゲームの世界にいるだけだ。そう思えば少し気持ちが落ち着くだろ……?」
「落ち着かないよぉー! 落ち着くわけないじゃん、怪我も痛みも現実と同じなんでしょう? こんなのもうゲームじゃないよぉー!」
私は雨霧に文句を言った。でも彼はきっと悪くない。それは私にも分かっているけれど、今の私は混乱しているのだ。
サラが私の目の前で両刃の剣を抜いた。よく磨かれた剣は周りの景色を鏡のように映している。その中に私の顔が見えた。彼女は私が怯えている様子を楽しんでいる?
「小娘よ、しばらく時間をあげるわ。そうでなければ倒しがいがないからねえ……。せいぜい付け焼刃の準備でもしておきなさいな」
サラは砂の地面を飛び跳ねるように後退した。その距離は優に30メートル。ここがお兄ちゃんの部屋だとしたら、すでに隣の家の庭ぐらいの位置だろう。
つまり――ここはもう家じゃないらしい。
「雨霧……私はどうしたらいい?」
世界中で私が頼れるのは彼だけになった。彼に見放されたら私は死ぬのかも知れない。でも、そんな彼は私の戦う相手、戦士サラマンダーの命令には逆らえない。
私、絶体絶命のピンチです!
「日笠、落ち着いてオレの話を聞け!」
「はい、私はあなたの話を聞く準備はできています!」
こんな時、私はなぜか丁寧語になってしまう。
「右手を前に出して、コマンドを唱えろ! オレの様子を見ていただろう? オペレーションボードを出せ!」
「分かりました! オペレーションボード・オープン!」
すると手の平の位置に真っ白い画面が浮かび上がった。中途半端に手を伸ばしたせいか、少し近すぎるので私は半歩後退した。
「ねえ、何か文字みたいなのが出てきたけど、一文字も読めないんですけどー?」
「あれ? おっかしいなー。おまえん家のプレスト6って、日本語バッチが入っていないのかー!?」
「えっと……バッチって、缶バッチ? それってゲームに関係あるの?」
「違う違う、そのバッチじゃなくってさー……」
雨霧が地団駄を踏んでイラついている。そんなに怒らなくてもいいじゃん! 私、ゲームのことにそれほど詳しくないんだもん!
「つぐみよ、このままだとサラに秒殺されるが、おまえはどうする?」
私と雨霧の会話を聞いているだけだった魔王の口がようやく開いた。
「魔王さま、私に命令してください」
私は昔の機械みたいに棒読みした。
そうだ。この砂漠から生還するには雨霧は頼りにはならない。私が従うべきなのは、変な動物の頭蓋骨を頭に乗せた、いかつい顔のオジさん魔王なのだ!
「つぐみよ、青いボタンを押せ! そして叫ぶのだ『エンチャント・魔法のステッキ召還』! っと」
「……えっ!?」
白い画面に浮き出た青いボタン。それを押そうとする私の手が震えていた。




