最終話その6
「私は貴女の暗殺任務を請け負っています」
ルーカスの言葉は重く静かに、玉座の間に響き渡る。
自分を狙う刺客が来るであろう事は予期していたし、むしろ願ってもない事だった。
そうステラは思いながら、自分が唇を噛み締めている事に気が付いた。
自分が殺される事で、この後攻めてくるであろうとブロンズ王国騎士団本隊がこの国を占領しやすくする。
そうすればニューブロンズ王国はブロンズ王国に併合され、少しはマシになるかもしれない。
そう考えるステラであったが、まさかその刺客がルーカスだとは思っても見なかった。
彼の評判はステラの耳にも届いており、“眼帯の騎士”とまで呼ばれているルーカスはきっと本隊に混じって来るだろうと思い込んでいたのだ。
しかし、そんな予測は簡単に裏切られる。
最もルーカス自身が先遣隊に志願した事を、ステラは知るよしもなかった。
「それで、私を殺すと?」
ステラは女王としての威厳を保とうと、努めて平静な声を絞り出した。
噛み締めていた唇の代わりに、今度は拳を握りしめている。
「……」
ルーカスは何も答えない。
その沈黙を肯定と受け取ったステラの拳は、より一層強く握られた。
「貴方が私を、殺すのですね」
睨むようにルーカスに言い放つ。
「ここまで…ここまで来るのに6年かかった」
ルーカスがステラを睨み返す。ただし、その目は憂いを帯びた物から優しい物へと戻っていた。
「本隊がニューブロンズに着くまで、まだ2、3日の猶予がある。その前に、君はこの国から出るんだ」
「え?」
ルーカスが何を言っているのか、ステラには分からなかった。
この国を出る?
何を言っているんだろうか、このヒトは。貴方は私を殺しに来たはず。
それを、この国を出る?
「王妃との、ルーナシア・エルメスターとの話はついている」
ここに旅立つ前に済ませてきた。とルーカスは続ける。
「ニューブロンズの情勢はセントラルを通じてブロンズにも入ってきていたんだ。だから、遅かれ早かれブロンズはこの国を併合するつもりでいた。その準備を進めていたんだ」
「そこにノコノコ私たちが乗り込んでいって、馬鹿みたいな宣戦布告をしたということ?」
ステラが不機嫌な表情になる。
「セイレンの内乱と、君らの起こしたクーデターで、この国がボロボロなのは明らかだった。王妃は早い段階からブロンズ国王に進言していたんだよ」
ニューブロンズが唯一門戸を開いていたセントラル通商連合も、完全な味方ではなかったということか。
どうやらコチラの事情は全て筒抜けだったらしい。
「セイレンで戦果をあげて、王と直接謁見して、この企みに加わる事にしたんだ」
何もかもお見通しで、あの聖女ルーナシアの掌の上で転がされていた。という事になるのだろうか。
ステラはなんだかムカムカしてきた。




