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何を願って  作者: 文絵
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第28章 遂行 1

「結局、あなたは秘宝に何を願ったの?」


「――世直しを」




「恥ずかしい……!」


 片づいた後であるにも拘らず、と言うべきか。片づいた後だからこそと言うべきか。


 千梨は頭を抱えた。


「この格好で人前に出たとか!」


「台詞回しも様になっていたよ?」


 レイが笑っている。台本書いたのあなたじゃないの、と恨みがましく見やってもどこ吹く風だ。


 黒を基調に赤を交えた、コントラストがどぎついほどの衣装。マリッカの魔術で髪も漆黒に変わっている。血水晶に染められた赤だけは、つい先ほどまでは残っていたが。


 冥府の使者を装って、ゼラムやその側近の前に立って。否、浮いて。魔術に支えられながら、宙に佇んで。主に重責という面で一世一代の、芝居を打った。


「死は我らのもの」


 そのときの台詞を、レイが高らかに反復する。


「そなたに預けし死の鎌を、今こそ返せ」


「やめれ」


 つかみかかって強引にやめさせる気力もなく、テーブルに突っ伏して耳を塞ぐ。偽物だと見抜かれなかったことが救いである。


 衣装も髪も、ことさら芝居がかった物言いも、演出のためでもあったけれども、印象を普段とかけ離れたものにするためでもあった。よくよく顔を見なければ、かの使者とこの千梨とが同一人物であるとはわからないように。致し方ないことではあったのだ。後悔しているわけではない。恥ずかしいだけで。


 それ以上からかいが続かなかったので、千梨は手を耳から外し、ちょうど目についた髪をつまんだ。魔術を解けば茶色には戻るとのことで、それはよい。問題は──いや、寧ろ問題ないとも言える。


 髪先の赤が抜け落ちているのだ。


「……あたしはあの役をやるために呼ばれたわけなの?」


「いや」


 半ば以上独り言だったのに、応じたのはマリッカであった。


「殺さずに収めよ、という規範をもたらすためだ。わたしはそう考える。ゼラムを殺すなとあなたが示したから、レイは違う道を拓き、わたしはその道を歩いた」


 千梨は体を起こした。マリッカはまっすぐに千梨をみつめた。


「わたしが振る舞いを変えるにも、理由がいった。自分の気紛れで、あるいは自分が死を経験したという個人的な理由で、変わるわけにはいかなかった」


「死は、冥府の支配者のもの」


 先よりも真面目に、レイが繰り返す。


「人に死を与える権利は、人ならぬ存在のもの。かつてマリッカは人の身でありながらそれを代行し、そして今は放棄した。そういう認識が広まれば、エルは変わるだろうね」


 領主の地位を追われたゼラムは、しかし命は取られなかった。あのマリッカが、という印象は強く働くのだろう。血水晶の助力を考慮すれば、一層。


 力が正義なのは変わらないみたいだけど、と呟けば、一足飛びは難しいとレイが肩を竦めた。そうねと千梨も認めた。


「まあ、これでも十分に一足飛びだよ。君が外部から持ち込まなければ、エルが自発的にその段階に至るのはずっと先だったろう」


「あたしのとこだって大して徹底されてないんだけどね」


「師を越えてこその弟子じゃないか」


 レイは片目をつぶってみせた。



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