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生体兵器は自重しない。  作者: 風来坊
王都学園編
20/43

第17.5話(後編)

アリシア視点後編です。

訓練着にプロテクターをつけ着替え終わると、私達は片や戦々恐々とするもの、片や挑発に乗せられ興奮しているもの、様々だった。


「アリシアちゃん。」


私は声をかけられた方を見る。

サクラだ。


彼女は桜花国出身で私と同じようにこの学園に留学してきていた。

普段はおどおどしていて大人しいのに、刀を持てばそんなことを忘れたかのような凄まじい動きを見せる、頼れる親友だ。


「なんだか大変なことになっちゃったね。あの教官先生、何かおかしいよね。いきなり姿は変わるし。私たちと同い年位なのにあんなすごい殺気を出すし。」

「そうね。でも冒険者ランクはDって言ってたわ。意外と腕前は大した事は無いかもしれないわよ?」

「そ、そうかなあ・・・。」


そんな私たちの会話を聞いていたのか、エレーナが話に加わってきた。

彼女はこの国の貴族で、普段から見たまま「お嬢様です!」という格好をしている。

尤も今は私たちと同じように訓練着だけど。


「アリシアさんの言う通りですわ!Dランクなどわたくしの魔法にはかないませんわ!すべて焼き尽くして差し上げますわ!」

「頼りにしてるわよ、エレーナ。」


彼女はどこから取り出したのか、センスで口元を隠し、「おーっほっほっほっほ!」と高笑いを上げていた。

そんな中一人、ボソッとつぶやいた人物がいた。

エリックである。


「油断はしない方がいい。見た目は俺達と変わらない年頃のようだが・・・な。」

「相変わらず心配性ですわね、エリックは。貴方はいつも通りで行けば大丈夫ですわよ?」

エレーナはそう告げるがエリックは表情を崩さない。


「そうだといいがな・・・・・。」




私たちは訓練場にたどり着くと教官がこちらに近づいてきた。


「やっと来たか。授業放棄されたかと思ったぞ。まあいい、ここは冒険者ギルドの訓練施設と同じ魔力変換が行われている。つまり死なないわけだ。んで、君らがどうしたら納得してくれるか俺は考えた。正直あまり頭はそんなによくないんでな、好きなのを選ばせてやる。」


そう言うと彼は私たちに向かって右手を差し出すと、指を一本づつ立てて話し始めた。


「まず一つ目、一番お勧めのやつ・・・というかこれ以外選択したらいけないやつだな。今からでも素直に謝って、俺の授業を受ける。これは礼儀の問題でもあるしね。二つ目、こっからはどれもまったくお勧めしないぞ。俺に文句を言ったやつが責任を持って俺と戦う。納得するまで戦ってやる条件も付けよう。これに関しては一対一でも多対一でも、何でも構わない。三つ目、クラス全員と俺が戦う。これも一人でも多数でも何でもいい。あ、ハンデも付けるか。魔法無しで戦ってやるよ、後武器は・・・・・これで良いや。」


彼は普段の訓練で使われている、刃を潰した武器や、木製の武器が立てかけられている籠に近づき手を出すと、おもむろに木刀を一本取り出した。


そうしてこちらに向き直すと彼は、

「お前らは真剣使っていいぞ。後魔法も。その代わり戦うと決めたなら、殺す気で来いよ。その代わり判っているとは思うが痛みは本物だ。後悔の無い様に選択することだ。もう一度いうが一つ目の選択肢以外絶対にありえないからな。素直に謝ってくれることを期待している。時間がもったいないが初日だしな。5分やる。返答がない場合はお前ら全員たたき伏せて無理やりにでも言うことを聞いてもらう。いやなら帰っても構わないし、学園長に訴えてもいいぞ。俺は特に困らないしな。」


そんなことを言ってきた。

完全に舐められていると私達は思った。

彼はその場に座り込むと、私たちの返答を待っていた。


私はクラスのみんなを集め作戦を立て始めた。


「どうする?全員で行くか?」

ブラッドはそう言うが、全員でかかっても一度に書かれる人数は知れているし効率も悪い。

私は思案した末、

「私、ブラッド、エリック、サクラ、エレーナで行きましょう。」

「アリシアさん待ってくれ。俺達も行くぞ。ブラッド様だけを戦わせるにはいかない。」

「その通りだフリット。私も行かせてもらう。」


弓使いのフリットと魔法使いのマグナがそう告げる。

この二人はブラッドの付き人らしい。

しかし学園での成績も良い上に、ブラッドも合わせて三人とも容姿が良いので学園では人気があった。


「わかったわ。じゃあ二人も入れて私達7人で行くわよ!エレーナ、マグナは詠唱に集中して。私が貴方たちを守るわ。フリットは相手にスキを作れるよう、ぎりぎり当てない程度で弓を撃って。ブラッドは正面から、サクラとエリックは回り込んで挟み撃ちよ!」

「「「「「「了解!」」」」」」


そうして私は教官に準備ができたことを伝えると、お互いが向かい合い、教官のコイントスで模擬戦は始まった。




だが結果はと言えば一方的な殲滅だった。


まず最初にブラッドが消された。

渾身の一撃はあっさり避けられ首に致命的なダメージを受けていた。


ブラッドがやられた瞬間を狙ってサクラが抜刀術を放つ。

桜花国に伝わる早さを追求した刀技だそうだ。


しかしその一撃も防がれる。しかも木刀でだ。

私はサクラの抜刀術が防がれるのを、ましてや木刀で受け止められるところ等見たことがない。

サクラが下がった瞬間、エレーナたちの魔法と矢が放たれる。

だけどその魔法も矢も、教官の振るう木刀で叩き潰されて消えてしまった。


そこでずっとチャンスをうかがっていたのだろう。

エリックが渾身の突きを放った。

だけどそれすらも避けられ、回避からそのまま攻撃に移った教官によってエリックは一撃を受け消えていった。


「何が魔法は使わないよ!しっかり身体強化してるじゃありませんか!!」


エレーナの言う通りだ。

どう考えても強化した人間の動きをしている。しかも武装強化まで使っている。

だがあっさりと教官はそれを否定した。


「失礼な奴だな。ちゃんと見てみろ、魔法なんて使ってないだろ。魔力の気配も流れも見えてないだろ?」

魔法が使える人間は、魔力コントロールが上達してくると他の魔力の動きを見て取れるようになる。

エレーナは教官の魔力を確認したのだろう。

だけどそのエレーナからは驚きの言葉しか出ていなかった。


「うっ、た、確かに・・・使ってませんわね。では今は強化も何もしてないっていうんですの?強化無しだなんてありえないわ!木刀で魔法を潰すだなんて!」

「そうだね、強化はしてるよ。木刀だけ。」

木刀だけ強化、しかし魔力ではない。

いったい何だというのだろうか。

私は混乱する頭の中を必死で整理し、アタッカーを二人も潰されてしまった現状自分が前に出るしかないと悟っていた。


サクラも私の横に来て武器を構え相手の出方をうかがっていた。

私達の後方では3人が魔法と弓を準備して次のアタックに備えた。


だけど次の瞬間!


「悪いがさっさと終わらせるぞ。」


教官が私達にそう告げると離れた場所から「斬撃」が飛んできた。

私はとっさにしゃがんでいた。

サクラは空中に逃げて回避したようだ。

だけど詠唱と弓を構えていたエレーナたち三人は咄嗟の事に対応できずにその「斬撃」をまともに喰らい、消えていった。


「い、今のも魔法じゃないって言うの!?」

私は思わず叫んでいた。


まるで風のウインドカッターのようだ。

しかしエレーナ達は魔力を見て取っていたはずだ。魔法が来るならわかるはず。

私は訳が分からなくなっていた。


「叫んでる暇なんてないぞ?」


その言葉にはっとすると、空中に逃げたサクラを追って教官がすでにサクラにダメージを負わせていた。

そのまま彼女は粒子になって消えていった。


この場に残ったのは私一人。怖い。目の前のこの人が怖い。


「さてあと一人。ささっと終わらせよう。」

彼は武器を構えることなく悠然と私に向かって歩き出すと私は恐怖に駆られ、彼に斬りかかっていた。


そんな私の一撃は届くはずもなく、あっさり受け止められる。

私は持てる限りの力を剣に込めて押し込む。が、ふっと力が抜ける。

彼が受け流したことに気付いた時には遅かった。


私の手に木刀を当てられ、私は剣を取り落した。

恐怖を抑え込んで私は彼を睨み返すことしかできなかった。


「これで終わりだ。」

彼がそう告げると私の意識は刈り取られた。



教官に私達は謝罪した。

悔しいし屈辱だったが彼の実力は本物だった。


認めるしかない。


教官は私達に説教を始めた。


「まあさっき言ったとおり相手を舐めて掛かった結果がこれだ。舐めるなと言われたが舐めていたのは君たちのほうだった訳だ。更に言わせてもらえれば、学園長というこの学園のトップがわざわざ俺を連れてきた時点で何かあるな?って察しろよ。君達さ〜、学園きってのエリートなんだろう?浅慮にも程があるぞ全く。」


全くその通りだ。

相手を侮った結果がこれだ。

正論過ぎて何も言えなくなる。


しかし戦闘中に彼が見せた技術は何なのだろうか。

聞いてみたいがなかなか言えない。他のみんなも同じようだった。


が、そこで手を挙げたものがいた。


サクラだ。


「あの、教官。質問があるのですが。」

「かまわないよ、えっと・・・・」

「サクラ・サギリと申します。教官のあの木刀を振ったときに飛んできた斬戟は一体何なのですか?あんなもの見たことがありません。」

「え、ああいうの見たことないの?あれは訓練すれば誰でも使える術だよ。秘伝の技でもなんでもないぞ。」


あれが秘伝ではない?誰でもできる?どう考えても私には思いつかない。


「あんなに凄まじい技だというのに!?」

「凄まじいと言うほどの物じゃない。それより君達に言っておくことがある。」

彼は私達を見渡すと、話し始めた。

「俺は俺のできる範囲で君らを指導する。まあ仕事だしね、全力で鍛えてやる。嫌なら辞めるなり、武術訓練の時間だけ他のクラスに移動してもらうなりしてもらっていい。学園長には伝えておくから。一晩考えて、明日また参加してくれ。じゃあな。いくぞジーク。」



そう告げて彼は訓練場から出ていった。








私は第1訓練場の前に立っていた。

結局私達のクラスから脱落するものは誰もいなかった。

言いたい事や不満に思うことはあったが、あの凄まじい技術を学べるかもしれない。そう思うと訓練が楽しみになってきた。


「アリシアちゃん、頑張ろうね!」

「ええ、私達もあの技術を身に着けて、今度は逆に教官をギャフンと言わせるわよ!」

「ギャフンって古いですわねえ・・・。」

「全くだ。」

「「全くですね、ブラッド様!」」

「ふっ・・・・。」


そうして私達は決意を新たにし、訓練場の扉を開けた。













中で目に見えないスピードで戦う教官と白い犬の姿があった。








私達はそっと扉を閉じた。

悪夢に始まりそっ閉じで終わる。なんだこれ。

ブラッドはいいところのお坊ちゃんどころではないのですが、身分を隠してます。

女生徒に人気なのはもちろん、腐女子にも人気な3人だったりします。




イクスとジーク。高速戦闘のその理由は一体?

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