衝撃のデビュタント
初投稿です。
ヒロインの未熟児で体が弱いという設定はシリアスっぽいですが、ライトで読みやすい内容にしたいと思っていますので、どうぞお付き合いください。
その日は、アーサリー伯爵家の令嬢であるわたし、ミシェルの初めての舞踏会、いわゆるデビュタントの日だった。月齢が足らず未熟児で生まれた娘のことをとても大切にしてくれている両親は、王都にあるタウンハウスで豪華な舞踏会を開いてくれ、お気に入りのデザイナーが作ってくれた真珠を散りばめられたドレスを着たわたしは、間違いなくその年デビュタントを迎えた少女の中で一番幸せだと思っていた。
その光景を目にする、そのときまでは……。
両親について回ってのあいさつに疲れたわたしは、デザートでも食べながら軽く休憩をするところだった。それは別になんてことのない思い付きで、そういう人たちのためにいくつか休憩室を用意しておくのが舞踏会では普通のことだった。
そう、だからわたしは悪くない。何度思い返しても、この日のわたしの行動に非は見当たらないのだ。
会場内で給仕をしていた使用人に声をかけてデザートを休憩室に運んでもらうようにお願いすると、中庭に面しているダンスホールから休憩室へ通じる廊下に出る。月が明るい夜で、わたしのように会場から休憩に出たであろう人々が、何人か中庭を散策しているのが見えた。
その中でふと、わたしは見知った姿を見かけた気がして、そっと庭がよく見える窓際に寄った。思った通り、舞踏会の途中ではぐれてしまった婚約者・デュークの姿がそこにはあった。彼がひとりだったら、「姿が見えないと思ったら外で休憩してたのね」なんて笑って迎えに行けただろう。
しかし、彼は何故か腕にどこかの令嬢を引っ付けていた。それは休憩に出たら偶然知り合いに出くわしたのでお話ししていた、などとは誤魔化せない距離感で、パーティのエスコートよりも近いその姿を見せられたら、ただのお友達などではないことは伺い知れた。
つまり端的に言って、ふたりは抱き合っていたのである。
わたしは中庭に面している部屋から外に出ると、回廊で音を立てないようそっと靴を脱いだ。そして、ふたりに気取られないように、けれど令嬢の顔を確認できる場所へと移動する。自分の家の庭だ。客人に気づかれないような隠れ場所などいくらでも思いついた。
「……私は、あなたが私を選んでくれるというから」
「わかっている、キャサリン。でも婚約は俺の一存では……」
さも自分は苦渋の選択をしているのだとでも言わんばかりに婚約者の顔は顰められる。どうやら彼らの間では、わたしがデビュタントを迎えるまでに婚約を解消する腹積もりだったようだ。パートナーとして社交界に出てしまえば、両家が婚約関係であることが知られてしまう。
そうなれば明らかにトラブルがあって別れたことになるから、少しでもダメージを減らしたかったのだろう。略奪婚なんて、どう考えてもイメージが悪いもんね。でも、その割にはデュークから婚約を解消したいというような打診を受けた覚えはない。
わたしは交わされる会話と自分の境遇がどうにもそぐわないことに首を傾げながら、そろりそろりとふたりの背後にある木陰に隠れた。
「そんなこと言って、ミシェルさまのことが惜しくなったんじゃないの?
今日のあの子、すごく可愛かったものね。真珠のついた真っ白のドレスが、まるで妖精みたいだったわ」
つんと拗ねたように見せるキャサリン。彼女は女性にしては背が高く、拗ねたような表情をしても可愛らしいというイメージにはならない。深い緑色のドレスは歳若い令嬢が着るには落ち着いた色合いで、だが着衣の上からでもわかるプロポーションの良さが、地味な色を円熟した色気に変えて見せていた。
(うーん……キャサリンって一体誰だったかしら? デビュタントの招待状を送った家門のご家族の中に、キャサリンという未婚のご令嬢はいなかったと思うのだけれど……)
一応、主催者なのだから招待客リストは何度も確認したし、出席予定の貴族たちの家族構成も頭に入れてある。誰かのパートナーとして参加していて、直接の招待客ではない可能性もなくもないけれど、ふたり揃って浮気という線は流石に考えたくもなかった。
5話目までは連続投稿、その後は平日二回(火曜と木曜)投稿するペースで進めたいと思っています。




