「いわくつき。」路地裏のどんつき
[第12話] 路地裏のどんつき
全国には、まだ昭和の雰囲気をそのまま残しているレトロな街が存在する。
さらに、昭和以前の明治時代の景色が残る場所も存在するらしい...。
私は、そんな昔ながらの街の風景を撮影するのが趣味で一眼レフを片手に全国各地をめぐっている...。
週末、昔の名残がそのまま生かされている有名な観光スポットに出掛けることにした。
電車で向かったはいいものの、駅からはだいぶ離れていて、バスは朝と夕方の2本のみ...。
よって、歩きだけが頼りの旅路になりそうだ...。
歩いて1時間...。
やっとの思いで目的の場所に到着した...。
建物は少しだけリノベーションしたような感じに見えるけど、外観は当時の面影を崩さないよう再建築したような作りで景観が保たれている...。
民家もあるけど、食堂や民宿も建ち並んでいる...。
「なんか風情があって落ち着くなぁ...」
少しだけ広い路地を歩いていると、ある路地裏に辿り着いた...。
そこは、 " どんつき " と呼ばれる
" 行き止まり " だった...。
どんつきまで行った所で足を止め、来た道を振り返ると、さっきと街の様子が違う...。
ついさっきまであったはずの食堂と民宿が無いのだ...。
この道は一本しかないんだから、道を間違えるはずがない...。
その景色には古びた民家だけが見えている...。
しかも道はアスファルトではなく、田舎の砂利道になっている...。
異次元に迷い込んだのかな?
携帯の地図機能で場所を確認すると、食堂と民宿の表示がなされている。
あと、おかしな事に携帯の電波は圏外...。
路地に入る前は確かに電波は3本立っていたのに...。
何か違和感を感じ、今いる場所を再度調べてみた...。
ちなみに地図機能は圏外でも調べられるので、確認してみた。
画面をタッチすると立て看板の画像がヒットした...。
文章を読んでみると、
" ここは戦国時代に武士が斬首された場所 " だと書いてあった...。
その人は大名に仕える側近であったが、最後に大名を裏切った為に処刑されてしまったと...。
しかし、裏切りは全くのデマで、反逆者による戦に勝つための作戦にハメられたのだ...。
よく辺りを見回してみると、大名の側近といわれていた武士の石碑が祀られていた...。
その周りには石が積んであるが今にも崩れそうなくらい不安定になっている...。
武士の無念は何か分かった気がした...。
しかし、それより気になるのは私自身が明らかに妙な空間の中にいる事だ...。
時空の歪みなのか、明らかに現代ではない空気感........。
そんな気持ちの中、石碑に手を合わせて祈りを捧げた...。
気になった石積みは安定するよう綺麗に面を整えた。
「あぁ〜、早く帰りたい!!」と目を閉じて暫くすると...。
景色はさっきと違い、現代に戻っていたのだ...。
「何だったんだ?あの時間は...。」
歩き疲れたせいで幻覚を見ていたのか?
いや、でも靴の裏には身に覚えの無い砂利が付いてるし...。
やはり別の時空に迷い込んでいたのは間違いない!!
とりあえず、この場から離れてみて一旦気持ちを落ち着かせよう...。
少し開けた広い道に出ると、明らかに自分が歩いて来たルートが見えていて安心できた。
あの場所だけやっぱり変だったけど、今は大丈夫だ...!
何だか安心したら、腹が...減った...。
「ちょうどお昼だし、食堂が近くにあるから食べて帰ろう!」
店に入るなり、レトロな雰囲気が広がり私の心を擽る...。
小豆色のテーブルに木製のイス...。
花柄のコップとレース柄の鍋敷き...。
懐かしの星座占い...。
(一回100円...。まだあったんだね...。)
ここだけ時が止まったかのように
時間がゆっくりと流れている...。
「なんだか落ち着くなぁ〜」
とりあえず、定番を注文。
「カツカレーとオムライス。あとクリームソーダ!!」
腹が減っては戦は出来ぬ!とい言わんばかりに、バクバクと食べ進め、歩き疲れた体にエネルギーを補充するのであった...。
食べ終わって満足したら、さっきの出来事がまるで嘘のように思えてきた。
「あんた、たくさん食べてありがとうね。どこから来たの?」
「私は都内からです」
「こんな所に何しに来たの?」
「街の特集記事を見たら雰囲気がとても魅力的に感じたので来ました」
「なんだか都会の景色に疲れちゃいまして」
「まぁ、ゆっくりしていきんしゃい」
「おかみさん、いや、お姉さん、
少し気になる事があるんです...」
「ここに来る前、この先にどんつきがあったんですが、あの場所だけ何か変なんです」
「妙に違和感というか異次元というか...」
「えっ!?あのどんつきに行ったの?」
「あそこは下手に行かない方がいいらしいわよ」
「あそこは武士の魂が眠っているの。石碑を見たでしょ?」
「あのどんつき周辺だけ、昔から " いわくつき " と言われていて、今になっては都市伝説なんだけどね」
「でも、それを知らずに石を崩したりしたら、姿を消されるらしいの。消えたと思ったら、体が斬られた状態で発見される噂が語り継がれているの」
「そうなんです。私、あそこで変な景色を見たんです」
「振り返ったら、民家しかなくて砂利道だったの」
「で、石碑に手を合わせた後、石が気になって綺麗に直してきたの」
「そしたら現在に戻れたみたいなんです」
「あんた、危なかったわねぇ〜」
「あそこで消えた人は大抵、面白半分で訪れた人ばかり」
「もしかしたら、武士の魂があんたを戦国時代にタイムスリップさせたかもしれないわね」
私の中では、" いわくつき " と呼ばれるのは物体や建物だけと思っていた...。
場所自体が " いわくつき " だなんて初めて体験したわ...。
そんな話をお姉さんとすると、食堂を後にした。
後に分かったことだが、タイムスリップ自体は無いらしい。霊によって霊が生前に見ていた記憶を見させられているだけらしいのだ。
では、消えたり、体を斬られる現象は一体何なのか?
永遠に理解は出来そうもない。
全てではないが、どんつきは人と同じで霊も通り道を塞がれてしまうと色んな霊が溜まりやすいとされているらしいのだ...。
そして、旅はこれくらいにしといて今日は帰ろうと決めた。
無事に帰宅すると、今日訪れた街の事をネットに掲載した。
すると反響があり、色んな声が寄せられた。
あの食堂についての記載があり、そこは食堂ではなく、ただの民家と紹介されていた...。
えーっ!?だって " 食堂 " って看板には書いてあったよ...!
まさかあの食堂にいた時間も異次元...?
な訳ない...。
地図検索すると建物が違う...。
確かに民家だ...。
違和感を覚えた私は急いで食堂にあの話を電話で聞いてみた...。
「最初は看板が小さくて目立たなくてお客が全然来なかったの。だから少し看板をデカくしたのよ」
「なんか変なタイミングで混乱させちゃったみたいだね」
ただ、ネットの情報が少し古いだけだったようだ...。
もう、記事の更新はきちんとして!と思った...。
とんだ勘違いだね...。
だが、あの体験のせいで少しトラウマになりそう...。
でもあんな体験したら、そう考えちゃうのも無理はない...。
これからは落ち着いて考えよう。
彼女はこれに懲りず、また古い街を撮影するため旅に出た...。
次の日は街道と呼ばれる有名な場所を訪れた。
江戸時代から続く老舗茶屋が立ち並び、建物は当時を再現するように新たに建て直したものもある。
特に、櫓や酒蔵が当時の面影を感じさせていて味わい深い...。
そして、野菜を洗っていたであろう小川が流れていて、小さな橋が架かる風景が続いている...。
なんだか風情があって心をくすぐる...。
しばらく歩くと、路地裏のどんつきに辿り着いた。
そこには立て看板が設置してあり、説明を読んでみた。
" ここは昔、百姓一揆が起きた地域で村人がどんつきに武士を追い込んだ末、反乱どころか逆に返り討ちに遭ってしまった。" という悲劇の話が書いてあった。
そこには、当時の村人の怒りと念がまだ眠っているという噂があり、どんつきの中央には慰霊碑が祀られている。
夜中になると、その人々の怒りの声が唸りをあげるといわれているらしい...。
そんな場所に遊び半分で近づいた者は、神隠しにあうという都市伝説がある...。
噂通り、 " いわくつき " かもしれない...。
しかも、不思議な体験をした人は大勢いるらしい。
特に真夜中、足を踏み入れると何人かの男達の声が入り乱れるように聞こえてくるらしい...。
「我が村は認めない...」
「おぬは、国の反逆者ゆえに始末せねばらなぬ...」
" カチン!カチン!" と攻防が続く音...。
最後は村人が叫び声とともに倒れる音...。
その音だけが、霊の姿が無いのに聞こえてくる...。
何かを伝えるために聞かせているといっても過言ではない...。
そんな都市伝説に遭遇しなければいいなと思いつつ、目的の写真撮影を始めることにした。
フラッシュを炊いた瞬間、何やら顔らしき物が見えたような気がした...。
撮影は枚数にして10枚ほどだが、
すぐに見返してみると、思った通り霊が映っている...。
それは、人魂のような丸い光がたくさん!!
明らかに霊現象だが、写真の確認をしていくうちに人魂が人影に変化していくのであった...。
やはり村人はここにいる...。
彼女は成仏を願って祈りを捧げることにした...。
すると、足元に手紙らしきものがどこからともなく落ちてきた...。
中身を読んでみると、古文だけに難しかったが、何とか解読できた。
その内容とは、
村人を裏切った役人の名前だった...。
" 我々村人は、農民改革の味方だと信じていた役人が金に目がくらみ裏切ったのを知っている。反対運動したら、我ら村人の明日はないかもしれない "
"我らは明日、戦に向かう "
" 最後の覚悟で、ここに反逆者の名を記す。あとは若人に任す "
と戦の前夜に書いたと思われる手紙だった。
その名は、今でも歴史の教科書にも出てくる資産家の名前だった...。
その末裔は、もちろん資産家だ。
その内容は現代において伏せられていて誰も過去を知らない...。
彼女は決めた...。
「私は村人の思いを現世に伝えるわ!」
村人の霊現象とともに、この手紙をネットに掲載した。
すると瞬く間に、世の中に知れ渡ることとなり、過去を知らない末裔はニュースを見て動き出した。
翌日、末裔の彼は手を合わせに現場の慰霊碑を訪れたのだ...。
その様子を私は物陰から写真撮影することにした。
写真をチェックすると、彼の体にはたくさんの手が纏わりつくように伸びている...。
その帰り道、彼は電車に飛び込んで自害するのであった。
翌日、その出来事がニュースに取り上げられた。
駅の防犯カメラには電車を待つ彼が映し出されており、突然何かに背中を押されたような映像が流れていた。
よく見ると、白く透けた手が彼の後ろにたくさん。
あの話を知っている私からすると、彼は自害したわけではないのは明らかだ...。
もちろん、ニュースでは急に飛び込んだと説明...。
霊のことには一切触れていないのだ...。
手が見えるのは霊感がある人だけなのかな?
きっと村人の霊が仇討ちをしたんだなと彼女は確信した。
その日から、 " どんつき " での霊現象は起きなくなったとされている。
彼女は、慰霊碑に再び訪れるが、
噂通り何も起こらない。
とても静かだ...。
私は、 " これで良かったのかな? " と思った。
一連の流れを知ってしまっただけに、恐ろしくて夜も眠れない日が続いてしまったのだ...。
村人は時を超え無念を晴らせたし、霊が彷徨うこともなくなったみたいだし、本当に平和になりつつあるのかな?
しかし、霊の仇討ちとはいえ、こんな結末を目にするとは思っていなかったので、少し胸が痛くなった...。
今度もし、路地裏のどんつきに遭遇して慰霊碑があったら、もう近づいくのはやめようと心に決めた。
こんな体験はもう懲り懲りだからね...。
後になって気付いたことだが、もともと霊感が無いのは確かだったが、色んな場所で " いわくつき " に出会ううちに霊感が身についたようなのだ。
そんな彼女は、これからも撮影は続けるが、深く足を踏み入れることはしないよう旅を続けるのであった...。