エピソード(2)
「……それで、友人を助けるために禁を犯して“力”を使ったというわけじゃな?」
「はい……お父様」
「まぁ、お主のしたことは確かに間違ってはおらん。が、規則は規則じゃ。我らがそれを蔑ろにするわけにはゆかぬ。分かっておるな?」
「はい……」
「……で、この後はどうするつもりじゃ?」
「この後……といいますと?」
「勝負は両者失格ということで流れた。ではかねてのお主の主張通り、悪魔と全面戦争でも始めるかの?」
「そ、それは……」
「ん?」
「……わたくしはもう、悪魔と争う気は……」
「ふむ、あの頑なだったお主がそこまで変われたというだけでも、今回の勝負はやって良かったということかの」
「…………」
「しかし困ったことになったのぅ」
「え?」
「お主のように悪魔との全面戦争を主張する若者は他にもおるんじゃ。一応この勝負に全てを委ねると約束させた手前、勝負が流れたとなったら衝突は避けられぬかもしれんのぅ」
「そんな……っ!」
「全面戦争を回避するには、この勝負に決着を付けるしかないのぅ」
「そ、それでは……!」
「……が、禁を犯したお主を人間界に戻すわけにはゆかぬ」
「そんな……では一体……」
「お主を戻すわけにはゆかぬが、ベルの方は恐らく戻ることになろうの」
「……っ!?」
「向こうが“力”を使ったのは、身内の不始末から人間を守るため。同じ規則違反でも、天使でありながら悪魔を助けるために“力”を使ったお主とは訳が違おう。何より向こうは悪魔ゆえ、我らと違ってそもそも規則に対してゆるゆるじゃしの」
「そんな……」
「めでたくベルがあの人間と結ばれれば、この勝負は悪魔側の勝利ということで丸く収まる、と」
「…………」
「後悔したか? 天使でありながら悪魔を助けたこと。それによって自分だけが罰せられるという不条理を」
「い、いえ……そのようなこと……」
「もちろん不条理は不条理ゆえ、異議を申し立てて本当にこの勝負をご破算にすることはできる。お主があの人間をベルに獲られたくないと望むなら、それもまた1つの選択肢じゃろう」
「タケル様……」
「不思議なものじゃのう。確かにターゲットを選定する際、ある種の力を感じる人間を選んだのは事実じゃが、こうもあの人間に惹かれてしまうとはの」
「……わたくしは、本気でタケル様をお慕い申し上げておりました。ですが、結局タケル様を振り向かせることはできませんでした。ベルがどう思っているのかは分かりませんが、そんなわたくしが他人の恋路を邪魔してまで、また天使と悪魔の全面戦争を招いてまで我を通すことなど……」
「ふむ、殊勝な心掛けじゃの。ではあの者のことは諦めるのじゃな」
「…………」
「どうなんじゃ?」
「うっ……うぅ……」
「泣くほど辛いなら無理せず我を通しても良いのではないか? 本当に手に入れたい愛があるのなら、全てを蹴散らして突き進むのも良かろう」
「そ……そんなこと……」
「……なんてな」
「……へ?」
「少々意地悪が過ぎたかのぅ。お主の必死な表情が可愛くて、な」
「あの……どういうことですの……?」




