第23話 天宮ミサキ(5)
この1週間、色々なことが……本当に色々なことがあった。
何から何まで信じられないようなことばかりで、きっと誰に話しても信じてもらえないようなことばかりで……
でもそんな非日常が、突然終わりを告げようとしていた。
化け物との戦いで倒れてしまった大和君の様子を見に行こうと思っていた私に、ミカエラさんとベルさんが急にお別れを言いに来たのだ。
何でも、もうこっちの世界にはいられないとのこと。
この時点でもう普通だったら何のことか分かんないだろうけど、2人の正体を知ってしまった今ではその言葉もすんなりと受け入れられる。
短い付き合いだったし、実際そんなに仲良くなったわけじゃないから、その時私はどういう言葉を掛けていいのか分からなかった。
でも、2人は凄く悲しそうな顔をしていたな……
それから2人は大和君が眠っている客間の方へ向かい、私もなんとなくその後を追った。
けど何だか一緒には入り辛くて、ふすまの陰から2人とイッチャンが話しているのを覗き見るような格好になっちゃった。
しばらくするとベルさんがイッチャンに抱き付いた。
ベルさん、本当にイッチャンのことが好きだったんだなぁ。
で、ミカエラさんは本気で大和君のことを……
私はイッチャンへの気持ちも大和君への気持ちも、どっちも負けているんじゃないかって思えてきた。
その後、部屋から出ていく2人と目が合うと、ミカエラさんは軽くこちらに会釈をして、ベルさんも軽く手を振ってくれた。
私は相変わらず掛ける言葉が見つからなくて、曖昧に頭を下げたり手を振ったりするだけだった。
これがもう二度と会えなくなる友達の見送り方なの?
ひょっとして私って、物凄く嫌な奴なのかも……
「ミサキ、いつまでコソコソと隠れてるつもり?」
2人の姿が見えなくなった後、軽く自己嫌悪に陥っていると、突然部屋の中からイッチャンに声を掛けられた
心臓が飛び出るかと思うほどびっくりして、思わず飛び上がっちゃった。
「い、イッチャン……なんで分かったの?」
おずおずとふすまの陰から顔だけを出すと、イッチャンのじと~っとした視線がこちらに向いていて、またすぐ引っ込めちゃった。
「いいから、さっさと入りなさい。いつまで私にこの男の介抱させてるつもりよ?」
イッチャンがペシっと大和君の額を叩いた。
大和君が小さく呻き声を上げる。
「い、いいいイッチャン……!」
私は慌てて這うように部屋の中に入った。
このまま放っておくと、イッチャンが何をするか分からない。
「それじゃ、後は任せたわよ。添い寝するなり寝込みを襲うなり好きにしなさい」
なっ……!?
何言ってるのイッチャン!
「冗談よ。ライバルもいなくなったことだし、アンタはアンタのペースでゆっくりやんなさい」
そう言ってイッチャンは部屋から出て行ってしまった。
そうか、ミカエラさんやベルさんに掛ける言葉が見つからなかったのは、きっと心のどこかで2人がいなくなることに安心したからだ。
最低だな、私……
こんな私が大和君に想いを打ち明けるなんて……
「……ミサキちゃん」
「えっ、は、はい!?」
さっきよりも更に強く自己嫌悪に陥っていると、不意に名前を呼ぶ声がした。
大和君が目を覚ましたんだと思ったけど、どうやら寝言のようだ。
夢の中では私のこと、名前で呼んでくれてるんだ。
なんか嬉しいような恥ずかしいような……
「大和君……」
よく見ると大和君の身体は擦り傷やアザだらけだ。
こんなになるまでイッチャンを助けるために頑張ってくれたんだね。
最近話すようになったってだけで、そんなに仲良くなったわけでもないのに。
そういう所は中学の時と変わってないよね。
ダメだ、やっぱり今の私なんかじゃ大和君と釣り合うわけないよ。
もっと、大和君に相応しい女の子にならないと――
「――なんて、とんちんかんな事考えてるんじゃないでしょうね?」
「ひぃ!」
し、心臓が飛び出るかと思った……今度こそ!
「い、イッチャン……? 出て行ったはずじゃ……」
「おじいちゃんが訊いてるのよ。もう時間も遅いし、今夜は泊まっていくかって」
あ、そういえばもうこんな時間……!
大和君はまだ当分起きそうにないよね。
「えっと……今日はもう帰るね」
どうせ家はすぐ近くだし、これ以上大和君の顔を見ているのも何だか辛い。
「……いいの? 今が絶好の告白チャンスなんじゃない?」
う……さっきは自分のペースでゆっくりって言ったじゃない……
「確かに言ったけど、今後どうなるのか分からないのよ。アンタはもう少し自分に自信を持ちなさい。どうせ大和タケルに比べて自分には優しさが足りないとか、とんちんかんな事考えてるんでしょ」
とんちんかんって2度言った!
でも見事に図星だから言い返せない……
「だって……私って凄く自分勝手で……」
「身勝手な人間は自分を身勝手なんて思わないものよ。だいたい、友達のために命掛けられる人間が優しくないわけないでしょ」
「そ、それは……でも、それを言ったら大和君なんて、そんなに仲良くないイッチャンのために命掛けたじゃない」
「……アンタ、それ本気で言ってる?」
え、それってどういうこと?
もしかして、イッチャンと大和君って……!
「なわけないでしょ」
うっ……でも、それじゃ一体……
「はぁ……もういいわ。どうせ今日はもうこの馬鹿は起きないだろうし、アンタは一旦家に帰って頭を冷やしなさい」
頭を冷やせって……私、そんなにのぼせ上がってる?
でもそうなのかも。
色んな事があり過ぎて、ちょっと……というかかなり混乱してるし。
だって天使とか悪魔とか悪霊とか、極めつけは後で聞いたけど魔王まで生で見ちゃったし。
「まぁ、どうするのかはアンタの自由だけど、中学の時みたいに後悔だけはするんじゃないわよ」
帰り際にイッチャンに言われた言葉を、私は家に帰る道の途中でずっと考えていた。
そうだ、中学の卒業式の日のような後悔だけはしたくない。
やっぱり明日、告白……は無理でも、少し……一歩でも踏み込んでみよう!
「よしっ! 頑張ろ!」
見上げた夜空には綺麗な満月が浮かんでいて、私はその月に向かって小さく拳を突き上げた。




