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第12話 巫イチコ(2)

――どうやら少しうとうとしていたようだ。

近くに置かれた松明が立てるパチパチという音に目を開けた私は、辺りを少し見回して自分の置かれた状況を再認識した。


私達は今、ウチの神社の中心に建てられた拝殿の中にいる。

私の目の前、拝殿の中心付近には一心不乱に祈祷を捧げている祖父の姿がある。

最近はずっと1人で拝殿に籠っていた祖父だけど、今日は朝から私も中に入ってずっとこの儀式を続けている。


「……おじいちゃん?」


「話しかけるでない。集中が乱れる」


そんなこと言ったって、もう何時間経ったかも分からないくらいここで黙ってじっとしているんだもの。

普段からあまり喋る方じゃない私でも、さすがにこの状況は辛くなってきたわ。


「……トイレ行ってきていい?」


「駄目じゃ! その結界から一歩たりとも出るでない!」


私の周りには注連縄(しめなわ)で囲われた結界が張ってある。

この畳一畳分程もない狭い空間に朝から閉じ込められ、食事はおろかトイレにも行かせてもらえない。

他の人が見たら間違いなく虐待だと思われて、児童相談所に通報されるでしょうね。


でも、祖父が意味もなくこんなことするわけない。

普段の姿からは想像できないけど、祖父はこの世界では知らない人はいないという程の祈祷師らしいのだ。

その祖父が何日も籠ってまで行う儀式――

何か得体の知れないことが起こっているのだろう。

それは分かる……分かるんだけど――


「ねぇ、どうして私、水着来てるわけ? しかもビキニだし」


私を囲っているのと同じ結界がこの拝殿自体にも施されている。

他にも祖父が着ている白束帯や祈りを捧げている神鏡、手に持っている大幣(おおぬさ)など、いかにも『それっぽい』もので溢れているというのに、私の格好だけ明らかに不自然だ。


「それは儂の趣味じゃ」


……なんか急に馬鹿らしくなってきた。

今まで見たこともない程真剣な表情の祖父に言われるがまま、こっちは学校までサボって付き合ってきたってのに。


何の連絡もしてないから、ミサキ心配してないかしら?

1人でもちゃんとあの輪の中に入って会話できてるかしら?


「……済まんな、イチコや」


もう黙ってここから立ち去ろうかと考え始めた時、初めて祖父から話しかけられた。


「……何? この恰好のこと?」


突然真剣なトーンになった祖父の声に、強い悔恨の念を感じて私は少し戸惑った。

無意識に核心から外れようとして、ズレた質問を返してしまう。


「儂の力が足りなかったばっかりに、お前の両親は……」


祖父の声は震えていた。

ここ数日漠然と抱えた不安が一気に膨らんでいく。


「ど……どういうことよ、それ?」


心がざわつく。

何だか急に息苦しくなってきた。


「じゃが、お前だけは必ず救ってみせる! たとえ儂の命に代えても……っ!」


「ちょっ……命って……っ!?」


何が何だか分からなくて、軽くパニックになる。

その瞬間、身体の中を何かが這い回るようなぞわぞわとした不快な感覚が全身を駆け巡った。


「うっ……く、うあぁあ……っ!」


一気に全身から汗が噴き出す。

身体から何かが引き剥がされるような感覚に、思わず私は呻き声を上げた。


「今まで黙っておって済まなんだ。じゃが、今日ここでお前を忌まわしい呪いから解放してやる!」


いや、ちょっと待って!

呪いって何!?

今私の身体から抜け出そうとしているのが呪いなの!?


「……15年振りか。今日こそ決着を付けてやるぞ」


傍らに置いた白鞘の刀を手に立ち上がった祖父が振り返る。

ギラリと光を放つ刀身が抜き放ち、その切っ先をこちらに向けて構えた祖父の眼には悲壮な覚悟が滲んでいた――

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