第11話 天宮ミサキ(2)
自分で言うのもなんだけど、最近の私は頑張っていると思う。
朝の身支度だっていつもより念入りにやってるし、身嗜みには随分気を遣っている。
大和君が女の子を見た目で判断するような人じゃないってことは分かってるけど(もしそうなら最初から私に勝ち目なんかないし)、少しでもいい印象を持ってもらうために鏡の前で笑顔の練習だってしてるんだから。
でも、やっぱり大和君の前だと緊張しちゃって上手くいかないなぁ……
会話は少しずつ増えてると思うけど、それでもまだ2人っきりで話したことはないし、とてもそんな勇気もない。
結局、イッチャンが助けてくれないと何もできないんだ私……
昨日だって、寺田君が変なこと言うものだからすごく焦っちゃって。
でもイッチャンに言わせると「なんであの時、少しでもアピールしなかったのよ」とのこと。
そうだよね……あの時「私の好きな人は大和君です!」なんて絶対に言えないけど、せめて大和君みたいな人がタイプだってアピールできれば良かったのかも……
「はぁ……」
思わず溜息が漏れる。
さっき購買で買ったサンドイッチを持ったまま、私は屋上へと続く階段の前で立ち尽くしていた。
ここ一週間、私とイッチャンはミカエラさん、ベルさん、そして大和君とその友達の寺田君と一緒に屋上でお昼を食べている。
最初はみんな購買でパンとかおにぎりとか買って屋上に上がっていたんだけど、最近になって大和君やミカエラさん、ベルさんはお弁当を持ってくるようなった。
大和君の妹さんが毎朝作ってくれるようになったらしいんだけど、おかげで3人は購買に寄ることなく真っ直ぐ屋上へ上がるようになっちゃった。
そこへ、後から私とイッチャンが合流する形になったんだけど……
「はぁ……」
あぁ、また溜息が。
なんで私がこんなところで呆然としているかというと、いつも一緒だったイッチャンが今日は学校を休んでいるのだ。
昨日は別に体調が悪そうには見えなかったけど、風邪でもひいたんだろうか。
ここ最近のイッチャンはどこか様子がおかしかったような気もするし、休み時間に送ったメールの返事も無いからちょっと心配だな。
でも、今私が直面している問題もなかなか深刻だ。
イッチャンがいないということは、私は1人であの輪の中に入っていかなければならないということ。
少しずつ話ができるようになったとは言っても、そのほとんどがイッチャンを介してのものばかりで、まだ自分から話しかけるのはちょっと気が引けちゃう。
最初から一緒にいたら良かったんだけど、後から輪の中に入っていくというのはどうしても、ね……
そういえば寺田君はどうなんだろ?
そう思って辺りを見回してみたけど寺田君の姿はない。
まぁ、たとえ見つけたとしても自分から声を掛けることはできそうにないけど……
「何やってるんだミサキ?」
3度目の溜息が漏れそうになった時、突然後ろから声を掛けられた。
「あ、ベルさん」
「屋上に行かないのか?」
地獄に仏とはまさにこのことだ。
……ベルさんは悪魔(?)らしいけど。
大和君達と一緒に屋上へ上がってたと思ってたけど、トイレにでも行ってたのかな。
「う、うん、一緒に行こ」
なんかもう、色々とぶっ飛んでるミカエラさんに比べれば、ベルさんはだいぶ話しやすい。
なんだかイッチャンとすごく仲良しみたいだし、同い年に見えない外見も理由のひとつかな。
「なぁ、ミサキ。今日はどうしてイチコ、学校に来てないんだ?」
「え?」
ああ、そうか。
ベルさんもイッチャンのこと心配しているのね。
本当にイッチャンのこと大切に思ってくれてるんだなぁ。
イッチャン、あんなだから結構誤解されやすくて、本当はとってもいいコなんだけど友達が少ないんだよね。
って、私も人のこと言えるほど多くないけど。
「えと、私も理由は分からないの。多分風邪か何かだと思うけど……」
とはいえ、イッチャンが風邪をひいてるところなんて、今まで見たことなかったっけ。
そう思ったら、私もどんどん心配になってきちゃった。
「……カゼって何だ?」
えっ、嘘!?
風邪を知らない!?
ひいたことないっていうなら分かるけど、風邪自体知らないなんて……!
あ、でもそっか。
ベルさん、どうみても日本人じゃないもんね。
日本語ペラペラだから忘れてたけど。
え~っと、風邪って英語でどういうんだっけ?
「えっと……風邪っていうのはね、病気のことで、熱が出たりして――」
「病気!? イチコ、病気なのか!?」
突然、ベルさんが血相を変えて私に詰め寄ってきた。
「イチコ、死んじゃうのか!?」
今にも泣き出しそうな表情のベルさん。
死ぬだなんて大袈裟だよ。
たかだか風邪くらいでそんな……
あれ?
でももし風邪じゃなかったら?
そうだよ、誰も風邪だなんて言ってないじゃない。
もしかしたら本当に重い病気にかかっちゃったのかも!
「よし、今からお見舞いに行こう!」
「えっ!?」
心の中でどんどん不安が大きくなってきた私の手を、ベルさんが突然引いた。
「知ってるぞ。病気の時はお見舞いに行くんだろ? ほら、早く行こう!」
「ちょっ、ちょっと待って! 今からはダメだよ。学校が終わってから、ね?」
取り乱すベルさんを必死に宥めているうちに、私も落ち着きを取り戻してきた。
そうよ、どうせ風邪かちょっとした体調不良に決まってる。
さすがに昨日の今日で命に関わる病気になんてかかるはずないよね。
「う~……分かった。じゃあ学校が終わったら、みんなでお見舞いに行こう」
「みんな?」
「アタイとミサキ、それとタケルだ」
あ、ミカエラさんは含まれないのね……
寺田君は……まぁいっか。
なんかイッチャン、物凄く嫌ってたし。
「よぅし! そうと決まれば早速みんなに話してくる!」
ベルさんが2段飛ばしで階段を駆け上がっていく。
「あっ! 待ってベルさん! 私も一緒に……!」
何だかおかしなことになってきたような気がする。
大和君は来てくれるのかな。
別にイッチャンと仲がいいわけじゃないし……
でも来てくれるといいな。
大和君と放課後も一緒にいるなんて、そういえば中学2年のあの時以来じゃない!




