第10話 寺田ケンジ(2)
「ねぇねぇ! みんなはさぁ、どんな男が好きなの?」
4人の美少女のガールズトークをぶった切って、面白爆弾を投下してやった。
「ななな、何言ってんだケンジ!?」
ふむ、案の定タケルが真っ赤な顔して慌てている。
もっともっと慌てるがいい。
だが、俺が本当に見たいリアクションは――
「えっ!? す、好きな男の人……っ!?」
タケルに負けず劣らず真っ赤な顔をしている天宮。
くそ、メチャクチャ可愛いじゃねーか。
予想通りのリアクションで満足なはずなんだけど、逆に可愛すぎてタケルに軽く殺意が沸いた。
これだけ可愛いんだから、引っ込み思案の性格を差し引いたって本来ならもっとたくさんの男に言い寄られたって不思議じゃないんだけど、それにはちょっとした理由がある。
「何、いきなり馬鹿な事言ってんのよゴミ」
ぐっ……
凍てつくような冷たい視線。
巫の『絶対零度の視線』が、俺に猛烈に突き刺さる。
この視線に撃沈された男は数知れず……
まったく、おさげに眼鏡っていうマニア受けする容姿な上に胸だってなかなかのもので、もうちょっと愛想良くすれば男が放っておかないのに。
そう、巫に撃沈された男共は、彼女に告白してそうなったわけではない。
目的は天宮の方だった。
しかし男共が実際に天宮に告る前に、その気配を察知した巫が先手を打って潰しているのだ。
何故そんなことをしているのか大体想像できるが、おかげで一部では天宮と巫はデキているのではと噂になっている。
「愚問ですわね。わたくしの好きな殿方は、もちろんタケル様に決まっておりますわ!」
ミカエラちゃんがここぞとばかりに眼を輝かせてタケルに抱き付こうとする。
しかし、両脇を固めたベルちゃんと巫によってその目論見は阻止されてしまった。
「ああん、もう。ベルはともかく、どうして巫さんまでわたくしの邪魔をなさるの?」
ミカエラちゃんも最近では最初の頃のようにタケルに自由に抱き付けない。
それはベルちゃんと巫がタッグを組んでことごとく阻止しているからだ。
「うるっさい! これ以上ベタベタさせるか! タケルはいずれアタイと結婚するんだよ!」
「いつもいつもそうやって邪魔してますけど、貴方は別にタケル様のことなんて何とも思ってないのでしょう?」
ベルちゃんもタケルの許嫁だと宣言しているが、確かにミカエラちゃんのようにタケルに対する好意を表に出しているわけではない。
しかし――
「う、ううううるさい! 別にこんな奴のことなんて……す、好きでもなんでもねーけど、許嫁なんだからアタイの所有物だ!」
この真っ赤になった顔を見れば、その本心は丸分かりだ。
ちくしょう、リア充爆発しろ!
「私は本当にこんな男のことなんてどうでもいいけど、目の前でイチャイチャされるのは目障りだわ」
うん、巫の言葉には一切の熱を感じない。
本気の本気でタケルのことなんて何とも思っていないようだ。
1人でもそういう女の子がいてほっとする。
ということはやっぱり天宮のサポートってところか。
随分と友達想いなんだなぁ。
マジでそっちのケがあったりして……
「何、気持ち悪い顔で見てんのよ生ゴミ」
ぐ、絶対零度の視線再び!
しかし、鉄の心臓と謳われた俺様の心はこんなことじゃあ挫けないぜ。
「じゃあさ、イチコちゃんの好きな男のタイプってどんなの?」
その凍り付いた表情も心も俺様が溶かしてやるぜ。
「……まずその気持ち悪い呼び方をやめなさい」
ま……まだだ。
まだこの程度じゃ俺の心は……
「少なくともアンタみたいな男じゃないことは確かよ、粗大ゴミ」
立て続けにゴミって3回言われた!?
しかも全部違うバリエーションで!
うぅ……5月の半ばだというのに凍死しそうだ。
誰か……俺の心を温めてくれ。
「巫さん? 殿方に対してそういう物言いは良くありませんわ」
おお!?
ここでまさかのミカエラちゃんからの優しい言葉!
何!?
もしかしたら一発逆転の大どんでん返し!?
「たとえゴミのような殿方でも、それを決して表に出さないのが女性の嗜みというものですわよ」
ミカエラちゃんまで!?
「なぁ……その、こいつはこんな感じだけどさ、悪い奴じゃないからそんなに嫌わないでくれないか」
おぉ、心の友よ!
やっぱり最後に頼れるのは親友だよな!
「お前にいなくなられると俺が困るんだよ。だからこれ以上引っ掻き回すようなことは言わないでくれよな」
そうか、そうだよな。
面白半分で場を乱すようなこと言ってゴメンな。
だが断る!
俺がここにいるのは、なぜかタケルばかりモテるという不条理をせめてぐっちゃぐちゃに引っ掻き回して楽しむためだ!
そのためなら女の子にどれだけ罵倒されようとも構わない!
「ごめん。やっぱりお前出ていけ」
はっはっは、つれないこと言うなよ親友!
これからもお前の一番近くで、このリアルラブコメを楽しませてもらうぜ!
「……と、その前に1つ確認しなきゃいけないことがあった」
「何だよいきなり……」
「お前さ、いつも昼は購買のパンだったのに、最近は弁当持ってくるようになってるよな?」
「それが何だ?」
「さっきミカエラちゃんとベルちゃんの弁当も見たんだけど、お前が食ってるのと同じ弁当だったんだが?」
「そりゃ、サラが4人分作ってくれてるからな。サラの奴、ミカエラやベルに料理を褒められてから、やたらと気合入れて料理するようになったんだよ」
ここで俺様の灰色の脳細胞が急速に動き出す。
タケルの妹のサラちゃんが作った弁当をミカエラちゃんやベルちゃんも持っているということは――
「……お前ら、もしかして一緒に暮らしてるわけ?」
「……成り行きで仕方なくそうなっちまったんだよ」
どんな成り行きだよ?
まさか、学校だけじゃなく家でも一緒だったとは……
「他の奴らには絶対言うんじゃねーぞ」
確かに、こんなことが他の男共に知れたらただじゃ済まないだろうな。
ミカエラちゃんとベルちゃんがタケルの親戚だといっても、さすがに同じ屋根の下で暮らしているとまでは思っていないからな。
しかしそんな状況で何の間違いも起こしていないなんて、お前本当に○○○付いてんのか?