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日和見主義だった俺が揉めすぎる演劇部で全国大会を目指したら青春すぎた  作者: 溝野 重賀
第6章 張り切る部活と春大会

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第184話 それを知るのは先の話

「そういうことなら早く言ってくれればいいのに」


「仕方ないだろ、部長様が沈黙は金って言うんだから」


 部活終わりの帰り道。俺が横で一緒に歩く樫田に文句を言う。

 すまし顔で答える樫田、そして後ろから大槻と山路が笑う。


「まぁ、なったものは仕方ないだろ」


「だねー、杉野自身もやるって言ったんだしー」


 他人事だと思って。

 俺は納得いっていないところもあるが、それでも口に出したことを曲げる気もない。


「分かっているよ。腹はくくってる」


「じゃあ、いいだろ」


「良くはない。シンプルに何で俺なんだろうっていう疑問はある」


 こういうのは、やっぱり椎名か増倉の仕事だろ。

 そんな視線を送ると、樫田は少し黙り込んでからゆっくりと口を開いた。


「俺も理由を聞いたわけじゃない。じゃないが……想像はつく」


 その言葉に、俺たち三人は樫田に注目する。

 樫田は真剣な表情で語りだす。


「きっと、いくつか理由があるんだとは思う。それは部長についてだったり現状についてだったりで、それを考慮した上でも杉野が言う通り、本来なら椎名か増倉が適任だ……けど、そうだな。誤解を恐れずに言うなら、今あの二人の評価はそこまで高くないだろう」


『……』


 俺たち三人はその言葉を否定できなかった。

 どことなく……そう。どことなく思っていたことを言語化された気分だった。

 そんな俺たちの心情を察したか、樫田は穏やかな声で話を続ける。


「いつから……いや、明確なのはきっと稽古中に椎名と増倉が喧嘩した時だろうな」


 忘れやしない。山路が辞めようとしていた時に起きたことだった。

 脳裏に、あの時の怒った轟先輩の表情がよぎる。


「そして椎名も増倉もここ最近で大きな変化をしている。まぁ、説明するまでもないか」


 沈黙する俺たちの反応から察したのだろう。樫田はそれ以上何も言わなかった。

 少しだけ重い空気が流れる中で、大槻が誰となく尋ねた。


「部長、誰になるんだろうな……?」


 その言葉に、俺は一人静かに胸が高鳴った。

 俺としては椎名を推さなきゃいけないはずなのに、上手く言葉が出なかった。

 後ろから山路が尋ねる。


「樫田はどう思うー?」


「さぁな。誰でもいい」


「んなことないだろ。お前が部長になる可能性だってあるんだから」


 樫田の答えに、すかさず大槻が突っかかる。

 確かにそうだ。男子の中で部長になることが出来るのは樫田だけだろう。

 困ったように「うーん」と唸りつつ樫田は歩みを止めなかった。


「俺はもう演出家という立場があるからな。誰が部長になっても、俺がすべきことはもう決まっている。それが例え俺自身が部長になったとしても、だ。俺の話より、杉野はどうなんだ?」


 横目でこっちを見ながら、樫田が聞いてきた。

 心を見透かされている気がした。

 逃げるように前を向きながら、それでも俺は正直に答えた。


「……俺は、椎名を部長にする」


「そうか」


 俺の答えに、樫田は満足げに一言そう頷いた。

 ただ、後ろの二人からどこか不安そうな雰囲気が漂ってきた。


「椎名。椎名ねぇ」


「……なるほどねー」


「なんだよ?」


 思わず振り返り二人を見る。

 大槻と山路は言いにくそうに口淀む。


「いや、さ。なんだ。俺がこういうこと言うの変かもしれないが……さっき樫田が言ってた通り最近の椎名は変わったきたじゃん? けど……」


「その、なんていうかさー。大人しい―? いや、悪い意味じゃなくてねー」


 ああ、そうか。

 二人が言いたいのはきっと、前に夏村から託されたことと一緒なのだろう。

 俺は素直に認める。


「いや、分かるよ。最近の椎名は、良くないな」


 そう断言すると三人は驚いた表情をした。

 自然と俺たちは立ち止まった。

 すぐそこが駅だというのに、ここでは終われないという感じだった。


「杉野がはっきりと言うとは思ってなかったな」


「まぁ、さすがに俺でも気づいているよ」


「そうか……どうするつもりなんだ?」


 樫田が率直に聞いてきた。

 その瞳には心配と同時に、演出家としての警戒を宿していた。

 大槻と山路は、俺の次の言葉を息呑んで見守る。

 俺は少し躊躇いを覚えながらも、はっきりと言う。


「何とかなる」


「なる? するじゃなくてか?」


「ああ、椎名の変化はきっと迷いの表れで、春大会で答えが出るだろうから」


「そうか……」


 樫田は難しい顔で考え込んだ。

 俺には言葉の意味をかみ砕いているように見えた。

 そして――。


「杉野。お前が言うならそれは合っているだろうが……分かっているのか? 春大会で答えが出るというのは田島も同じなんだぞ?」


「? ああ、そうだな?」


 いまいち樫田の言っていることが分からなかった。

 そんな俺の表情を見て、樫田は溜息をつく。


「……はぁ、まぁいい。お前自身もやってみないと分からないってことか」


「相変わらず、すげぇな」


「出たとこ勝負ってやつだー」


 大槻と山路は、意味が分かったのか樫田の側につく。

 訳も分からず不思議に思っていたが、誰も詳しく説明してくれなかった。

 そして、俺がその言葉の意味を理解したのは春大会当日のことだった。

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