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日和見主義だった俺が揉めすぎる演劇部で全国大会を目指したら青春すぎた  作者: 溝野 重賀
第5章 過ぎる部活と決意する者たち

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第151話 響き渡る彼の心情は

 みんなの視線が山路へ集まった。

 きっと夏村や椎名もうっすらと気づいているのだろう。何かがあることに。

 ただ一人、山路本人だけは白を切る。


「……何のことかな? 杉野」


「そうか。自分から言う気はないんだな」


「…………」


 誤魔化すようにぎこちなく笑う山路。

 そうだな。本来なら俺が答えに辿り着くことなんてなかったんだろうな。


「……この一週間さ。みんなと…………いや、演劇部のみんなといろんな話をしたんだ。俺の知らないこと、俺の思いもよらないこと、本当に色んなことだった」


 そう。思えば俺たち二年だけじゃない。先輩たちに助言をもらって、後輩たちにも相談して、それで色んなことに気づいて今、俺はここにいる。


「そん中で一人に聞かれたんだ。山路がいつから辞めることを考えていたのかって」


「それは……」


「いやさ。その時思ったんだ。盲点っていうか、山路がどうして辞めるのかの動機ばっか考えて、他のことをよく考えてなかったなって」


 山路の表情が少し険しくなる。

 構わず、俺は話を続ける。


「宣戦布告されたときから心のどっかにその気があったなら、その前から考えていたってことだろ? じゃあ、一体いつからか。そんでそんなに前から辞めるつもりだったのなら、どうして今まで辞めなかったのか。色々考えてさ」


 山路だけでなく、みんなの視線が俺へと集まる。

 胸が苦しくなる。視線が痛いんじゃない。山路を見て俺の辿り着いた結論が正しいと確信できたからだ。

 それでも俺は話を止めない。


「そんで、春大会の終わりに何があるのか、考えた」


 その一言に、山路は大きく表情を歪めた。

 そして俺は辿り着いた結論を山路にぶつける。




「山路、お前は先輩たちが引退するから辞めるんだろ?」




「え……」


 声を上げたのは女子たちだった。

 三人とも困惑したように山路と俺を見比べた。

 そりゃそうだ。この言葉だけじゃ山路がどうして辞めるかわからないだろう。

 だから俺は真実を口にしようとした。

 何かが止めとけって警告を出しているが、俺は気にしない。


「もっと明確に言おうか山路。お前は――「………めろ」え?」


「止めろって言ってんだよ!」


 一瞬の出来事だった。

 山路が叫び俺の胸ぐらを掴みかかった。

 反射的に身構えようとしたが、とっさのことに反応できず俺は背中から倒れこむ。全身に痛みを感じた。

 そして馬乗りになる形で山路が俺の上に乗る。

 視界の端で増倉が何かを言おうとするが、山路の叫びにかき消される。


「ちょっ――!」


「何でだよ! どうしてだ! どうしてこのまま静かに辞めさせてくれないんだ!」


 それは今日初めて出す山路の感情だった。

 鋭くなった瞳には、さっきまでの冷静さが嘘かと思うほどの熱が確かにある。

 山路の感情に対して、俺も持っている感情をぶつける。


「そんなの当たり前だろ!! さっきから聞いていれば何が端役だ! 何が共感できないだ! 悟ってんじゃねーぞ!」


「黙れよ! 頼むからこのまま静かに辞めさせてくれ!」


「ふざけんな! そんなの認められるわけないだろ!」


「ちょっと二人とも止めて! …………ねぇ樫田!」


 視界の外で増倉が樫田に助けを求める。

 だが、樫田は動かないだろう。

 吐息が聞こえるぐらい顔を近づけ、山路は俺を睨む。


「いいだろ! 別に嘘はついてない!」


「だからなおさら悪いんだろ! 何でだよ!? 俺たちは一緒に部活やってきた仲間だろ! ダチだろ! なのに何で本当の理由を言えないだよ!?」


「言えるわけないだろ!」


 俺の胸ぐらを握る山路の手が震えている。

 目の前の山路の表情は必死で、ぐつぐつとして怒りで一杯だった。


「だから何でだよ!? 分かんねーよ! 何で正直に言ってくれなかったんだよ!」


「杉野には分かんないよ! 僕がどんな気持ちで部活をしていたなんて!」


「分かんねーよ! 分かんねーから言えって言ってんだよ!」


「何様だよ!」


「そっちこそ!」


 俺に乗りながら山路は胸ぐらを掴んだ手を締めてくる。

 必死に抵抗しながら、俺は叫ぶ。


「俺が知った時どう思ったから分かるか!?」


「っ! 呆れたのか!? 怒ったのか!?」


「違ぇよ! 悲しかったんだよ! 樫田も大槻も知っていて、俺だけ知らないで! 友達なら知っていてもいいようなことを、俺だけが知らないで! 何でだよ山路!?」


「うるさい!」


「いいじゃねーか! 誰も笑わない! 誰も軽蔑しない!」


「黙れよ! そんなことは、そんなことは分かっているんだよ!」


「おま、分かっているなら――!?」


「ダチだからだよ!!」


「っ!」


 山路の咆哮(ほうこう)が教室中に響き渡った。

 俺の頬に、雫が落ちてくる。生温く重いその雫が何度も俺にぶつかってくる。


「ダチだから、仲間だから……言えなかったんだよ……」


 胸ぐらを絞めていた両手がゆっくりと離れていく。

 俺は呼吸を整えながら山路を見る。


「こんな不純な動機で、みんなと一緒にいたわけじゃないんだ…………でも、それでも、仕方ないだろ。僕にとってはどっちも大切なんだ……」


 かすれた声で山路が白状したのは葛藤だった。

 静まり返った中、山路はゆっくりと立ち上がった。

 視界が広くなる。大槻と樫田は辛そうな表情で立ち尽くし、女子たちは困惑と悲痛の入り混じった表情をしていた。


「……こうなったからには、ちゃんと話すよ」


 何かを決意したのか、何かを諦めたのか山路は呟く。

 みんなの視線を集めると、ゆっくりと話し出す。

 山路の内にある本当の動機を。


「僕はね、轟先輩のことが好きだったんだ」


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