二十四章 ハルミリオン城での騒動
目を覚ましたキシリアがいたのは自室のベッドの上で、側にはいつもの側近。
キリシアがぼやきます。
「タカル・ファ・グライス・・・」
はっと顔を変えたダリアンが、時は来たれりとぼやき、部屋を出ていきました。
それを見送るようにして姫は起き上がり、首をかしげます。
「夢だったのかしら・・・?」
さて、探し出された『タカル・ファ・グライス』は王宮に呼ばれました。
そして王様に対面する玉座の間にて、ファグライス・タミュに出会います。
第一のいいなずけと紹介されたタミュの側に、ウリズンがいます。
ウリズンはしきりに、首にさげた粗末なヒモでくくってある十字架を触っています。
そこに、姫の側近のダリアンが現れました。
王様は立派な椅子に座っていて、そして静かにうなずきました。
王様が言います。
「私の娘、姫キリシアの運命の相手は、タカル・ファ・グライスだと私は思う」
かしこまっていたタカルが発言をしたいと言います。
側には父兄の代わりであるポコナミもいます。
「姫の奇病を治すかもしれない方法を文献にて知りましてございます」
「なんと・・・それはどのようなものであるか」
少し困ったように、タカルがポコナミを見ました。
それを見て、タミュが叫びました。
「嘘を言おうとされているのではっ?合言葉の用意に姉君を見たとみたっ」
そうなのか?と王様が聞くとポコナミが答えます。
「違いますっ。きっと、言い出しにくいので不安だったのですっ」
タミュが続けます。
「なにか、第一いいなずけの我の不利になるような仕掛けかな?」
タカルが眉を寄せます。
「今さっきしか、あなたの存在を知らされてないのにですか?」
タミュが言います。
「はたしてそうだろうか?」
どういう意味だ?と王様。
そこに、ダリアンが進言を求めます。
王様がそれを許すと、ダリアンが言いました。
「タカル・ファ・グライスは生きておりますっ」
驚く面々に、タミュが胸を張って言います。
「いかにもっ」
「さすがだ、兄貴は正義だからきっとこんなふうに堂々としているんだっ」
ウリズンは喜びに、小さな身体で飛び跳ねます。
ふふん、とタミュはその様子を鼻で笑いました。
「ウリズンは本当はいいこだっ」と、部屋にいた家臣のひとりが言います。
幾人もがそれに賛同してうなずきました。
「本当は、ってどういうこと・・・?」
不安になったウリズンがタミュを見上げます。
「タカル・ファ・グライス」
そう言って、自分のことを示したタミュをウリズンが嬉しそうにします。
そこに、ダリアンが言います。
「タカル・ファ・グライスはふたりいますっ」
はっとした顔をしたタミュが、タカルに握手を求めます。
それをタカルが不思議そうにして、挨拶なのかと手を伸ばします。
ダリアンが続けました。
「本物のタカル・ファ・グライスは、シュガーホールと言う名前で物書きですっ」
場内が息を呑みます。
ひざをついたダリアンが、剣を自分の首元に突きつけます。
「この受けた天啓をこの命に代えてでも、王に報告いたしますっ」
「分かった。ダリアン、死なずともよい。剣をおさめなさい」
王様がそう言いますと、武官のひとりが部屋に入るなり、緊急だと声を透しました。
「血液検査で、タカル・ファ・グライスがまだ生きていることが分かりましたっ」
王様が嬉しそうにします。
「それで、どちらだ?」
「各地の献血所に連絡を入れました所、シュガーホールと言うサインが見つかりました」
「それならば、どうだと言うのだ?」
「この部屋に、シュガーホールと言う別名を持つタカル・ファ・グライスがいますっ」
タカルが呆然として、そして悲鳴をあげます。
いつの間にか側にいたウリズンが、十字架の隠し刃でタカルを刺したのです。
「なんてことをっ・・・」
なげいたポコナミを無理やり捕まえると、タミュは叫びました。
「実は我、シュガーホールと言う別名を持っているなりっ」
「はぁっ?」
「我は第一いいなずけなりぞっ」
嗚咽をもらして泣いたダリアンは、剣で自害をしようとします。
それを目の端で見たタカルが言います。
「ダリアン、その剣を下さいっ」
ダリアンはタカルが言っているのが分かると、剣を投げました。
投げられた剣のつかをつかみ取ったタカルは、それをタミュに向けます。
そしてタミュは、ポコナミを放しました。
「どういう意味?兄貴の本名はタカル・ファ・グライスじゃないの?
さっき、シュガーホールと言う別名を持ってるって、言ったじゃないか・・・」
ウリズンがぼやきます。
「僕がタカル・ファ・グライス、シュガーホールだっ。
荷物の中に、シュガーホールと言う名前でメモが残っているっ」
「調べよっ」とダリアン。
そこに、線の細い人影が入ってこようとしています。
ダリアンはこちらかしら、と、可憐な声の人影はぼやいています。
それに気づかず、タカルが続けます。
「それから、シュガーホールはふたりいますっ。同じ、タカルと言う名前ですっ」
玉座の間に入って来たのは、姫キリシアでした。
それに気づかず、タカルは続けます。
「僕は、グライス村出身ですっ」
場内が感嘆の声をもらします。
王様が言います。
「それで、姫の奇病を治す手立てとは、なんなのだ?」
「姫の気に入った奇特な血を持つ男との結婚です」
「それは誠か?」
「文献にはそう書いてありましたっ」
感動に声が出ない姫が、控えの者たちの間を歩いて来ます。
王はタカルに聞きました。
「お前は奇特な血か?」
「不思議な泉の水を飲んでいたので、特別な成分が血に入っているかもしれません」
「それで、姫に、タミュとシュガーホールと、どちらと結婚したいかたずねよう」
ぱっと明るい声が場内に響きました。
姫の声です。
「シュガーホールと結婚したいっ」
思わずふりむいたタカルは、血まみれです。
姫の姿を認めて、そしてタカルはその場に倒れました。
「もう、死んでもいいかもしれない・・・」
タミュはいいなずけから外れると言って、その場から逃げ出しました。
ウリズンを置いて。
そしてウリズンは本当の事情を知って、深く反省しました。




