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月花蜜水夜 ペリドティ・アルーア  作者: タカル・ファ・グライス
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十一章 アスカと言う朱い鳥 01



 タカルは、旅に目的をまだ持っていません。


 お金はとうぶんありますが、自分が何を求めているのか分からないのです。


 シュガーホールの彼の死が、まだタカルを悲しみにうつろがせていませす。

 

 タカルは、今まで自分がどんな作り話をしていたのか、忘れてしまっていました。


 なるべく身軽になろうと、少ない荷物ですが、その中にノートがあります。


 タカルは、シュガーホールの書き留めた『タカル話メモ』を開いてみました。


 ノートの最初にあったのは、アスカという朱い鳥、という題名のお話。



 =====

 

 雨の日、一羽の白い鳥がふと、自分はなぜ白いのだろうと思いました。


 空の色はこんなにも日ごとさまを変えるのに、と。


 そして雨は続き、白い鳥は思い出します。


 そう言えば、私は朝の空の色が、一番好きだ、と。


 その日、雨は夜のうちに止み、地面には朝の香りと水たまりがあります。


 水たまりに映った朝焼けを見て、白い鳥は思います。


 なんて素晴らしいことだろう、と。


 この水たまりの水を飲んだら、きっと私の羽根色は朝焼け色になるのかもしれない。


 アスカというその鳥は、朝焼けの映る水たまりの水を飲みました。


 するとどうでしょう、羽根色は綺麗な朱になりました。


 その鳥の子孫はみな羽根が朝焼け色。


 いつしかそのはじまりにあやかって、その種を「朱鳥」と呼ぶようになりましたとさ。


 =====



 この話を、献血をしながら話したタカル。


 いつもの担当医が、たびたびうなずきながら聞いてくれています。


「それは、本当に君が考えたの?」


「そのようなんです。親しいひとの死で、今、自分が誰なのかも分かりにくいけれど」


「それはしょうがないことだ」


 契約書にサインを求められ、タカルは困りました。


「僕はグライス村を出らから、タカル・ファ・グライスじゃないかもしれない」


「そういう場合、別の名前に母印を押してくれたらいいから」


「一体、僕は、誰であったらいいのか・・・」


 タカルはしばらく悩みました。


「タカル、だけでもいいんだよ?苗字を持たないひともいるし」


「そうだ、僕はシュガーホールを名乗ろうっ」


「ほう・・・どういう意味?」


「彼は見聞をしたいと言っていた。死んでしまった彼の代わりに僕が見聞するんだ」


「それは、結局のところ君のためになるのかい?」


「そうさ、きっと、だっ」


「うんうん、じゃあ、シュガーホールでいいと思うよ」


 タカルは契約書に『タカル・ファ・グライス』といつもの癖でサインをして、


 朱肉で母印を押しました。



「これから僕は、シュガーホール、だ」



 まだ心に残る悲しみで少しふらついているものの、光が差し輝きだしたようでした。

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