第十二話 その覚悟を問う
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「さあ、想定外の事態が起きるなんて当たり前だ。三人共、昨日一日考えて反省する時間はあったはずだぞ!」
俺の叱咤に三人の動揺はすぐに静まった。黙って見守っていてもよかったが、つい口を出してしまったのは、俺の甘さかな。
とはいえ、動揺していた三人の雰囲気が変わったのは事実。
ナンナは纏わりついてくる騎士人形の小さな剣による一撃をマント越しに体のあちこちに受けるが、それに何の反応も見せない。
(痛みを無視している? 擬人粘体だから痛覚が鈍いのか?)
ナンナはそのまま土精に向けて髪の鞭を振るって追い払い、ヴィアを背後に庇う位置で足を止める。
更にマントをはだけて右腕を出すと、そのまま騎士の人形を掴み、剣で何度も肌を刺されるのを無視していると、そのままズブズブと沼に沈むように騎士人形がナンナの腕の中に沈んでゆく。瞬く間に騎士人形は胸から下を飲まれて動きが取れなくなった。
(なるほど、ナンナならではの拘束技だな)
しかし、俺を驚かせたのはそこから先のナンナとヴィアの行動だった。ナンナが騎士人形を飲み込んだ右腕を横に伸ばすと、そこへ目掛けてヴィアが詠唱破棄した魔法を放ったのだ!
「『衝撃波』!」
ヴィアの突き出した右腕から放たれた不可視の『衝撃波』は下級魔法の一つで、詠唱破棄によって行使されたのと合わせれば大した威力を持たない。
だから良い。擬人粘体であるナンナは衝撃には滅法強い事も合わせて、『衝撃波』が命中しても痛くも痒くもないだろう。
しかし騎士人形は違う。拙い俺の技術で制作された騎士人形は、『衝撃波』を浴びて胸から上が木端微塵になった。一連の躊躇のない動きに、思わず俺はぽつりと呟いていた。
「予め打ち合わせていた動きだな」
この間の魔妖精や武装蜂、今回の騎士人形のような小さな相手が出てきた時の対応だろう。それ以外にも色々と考えてきたに違いない。
ナンナは右腕が大きく震えるのを無視して、ぐるぐると周囲を旋回している土精に向けて髪の鞭を振るって近づいてこないよう牽制している。
土精は自らを構成する土を固めて、石礫を放つ準備に入っていた。一発一発は小石程度の大きさだが、土精の魔力を帯びた石礫は中々に痛い。頭に当たった場合、当たり所次第では気絶する事もあり得る。
さあ、どうする、と見ている俺の前で、泥の巨像の相手をしていたミラの投げた戦斧が勢いよく回転しながら土精に命中し、中心部にある光の核を叩き割る。
「ヴィア!」
戦斧を投げた姿勢のミラは、その右脇に泥の巨像を抱えていた。単純な膂力ならミラの方がはるかに上回るから、泥の巨像はどれだけもがいても脱出できずにいる。
ミラはそのまま泥の巨像の腰を掴んで、まるで幼子のように持ち上げてヴィアへと向けた。
「以心伝心なれば、闇よ、撃ち抜け! 『闇黒魔弾』!!」
魔導書から放たれた闇黒の弾丸は、ミラの怪力で拘束された泥の巨像の上半身を綺麗に吹き飛ばした。その代わり、形を維持できなくなった泥の巨像がそのまま泥に戻った所為で、ミラが顔面から被る羽目になったが。
「わぷ!?」
可愛い悲鳴を上げるミラが、この訓練中で一番被害が大きかったかもしれないな。俺はパン! と両手を叩いて三人の意識を引き付けた。
「よくやった。最初の訓練は終了だな。まずはミラの顔を綺麗にするところから始めようか」
「はい。そうしていただけると大変助かります……」
「おお、同胞よ。汝の輝きを覆う泥濘に災いあれ」
「ん。お水」
ミラの顔面の泥を拭い、三人の呼吸が整うのを待ってから、俺は最初の訓練で見せた三人の動きについて意見を述べる事とした。
「さて、まずは三人共お疲れ様。最初に相手が泥の巨像だけだと思い込んでいたのは残念だが、人形が出てくる頃には持ち直せていたな。立ち直りの早さは良かったと思うぞ」
最初からそう出来ているのが一番だったけど、それはこれから出来るように訓練を重ねればいい話だ。
「ありがとうございます。すぐに立ち直せたのは、ユーゴさんに発破をかけて頂いたからこそです。泥の巨像ばかりと油断したのは情けないばかりですが、それにしてもユーゴさんが三つの【技能】を同時に使われるなんて、本当に驚きました。
泥の巨像の後に土の精霊を召喚しただけでも驚き出来したのに、傀儡までも操るなんておみそれしました」
「ミラ、それは褒め過ぎだよ」
「君達にはさぞや凄い技術だと見えたのかもしれないが、全て下級職の【技能】が使える【冒険者】なら、鍛えさえすれば誰だって出来る。
まあ、俺ほど【冒険者】を鍛えた奴も他にはいないだろうけどさ。五年間も万年下級職の奴なんて、俺以外に聞いたこともないからな。
それに【冒険者】が他の【職業】の【技能】が使えると言っても、本家と比べれば習得に時間が掛かるし、同じ手間をかけても得られる効果は小さい。
確かに三つ同時に使いこなしては見せたが、一つ一つを見れば本家の【職業】の人間からすれば鼻で笑うようなものさ」
「否! 教導者よ、同胞の言葉に偽りはない。我もまた汝の天上の美技を称賛せん! 泥人形に仮初の命を与え、土の精を召喚し、更には小さき騎士を操って我らの虚を突き、意を動転させる絶技!
いかに万能たる【冒険者】といえども異なる系統樹の三つの技を協調し、調和せし合奏となさしめるとはどうして感嘆せずにおられようか。もはや我に言葉はない!」
「ああ、まあ、なんだ。褒めてもらって悪い気はしないが、このままじゃ訓練の続きが出来ないからな。悪いが褒めてくれるのはそこまでにしておいてくれ。さて、話を戻すが」
「ユーゴ、照れてる?」
ナンナ、それを言わないでくれ。
「少しだけな? さて、さっきの戦闘からも分かる通り、自覚をしていても君達は予想外の事態が起きると、そこからの立て直しにどうにも時間が掛かる。
俺が声を掛けてからの立ち回りを見るに、いくつかの状況を想定して打ち合わせはしたみたいだが、理想は完全な想定外に陥っても、言葉を交わすまでもなく対応できるようになる事だ」
「はるか彼方の道行き。しかし如何なる遠大なる旅路も、栄光の待つ冒険も、全ては踏み出す事によって始まる。そうであろう、教導者よ」
「ヴィアの言う通りだ。ボルフ大洞穴攻略の為にも、千歩掛かる道の第一歩を踏み出すとしよう。具体的にはさっきの訓練をぶっ続けでやるぞ。厳しくいくぞ」
さっきは泥の巨像、土精、騎士人形の組み合わせだったが、これを色々と組み替えて行けばいくらでも訓練相手を変えられるし、そこに俺も加わって数の上でも不利な状況を作れば、彼女らにはますます厳しい訓練を課せられる。
連携が取れるようになってゆけば、訓練所を移ってボルフ大洞穴を想定した場所で行う段階に移れる。
「正直、今の三人でもかなりゴリ押しにはなるが、ボルフ大洞穴自体は攻略できるだろう。だが、相当の傷は負うだろうし、金銭面でも実入りはよくない。
今後も生涯冒険者で居続けるなら、ボルフ大洞穴を無傷で攻略するくらいの気概でないと、話にもならないぞ。俺も出来る限りのことをする。だが、なによりも大切なのは三人の気持ちだ。いけるか?」
俺の問いかけに対する三人の答えは、言うまでもなかったろう。
お読みいただきありがとうございました。
どうでしょう、もっとスピーディーな展開がよいものなのでしょうか。私的にはかなり描写を削っているのですが・・・・・・ポイントや感想にてご意見お待ちしております。




